福山にはバラ祭りがある。大きなお祭りだとは聞いていたが、今まで行ったことがなかった。そこで、バラ祭りに初挑戦することとした。
バラ祭り会場には、「バラ祭り」と看板を掲げるだけあって、バラが咲き誇っていた。しかし、私の興味をわしづかみにしてしまったのはバラではなく、バラ祭りの出し物の一つである
「体力測定コーナー」
であった。
私の中では、赫赫たる未来予想図が超写実的に描かれていた。つまり、体力測定を行い、その姿、体力を子供に見せつけることで、父の威厳を取り戻すという近未来だ! そこで、嫌がる子供を無理やり引っぱって体力測定を行った。
私の体力がいかに人並みから外れているのか、つまり私が体力モンスターであるかを効率的に示すためには、コントロール、すなわち比較対象が必要となる。そこで、嫌がる娘たちを強制的に、先に体力測定をさせることにした。こうすることで、自分達のプアーな体力を認識させるだけでなく、その後あらわとなる父の体力と比較することで、
「お父さんすごい!」
感が、嫌が様にも盛り上がっちゃうという寸法である。さすが、策士! お前たちはコントロール! さぁ、とっとと、プアーな体力を測ってきやがれ!
で、娘に体力を測定させたのだが、最初の種目は、
「両目つむり片足立ち」
であった。競技名から、これ以上説明はいらないと思うが、一応説明しとくと、両眼をつむり片足立ちをし、それをどれだけ長く維持できるかを競う競技である。フッ、子供だまし……
「こんなもん、誰かが止めてくれなきゃ明日の朝まで立ちっぱなしだぜ」
なぁんて思っていたところ、景気よく子供が競技をスタートした。で、娘はぐらつくこともなく片足立ちを続け、三分になったところ、審判員から、
「おじょうちゃん、満点だよ。もうやめていいよ」
と競技の終了を告げられていた。なるほど、3分で止めさせてしまうという制度らしい。確かに止められない限り永遠に続く競技だ。
娘の演技を一部始終を見て、競技前から抱いていた疑義が確信に変わった。つまり、こんなもの、制限時間いっぱいまで全員できるものであり、例えていうならば、「その場で足踏みしてください」程度の簡単なミッションなのである。このミッションを完遂できないものなどまずいないはずで、「じゃあ、サクッと私も三分、片足立ちを続けますか」って、意気揚々と競技場に向かったのであった。
さて、競技場につくと審判員が、
「はい、片足あげてください。では、開始の合図を出しますから、両眼を閉じてくださいね」
とインストラクションをしてくれた。私は、その指示に粛々と従った。
「スタート」
同時に両眼を閉じる。「ああ、これから3分か、退屈だな」と思っていたところ、どうでしょう。それまで不動であった大地が、目を閉じるとともに、グァングァン揺れ始めるではないでしょうか! もう、立っている方がミラクルの大激震なのである。
これは全くの想定外であった。こんな大激震が起こるなんて聞いてないし。
両目閉じ片足立ちのマジックに翻弄され、私は両の足を地につけてしまったのだった。記録は10秒であった。
一部始終を見ていた娘は、自分たちが3分できた事実から、「うわっ、短っ!」と思ったに違いない、違いないのだけれども、
「パパ、これ下手なんだね」
と軽く流してくれた。しかし、私の方はというと想定シナリオと現実のあまりのギャップに、私は泣き出す寸前であった。
両目閉じ片足立ち、マジ難しい。
……どうやら、気づかないだけで確実に老化が進んでいるらしい。
アディオス