パスポートなくしたことある？
私は無くしました！　ハノイで！
パスポートを如何にして無くしたか？　パスポートを失うとどうなるのか？　今回はこの辺りを紹介しよう。そして、この負の経験を、皆さんの危機管理に役立ててほしい！

今日はハノイからマレーシアへの移動日。朝から出発の準備を始めた。

機内預け荷物をパックし、手荷物を荷造りしているときに異変に気付いた。
……パスポートが……ない。いつも入れている、鞄のサイドポケット。いくら探しても……ない。

血の気が引く。ここに無いとならば、どこにあるのかさっぱり見当がつかない。いつもここにしか入れないのだから。

とはいえ、「気まぐれにどっかに入れたのかもしれない」、と、さっきパックした荷物を荷ほどきし、探索する。……が、見つからない。まぁ「見つかるはずないよね。必ず鞄のサイドポケットに入れるように習慣付けていたんだから」と、ややあきらめつつ探していたんだけど。

「パスポートが無いとするとだ……　これは本当に大変な事態！」とやっと気づいて、これから私の身に降りかかるだろう悲劇について考えた。

….とりあえず、マレーシアに行けない。いや、日本に帰れない。パスポートの再申請とか、めんどうくさそうだし。

自分のおかれた状況を冷静に分析し、相当のピンチにおかれていることを具体的に自覚した。すると、とどうでしょう。なんと不思議なことに、知らぬ間に私の口から、私の意志とは関係なく、

「オウ　オウ　オウ　オウ　オウ」

とオットセイのような奇声が放たれるのではないでしょうか！

どうやら、ヒトという動物は、パスポートをなくすとオットセイのような鳴き声を上げるように、遺伝的に仕組まれているようだ。今まで５０年間、ヒトとして暮らしてきたが、こんな機能が埋め込まれていることは全く知らなかった。

さて、奇声を上げたからと言ってどうなるものでもない。どうもならないので、今後どうしようか、本格的に考えた……

まぁ、いろいろせなあかんことが山積みだな。大使館行って、パスポート申請して、飛行機チケット取り直して、ああ、たぶん海外旅行保険で飛行機代はカバーできるだろうな……予定が狂うことをみんなに連絡しないと……

山積する課題を前にめまいを覚えたが、ここはひとつ冷静になって、

「まぁ、目の前の課題からとりあえず、ひとつづつ片付けていきまひょか」

と、パスポート申請から始めることにした。で、言葉が通じないこの国で、一人で行動するのは心細い。まぁ日本大使館に行けば、あとは何とかなるけど、支援者がいたほうが楽だろう。

ということで、昨日まで世話をしてくれていたツイさんに連絡することにした。ツイさんとは昨日、バイバイと明るく別れたはずで、また呼び出すのはカッコ悪いけど、そんなことは言ってられない。ツイさんの電話番号は知っているので、「ロビーの人に電話してもらおーっと」、と、一階のホテルロビーに向かった。

ロビーには女性が座っていた。ベトナムの人は愛想がいいので話しかけやすい。とりあえず彼女に窮状を訴えよう。へらへらしながら、

「まじで、パスポートなくしちゃったんですけどぉ。信じられる？」

と丁寧に現状を説明すると、彼女は表情一つ変えず、机の引き出しから私のパスポートを取り出して私に渡してくれる。んっ？？？

「なんで、ここにあるん？」

と驚きながら聞くと、

「チェックインの時、預かりました」

と涼しい顔で答えよる。

……チェックインは確か深夜。ぼーっとしていて、その時の記憶は曖昧。ここに、こうして預けていたのか。そりゃ、部屋にあるわけはないは……

これにて、一件落着。ここ最近で一番焦った出来事ですな。

アディオス