件名 海外視察について(30)

マレーシアのジャングルに調査機材を置いているの。調査機材は私が日本にいる間もせっせと働き、データを収集する。私よりできるんじゃないだろうか、調査機材。

で、今日は調査機材の回収日。

長期機材は鋼鉄製で、結構厳つい見かけで、凶悪さを放つほどの勢いである。かつ重い。1個3kgある。これを13個回収だから、一人じゃ無理なので、アシスタントをお願いした。

御年75歳のユソフ。

で、調査機材の鋼鉄には結構なすき間があり、昆虫の格好の隠れ家になっている。半年もジャングルに置きっぱなしなんだから、昆虫が巣くっていても不思議はない。

で、調査機材を開けるときが、まさにリアルガチびっくり箱なのである。開けると同時に、いろんなものが飛び出してくる。

で、一番の脅威はゴキブリである。ジャングルに生息するゴキブリなのだから、きっと汚いわけではなかろう。でも、だからといって、精神的に許されることではない。いや。絶対いや!

ゴキブリが飛び出すと、心の中では、

「オウ! オウ! オウ! オウ! オウ! オウッ!」

という、オットセイの鳴き声に似た声がこだましているのだけど、音に出すことははやめておいた。ユソフに馬鹿にされると困るという理由で。ただ、ゴキブリの登場とともに、私のキョワイメーターは降り切れていた。そんなときだった。

ユソフは逃げ出したゴキブリを手づかみにし、それを私の顔の前に持ってきた。かなりのハラスメントだ。ゴキブリハラスメントだ。ユソフは、私にゴキブリを見せびらかし、それにより私の精神の不安定を誘っているのだ。彼が何のためにこのハラスメントを行っているかは不明だが(ユソフは根っからのSかもしれない)、内容からしてハラスメント室に報告すべきほどの事例である。で、

「何やってますか?」

とユソフにゴキブリハラスメントの真意を聞くと、

「写真、とる?」

と聞いてくる。どうやら、ハラスメントではなく、親切心らしい。とりあえず、「断るのも何だな」と思い、数枚写真を撮る(私のデジカメに、こうして、「ゴキブリ」のフォルダが出来上がった。まぁ、一生、見ることはないだろう)。

で、写真を撮りながら、ユソフに対して現在持っている素直な気持ちを、やや歪曲した表現で聞いてみた。

「大丈夫?」

もちろん、この「大丈夫?」にはいろんな意味が含まれているが、平たく言うと「ゴキブリ平気なの。恐くないの?」という疑問文だ。するとユソフは、

「ゴキブリは噛まない。リパン(ムカデ)やラバラバ(クモ)は噛むから、無理」

と答えてくれた。どうやら線引きは、噛むか噛まないからしい。ユソフの合理的な線引きに、圧倒された。私には……できない……

まぁ、よくよく考えてみると、ヒトがゴキブリを恐れるのは不思議なことだ。何故恐れるのだろう? なんで、ゴキブリなんかが恐いんだろう? 絶対私の方が強いのに……なんか、研究テーマになりそうだな。研究テーマ(仮題)

「なぜ、か弱きゴキブリを恐れるのか?」

いつかこの謎を解いてやろう!

アディオス

2019年06月28日