件名 職業訓練について

昔から、餅は餅屋、なんていうように、仕事を頼むなら、それを専門する人に任せるのが一番であり、それほど専門職に従事する方、つまり職人の技量は素晴らしいことを示しており、常人がそれを目の当たりにしようものならば、その洗練された腕前にほれぼれさせられ、これは、昔も今も変わらないのである。

で、最近、そう言った職人技に完膚なきまでに魅了されてしまったので、その体験をお分けしようかと思う。

運動会シーズンのたけなわの頃、下の娘は運動会で踊る踊りのマスターに躍起になっていた。で、学校での踊りの練習だけでは不十分と判断した娘は、おうちでも踊りの練習に努めたいのではあるものの、そのためには踊りの音源を入手しなければ、どうにも盛り上がりに欠けてしまい、踊りに身が入らないのだと言う。

確かにこれは一理あり、まっとうな主張である。しかるに、踊りにはそれ相応の音楽が必要であり、音楽と踊りが同調することで、我々は踊りと音楽の本当の喜びを知るからである。これは例えば、盆踊り等々のすべての踊りに共通することであり、無音で踊り狂うというのは、あまりポピュラーではない。

「よっしゃー、パパが音楽を手に入れてやるから、安心しんさい。で、なんて歌なん?」

と娘に聞くと、娘は、歌の名前は存じ上げないという。ただ、歌を特定するいくつかのヒントは持っており、それは、「ドラえもんの歌である」と「365日、つまり1年の日々をうたいつづっていること」である。そこでもう少しヒントを引き出すために、娘に

「試しに一節歌ってみんさい」

というと、娘は恥ずかしがりながらも、

「さーんびゃくろくーじゅうごにちー、いつでもー、いけるさー」

と歌ってくれた。なるほど、365日、1年をつづった歌であることがわかった。365日いつでも行けることから、年中無休、つまりコンビニ的などこかに行ける、という歌であろう。さすれば、「ドラえもん 一年 歌」 でヤホーで検索すれば一発である。

そこで、実際にヤホーでの歌の特定作業に入ったのだが、全然見つからない。娘は、「さっき「安心せい」なんて言っておきながら、このおっさん、ほんと、使えんなぁ」、とは全く言わないけど、そういう顔をしておった。

完全に追い込まれた私は、助けを求めることにした。一人で考え、行き詰まった場合、大概、誰かに相談すれば難なく解決できるのである。ただし、ここで一番の問題は、ふさわしい相手に相談することである。

もちろん、ふさわしい相手とは、それ生業としておる人。つまりこの場合は音楽の玄人、すなわち音楽職人である。私はまごうことなく、最寄りのレンタルショップに向かった。娘を連れて。

で、レンタルショップ店員に「ドラえもんの挿入歌で、1年の日々をつづった歌を探しているのですが、心当たりはありますか?」と聞き込み調査を敢行した。調査対象となったのは、まぁまぁ若めの女の人だったが、客商売にしては、すこし愛嬌というか、愛想が足りない感じの人であった。

しかし、意外にもその女性は「残念ながら、思い浮かびません。ほかに情報はございませんか?」とけっこう親身になって相談に乗ってくれるのである。そこで娘に、

「歌え。今、歌えや。家で歌ったの、今歌え。」

と小声かつ低めの声で命令したのではあるが、娘はこともあろうか、この場で歌うことを断固として拒否しよった。最高のヒントになろうものを。。。そこで、腹をくくり、私が歌うことにした。私の歌声は、意外にも悪くない。で、娘がおうちで歌った通りの旋律で

「さーんびゃくろくーじゅうごにちー、いつでもー、いけるさー」

と、歌うと、歌い終わるかどうかのタイミングで、その女性は、

「お客さまっ!うけたまわりましたっ!」

と言って、CDを探しに店内に消えていった。そしてほどなくして数枚のCDを手にした彼女が戻ってきた。

彼女が言うには、その歌はほぼ間違いなく、miwaという人が歌っている歌であり、映画の主題歌になったがため、多くのCDに収録されているという代物で、例えばこのシングルCDでは、いくつかのバージョンが楽しめるだけでなく、なんとカラオケまでもたしなむことができるという創意工夫がなされている、とか、こっちのアルバムは、その歌自体は1曲しか入っていないが、それ以外の映画の挿入歌も網羅されている、とかいった類の、それぞれのCDの差別化される特色まで説明してくれる。

その説明を聞くにつれ 彼女の音楽に対する造詣の深さに打ち震え、知らない間に涙が頬を伝ったのである。これぞ、職人。これぞ、玄人。

娘はほしかったものが手に入り、始終ニコニコしておった。二人でお礼を申し上げると、この女性は、最初の不愛想な感じに戻り、そそくさとほかの業務に移っていった。まさに絵にかいたような、想像通りの職人であった。

日本には、職人がいる。頼もしい職人がいる。こんな素晴らしい国に、生まれ育ち、本当によかったと思いながら、娘とニコニコしながら、帰路についた。

なお、うちについてからCDを聞くと、店員の見立ては激しく正しく、娘がほしがっていた曲そのものであったのだが、残念であったのは、その歌は1年をつづったものでなく、どこでも行ける、制約はない、という自由を歌ったもので、365日ではなく、

「さーんびゃくろくーじゅうーど、どこでもー、いけるさー」

と言うサビの、360度が正解であった。店員さん、よくわかったな。さすが、職人!

アディオス!

2017年10月17日