私とインドネシア人の友人の二人は、無言で目の前の反物を凝視していた。
反物は、インドネシアでシンポジウムを盛り上げた功績で貢がれた宝物であった。まぁ、参加賞。
貢がれるときに、「シルク」の反物と言われた。「シルク」の部分を強調して。
無言で反物を凝視していると、インドネシア人が
「山田さん、私は、これがシルクだと信じていいのか、正直、悩んでおります」
と言いよった。
「シルクは高いですよ。そんなもの、本当にくれると思いますか? これはシルクの振りをしたシルクではない何ものかだと思ったほうが、正しいのではないでしょうか?
私はインドネシア人だから分かります。インドネシア人は簡単にはシルクを人にあげません」
結構、強かった。言い草が。
「まぁ、どうでもいいかな。本ものでも偽ものでも。 私、区別できないし」と思っていたところ、インドネシア人が、
「実は、私は本物と偽者を見抜く方法を知っております。これから確かめてみましょう」
などと、言い出すのである。これはなんだか面白い。どっちに転がっても笑えそうだ。
「ちょっと燃やしてみましょう。ケミカルが入ってる偽者と、そうでない本物では全く燃え方が異なります。この方法は、反物屋をやっている私の親戚が教えてくれたものです」
「反物屋の親戚なんかいるのかよ!?」と驚きながら、「結構ちゃんとした確かめ方知ってるじゃーん」と感心した。さすが、大学の先生だけはある。
で、彼は反物の耳から糸を少しだけ引き抜いて、実験材料を調達した。私の反物のほうから……
で、百円ライターでそいつを燃やした。結構簡単に燃えて、なくなってしまった。
……判定はどうなのだろう? とインドネシア人のほうを見ると、やや動揺しながら、
「これは、本物です」
などと言いよる。で、燃やしたところまでは一緒に見ていたのだけれども、これのどこが本物の所以なのか正直、さっぱり分からない。本物の根拠はどこにあるのだろうか? そこで
「なんで、本物なの?」
とストレートに聞いてみた。すると、ストレートに分かりやすく、これが本物である所以を解説してくれた。
「私は燃やせば本物と偽者の区別がつくところまでは覚えていたのですが、とても残念ですが、燃え方を見てどのように判定するか、完全に忘れていました。忘れていたことに、燃やしてから気がつきました。だから、もう、なんだかめんどくさくなったので、本物だということにしました」
……まぁ、本物だって言うことにしていいんだけど、燃やす前に、燃やしても無駄だって、普通、思い出すじゃろ。
アディオス