件名 海外視察について(35)マレーシア

「部屋はない」

ホテルに着くや否や、フロントデスクは顔色一つ変えず、冷たく放った。こっちのほうも見ないで。

どういうこと?まだ私は何も言っていないのに。

なぜかこんな田舎町で仕事。この町に1件しかないホテルを旅行サイトで予約したのは2か月以上前。こんな仕打ちを受けるとは冗談に違いない。

で、冷静に。

「旅行サイトで予約をしているけど」

と、勝ち誇ったようにバウチャーを見せながら(こういうことを予見して、しっかりバウチャーを印刷している私。さすが、できる男は違う。基本、海外をなめてはいけない。日本の常識が通じないことが多いから、自分でセキュリティをきるだけ張っとくの)、予約の事実から確認すると、再び

「満室だ」

とのお返事。聞く耳を持たないようだ。……困りましたね。某有名旅行サイトから予約をしたんだけど、どうやら、旅行サイトの私は完全にノーマークだったらしく、私の予約を忘れてすべての部屋を貸し出してしまったのだろうか。

もう一度バウチャーを見せながら予約が確定していることを伝えると、フロントマンは目を景気よく泳がせながら、

「満室で部屋はない」

と再びゼロ回答をくり返す。

「そーだ! とりあえず、怒っとこ!」と思いつき、私は烈火のごとく怒り狂った。最近まれに見る怒り具合だ。こういうのを、モンスターっていうのかね?

で、相手の出方を見ると、慌てて、上のものに問い合わせを始める。どうやらフロントマンは怒られないと対応しない人らしい。で、同時に、近くのホテルを探し始める。

この町に別のホテルがないのはリサーチ済み(だから、ここに予約したんだし)。と言うことは、かなり離れた隣町か……今日は一日調査をした後にここに来たんだし、これから知らない街に移動は嫌だな(ここだって、知らない街で、迷いながら来たのだから、もう一度似たようなことをやるのは嫌)。

しかも、高級ホテルをあてがわれたら、お金もかかる。そこで、私は

「もう、4日前に旅行代理店にホテル代を支払っている(これは事実)。追加の料金が発生した場合、それはあなたに払う義務がある。予約が成立した時点で、契約されているのだから、あなたは、この値段で私に部屋を提供する義務がある。さもないと契約不履行だ。私が言ってることわかる?」

英語がうまくなったもんだ。こんなことをスラスラ言えるんだから。

するとフロントの男は、部屋探しだのボスへお連絡だの作業を止め、

「パスポート」

と言い出した。

このタイミングでなぜパスポート?と思いながら、パスポートを渡すと、ほどなくして部屋の鍵が渡された。

「部屋、あるんじゃん!」

いったい、今までの対応は何だったんじゃ?

アディオス

2019年07月05日