娘と塾から帰る途中、大概、娘のほうから
「で、今日は行くん?」
と聞いてきよる。私としても、彼女が早く帰って復習しなければならない身であることは重々理解しておるのであるが、「帰って復習するんだったら、と言う条件付きで(まぁ、この条件は、毎度のことだが反故にされるのだが)、行くのを認めよう」とつい答えてしまう。行ってはいけないと分かっていながらも、行かずにはいられない。親子が向かおうとしているのは、それぐらいの魅力が放たれている場所なのである。
で、この親子をひきつける魅力を放ちまくっているのは、公園である。公園というか、そこにある鉄棒である。サードルーチーンは、鉄棒。
娘が手に入れようと躍起になっているのは、"前方支持回転"である。まぁ、普通、前方支持回転といわれても、さっぱり分からないと思うので、それはヤホーで検索していただけたらと思っておる。
まぁ、そういってもヤホーで検索してくれない人もいると思うので、前方支持回転を平たく言っておくと、それは子供には結構難しめな技で、逆上がりの次に入手すべきスキルである。で、彼女はこの力を手に入れようと練習に勤しんでおるわけだが、そこには親である私も耳を疑う驚愕の理由が隠されておった。つまり
「小学4年生ではまだ誰も前方支持回転できないの。だから、私が一番にできるようになってやるの!」
である。エリート思考。これはエリートのみがもつことを許された考え方であり、もしかしたらそういう考え方があることはうすうす感づいてはいたものの、残念ながら自分の短からず人生の中で、自分はそんなエリート思考を一度たりとも思いついたこともないので、そういったものは、仮想的な、いわば机上の空論で、遭遇することもほぼない、幻の思考だと信じ込んでいた。
その幻の思考を、まごうことなく娘が口にしたのである。つまり、娘は自分がエリートであること自ら声高らかに言明しているわけである。それを聞くにつれ、父親である私は決して親ばかではないのだけれども、「自分の娘がエリートである。とうとう身内に、しかも子供にエリートが現れた」という事実に打ち震え、その頼もしさに心のどこか深い部分が熱く燃え上がり、もう、もうどうすればよいかわからなくなり、鉄棒の隣にそびえ立つジャングルジムに駆け上がり、ロッキー気取りで両手を挙げながら、娘の名前を「エイドリアーン」っぽく叫ばずにはいられなかった。夜の9時過ぎに。
娘の名前を叫び続けることで、心の平静をとりもどす、というか、まぁ、少し落ち着いてきた私は、娘が何をしておるのか多少気になり、ジャングルジムの上から見下ろしてみたのだけども、どうやら娘はジャングルジムで大騒ぎをしている父親を尻目に、せっせと前方指示回転の練習をしておる。さすがエリート。
で、まだまだサードルーチンは続くのですが、もうそろそろ大学に着くので続きはまた別の機会でということにしたい。
アディオス!