件名 就業時間外の過ごし方について(2)

ある文化圏内では当たり前のことが、その文化圏を一歩離れるとじぇーんじぇーん当たり前ではなくなることが実はざらにあるのですが、その文化圏内のみを生活圏とする人が、それが世界的な常識ではない事に気が付くことは非常に難しく、たぶん、まぁ、ほぼ無理なのである。で、「私の考えは世界の常識である」と失考してしまう。「なぜならば私の周りは皆同じように考え、ふるまっている」という理由で。

さて今回は、ある文化圏のみでの常識が、あたかも世界の常識であると信じ切ってしまう“生息場所のバイアス”の例を紹介しよう。今回もかなりシリアスだ!!

昨今の広島カープの大躍進は、広島市民・広島県民を鼓舞し、その結果として私たちの生活は広島カープを中心に回り始め、身の回りにあるどんな些細なことでも、何が何でも広島カープと結びつけようとする事態に陥っている。例えば、卒業式の式辞や入学式の祝辞(これらは決して“些細な事”ではありません。ご卒業、ご入学おめでとう!)、こういった場面で、誰一人カープについて触れないという学校は、広島にはほぼ無いだろう。そう。誰かが必ず言う。

「皆さんも、広島カープのように頑張ってください」

と……もし誰も言わないのならば、私がそう言ってやろう!そして、私は広島市民としてこの状況にとても満足している。

で、今や春から時間が移ろい運動会シーズンたけなわなのだけれども、運動会もしかりなのである。広島の運動会は、かなり広島カープの癖が強い。

これは我が娘が通う小学校での出来事だ!小学生一年生の競技は、ただ単に体を動かすだけではなく、様々な志向が凝らされていて、それは勝負というよりはむしろ、楽しむことに主眼が置かれているほどであった。

で、その競技内容なのだが、赤いユニフォームっぽいものを着た1年生が、スタートの撃鉄とともにバッターボックス的なものまで走って行って、そこに落ちているバット的な棒をひらい、トスバッティンッグをして、ボールが前に飛んだら、バット的な棒を放り投げ、お立ち台的なところに向かって走り出し、お立ち台的なところに上がるや否や
「さいこーでーす」
と叫び、ゴールテープを切るという、いかにも広島カープっぽい、おたふくソース味の障害物競走なのである。

で、広島の人には断る必要はないほど知名度抜群の
「さいこーでーす」
なのだが、一応解説しておくと、この
「さいこーでーす」
は、カープの不動の四番、鈴木せーや選手のヒーローインタビューでの決まり文句で、お立ち台で彼が、「さいこーでーす」と叫び、その後、だれかから(本人含む)バケツの水をかけられることで、マツダズームズームスタジアムは最高潮に真っ赤に燃え上がる制度になっているのである。で、この制度は広島市民には当たり前すぎて、世界の常識、これを知らない人など世界中にいるはずもないと受け止められているんだけれども、しかしその実驚くなかれ、広島県を超えると、ほとんど誰もこんなこと知らないのである!どう、びっくりした?

で、運動会のお客様なのですが、県内に限っているわけではない。県外から来ている、孫の勇士を見に来たおじいちゃん・おばあちゃんもたくさんいらっしゃる。で、県外在住のおじいちゃんなどは、この競技を見るにつけ、「うちの孫は、なんで叫んどるんかねぇ?それで、なんて叫けんどるんかねぇ?」になるのである。

こういった場面で、よくできた後ろの席のお母さんは、

「おじいちゃん、『さいこーでーす』は、広島における『必死のパッチ』よぉ!」

と解説しておった。そういえば、確かに関西では知らぬ者はおらぬ「必死のパッチ」なんだけど、広島で知っている人は結構少ないんじゃないだろうか?「必死のパッチ」ってなんじゃぁ?と思った広島市民にみなさん。その気持ちが多分、広島県外の人が持つ「さいこーでーす」に対する気持ちだ!

たぶん、この手のプロ野球ネタは、12球団の数だけ存在するんだろうね。

アディオス!

2018年09月26日