件名 国内出張について(3)


「皆さま。当機は定刻より15分遅れて広島空港に着陸いたしました。到着が遅れましたこと誠に申し訳ございませんでした。ベルト着用サインが消えるまで、お座りのままお待ちください。上の物入れを開けた際に手荷物がすべり落ちるおそれがありますのでお気をつけ下さい

飛行機に乗るたびに聞かされてきた呪文のようなセリフ。「まぁ、荷物が落ちることも、ないわけではないだろうな」とは思いながらも、なかなか現実では起きないだろうと高をくくっていたのだが……

広島空港に着陸した私は、いつもと変わらずいろんなことを妄想しながら、ニタニタしていた。気持ち悪い。まぁ、完全に気が抜けていた状態。

そんな時だった。頭上から突然、「白い恋人」が降ってきて、私の頭頂部に激突した。どうやら、後ろのおじさんが不用意に物入れを開けた際、滑り落ちたらしい。白い恋人が。こんなことあるんだね。

まれな出来事に遭遇した周りの席の人は、白い恋人がぶつかった私を、目を丸くして見ていた。

物入れを開けたおじさんは、なんと、謝ることはおろか、声をかけてくれることさえしなかった。無言で白い恋人を拾い、それを物入れに戻していた。

「私は物入れ開けただけだしん。悪いのはすべり落ちた『白い恋人』のほうだしん」

とでも言いたいのだろうか?

私は悲しんだ。こういう時は、声をかけるほうがいいと思う。いや、絶対声をかけるべきだ。

白い恋人が激突して怒っているんじゃないんだ。声をかけられなかったことに対して悲しんでいるんだ!

ああ、悲しい。

アディオス

2019年07月03日