件名 海外視察について(22)ベトナム
ツイは、今話題のカラテカの入江みたいな顔をしておる。髪型もかなり入江に寄せておる。
ツイは、いつも笑っている。笑いながら、かなりきわどいことを言う。笑いながら、強く否定もする。そして、言った後は、決まって笑ってごまかす。
で、ちょっと個人的な希望があったので、ツイにお願いしてみることにした。
「わしゃ、こっちきて、まだサンドイッチ食べてないけぇ、どっかでサンドイッチ食べようや」
我ながら素晴らしい提案だ。ベトナムの名物料理と言うと、サンドイッチ、それを食べずには帰国はできない。するとツイは、
「バインミーね。(どうやら、ベトナムのサンドイッチはバインミーと言うらしい)」
と言ったかと思うと、笑いながら、
「バインミーじゃないよ。ブンチャ食べましょうよ。ブンチャおいしいよー」
と、バインミーを完全否定した後、すぐさにブンチャなる謎料理を強烈に、笑いながら推してくる。ここで引き下がったら、謎料理を食べさせられる。バインミーは却下だ……まぁ、ブンチャもおいしいんだろうけど。そこで、強気に
「ブンチャ知らねぇし。バインミー食べようや。バインミー」
と再提案すると、ツイは、もう聞こえないふりをする。聞こえないはずはないのだが、返事はない。どうやら、私はバインミーを逃しただけでなく、ブンチャさえも手に入れられなかったらしい。
次の日のお昼、ツイはおもむろに、
「バインミー食べたいならいいよ。連れて行ってやるよ」
と行列ができるバインミー屋に連れて行ってくれた。
行列に並びながら
「バインミーたーべたい。バインミーたーべたい」
と振り付きでパンケーキの替え歌を歌ってやった。ツイは、こっちを見ないようにしていた。
行列のできるバインミー屋のバインミーは、少し辛目で(唐辛子が効いている)、めちゃくちゃおいしかった。
ツイはバインミーを食べないので、食べないのか?何故食べないのか?と聞くと、
「私はコメが好き」
と教えてくれた。好物はコメらしい。パンは嫌いらしい。
私のために嫌いなバインミー屋に連れてきてくれるベトナムの入江は、かなりいいやつである。
アディオス