広島大学大学院 食料資源経済学講座 山尾政博研究室 主催
公開シンポジウム in 東京

アジア海域社会の復興と地域環境資源の持続的・多元的利用戦略
−スマトラ島沖地震津波からの復興と資源管理−


2007年2月5日
於:キャンパス・イノベーションセンター東京

 2月5日13時より当研究室主催、「アジア海域社会の復興と地域環境資源の持続的・多元的利用戦略−スマトラ当沖地震津波からの復興と資源管理−」公開シンポジウムが開かれました。このシンポジウムは、平成18年度文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C)企画調査の支援を受けて開催されたものです。18年度に実施したタイ、スリランカ、インドネシア3カ国の調査研究の成果について、各国の復興状況や現場が抱える喫緊の課題が報告されました。
 また、今回のシンポジウムでは、経験と意見の幅広い交流を図りながら今後の実践的な研究テーマを発掘することを目的に、復興支援に携わる政府や援助機関の関係者などからも参加をつのりました。当日は約40名の参加があり、フリー・ディスカッションでは、多方面にわたる意見交換が行われました。


◆第1部 タイセッション

1-1 タイの沿岸漁村及び沿岸漁業に対する復興支援の特徴
パタリヤ・スワンラタナチャイ(SEAFDEC・研究員)
 タイ南部で展開された資源管理プロジェクト(CHARM)による復興支援活動を例にあげながら、タンボン自治体を通じた地方分権型の復興活動の展望が述べられました。
1-2 Local Management Practice to Deal with the Effects of Tsunami Disaster in Thai Fishing Communities
ワンタナ・チェンキットコソン(広島大学・博士課程)
 アンダマン海に面するクラビ県とパンガー県を事例に、政府からの支援活動だけでなく、コミュニティーレベルでタンボン自治体、漁民グループ、村役場が一体となった住民参加型の支援活動と資源利用が、漁村の復興に寄与したことが明らかにされました。
1-3 Recovery of Livelihood through Microfinance and Income Generating Activity: A case of Fishing Community affected by Tsunami
ポンプラパ・サクンセン(広島大学・博士課程)
 クラビ県でみられる復興プログラムのうち、マイクロファイナンスと所得創出活動について議論されました。村落単位で実施されるマイクロファイナンス事業は、収入源を多様化することで脆弱な財政状況を底支えし、バティック作りや観光業なども収入の補完的位置づけにあるなど、諸プログラムが地域経済の復興に貢献している現状が報告されました。


◆第2部 スリランカセッション

2-1 漁村の再配置に向けて −スリランカ・南部復興の課題−
久賀 みず保(広島大学・特別研究員)
 南部スリランカ4県を事例に、漁船・漁具のアンバランスな供給の背景にある地方自治体の能力・機能の見直しと、住居の再配置政策による新たなコミュニティー作りの視点が今後の漁村復興に必要な視点であることが提起されました。
2-2 Consequences of the Tsunami on Fisheries and Coastal Livelihood: A Case Study of Tsunami Ravaged Southern Sri Lanka
アチニ・デ・シルバ(広島大学・博士課程)
 水産物輸出に取り組む南部3県の漁民、流通業者、加工業者、合計90名へのアンケート調査により、水産物輸出産業に与えた影響が考察されました。持続的生計アプローチ(SLA)に依拠し、政府による復興計画がソーシャル・キャピタルの崩壊をもたらしたことや、インフラ設備などのフィジカル・キャピタルへの損害は、漁民よりも流通・加工業者へ大きな影響をもたらし、逆にファイナンシャル・キャピタルは漁民への打撃が大きかったことが明らかにされました。

◆第3部 インドネシアセッション

3-1 Community-based型復興の意義と役割−バンダ・アチェの経験−
辰己 佳寿子(山口大学・助教授)
 アチェ州における実態調査から、Community自身が援助から自立し、住民の転職によって混住化した社会をどのように再編成していくのか、という復興の課題があげられました。また、伝統的な資源管理組織であるパングリマ・ラウトを受け皿にした復興プロジェクトの観察に基づき、管理組織の機能と役割を検討する必要性が述べられました。

◆FAOによる活動報告
八木 令子(FAO駐日連絡事務所・企画官)
 FAOによるタイ・スリランカ・インドネシア・モルディブでの緊急支援活動の経験から、緊急支援の重点課題、状況、問題点等についてお話いただきました。援助機関による物資供給や支援内容の重複、不適切な漁船の配布による漁民の増加と資源の過剰漁獲、専門性のない機関による粗悪な漁船の短期大量生産などの問題があげられ、FAOの対応策が紹介されました。また、今後の中長期的な計画として、資源管理型漁業への移行、"Participatory" をキーワードにした持続的な復興支援の例が紹介されました。


◆フリー・ディスカッション
 全体を通しての感想や、今後の研究に向けてのアドバイスなどが出されました。主なポイントとして、津波の経験を踏まえて将来的にどのようなCommunityを作るべきなのか、その方向性とそれに向けた具体的な課題設定が必要であること、自然科学分野研究とのリンケージを持たせること、コミュニティーの自立により目を向け、紛争地の復興についても言及することなどがあげられました。
 これらのコメントを踏まえ、当研究グループの代表者である山尾政博から、津波以前の漁村調査の経過を踏まえた今後の研究の方向性が述べられました。特に、タイでは普段からCommunity-based の活動が展開されていた地域での復興活動が効果的であったことを例にあげ、現段階の復興状況を今後、いかに効率的に活かしていくかという、長期的かつ前向きな視点でもって研究、援助を進めていくことが必要であることが確認されました。

◆報告資料 一覧

◎文部科学省科学研究費 「アジア海域社会の復興と地域資源管理の持続的・多元的利用戦略」◎
アジア海域社会の復興と地域環境資源の持続的・
多元的利用戦略

〜スマトラ沖津波地震の復興と資源管理〜
プログラム(ポスター)(pdf/318K)


1) 開会 13:00〜13:20
1 開会のことば 島 秀典
(鹿児島大学・教授)
 
2 基調報告 山尾 政博
(広島大学・教授)
プレゼンテーション資料(pdf/318K)


2) パネル・ディスカッション
第1部 タイセッション 13:20〜14:35
1-1 タイの沿岸漁村及び沿岸漁業に対する復興支援の特徴 パタリヤ・スワンラタナチャイ
(SEAFDEC・研究員)
プレゼンテーション資料(pdf/6,331K)
1-2 Local Management Practice to Deal with the Effects of Tsunami Disaster in Thai Fishing Communities ワンタナ・チェンキットコソン
(広島大学・博士課程)
プレゼンテーション資料(pdf/1,138K)
日本語要約(pdf/8K)
Abstract(pdf/9K)
1-3 Recovery of Livelihood through Microfinance and Income Generating Activity: A case of Fishing Community affected by Tsunami ポンプラパ・サクンセン
(広島大学・博士課程)
プレゼンテーション資料(pdf/2,854K)
日本語要約(pdf/8K)
Abstract(pdf/9K)
 ディスカッション 座長:山下 東子
(明海大学・教授)
 


第2部 スリランカセッション 14:50〜15:45
2-1 漁村の再配置に向けて 久賀 みず保
(広島大学・特別研究員)
プレゼンテーション資料(pdf/1,581K)
2-2 Consequences of the Tsunami on Fisheries and Coastal Livelihood: A Case Study of Tsunami Ravaged Southern Sri Lanka アチニ・デ・シルバ
(広島大学・博士課程)
プレゼンテーション資料(pdf/1,905K)
日本語要約(pdf/9K)
Abstract(pdf/9K)
 ディスカッション 座長:赤嶺 淳
(名古屋市立大学・助教授)
 


第3部 インドネシアセッション 15:45〜16:20
3-1 Community-based型復興の意義と役割−バンダ・アチェの経験− 辰己 佳寿子
(山口大学・助教授)
プレゼンテーション資料(pdf/619K)
 ディスカッション 座長:鹿熊 信一郎
(亜熱帯総合研究所)
 


3)フリー・ディスカッション・閉会 16:20〜17:00
1 フリー・ディスカッション 座長:家中 茂
(鳥取大学・助教授)
 
2 閉会のことば 山尾 政博
(広島大学・教授)