2.潮木モデルの検討:推計値と採用実績値

(1)潮木モデル
 潮木(1985)は、出生数推計値と教員年齢構成、離職率を出発点として、将来の教員需要を推計するモデルを作成し、1986-1990,1991-1995年の小学校および中学校の教員需要数を全国及び都道府県別に推計した。さらに潮木は、1992年の論文でもほぼ同様の手法で、1989-2000年の小・中学校教員需要と高校教員需要を推計している。1985年の著書でのモデルの概要を図示すると、図1のようになる。
出生数中位推計値(各年)
      | <-------- 補正値、死亡率、推移確率
      v
各学年人口推計値
      | <-------- PT比(83年PT比*40/45)
      v
児童生徒数推計値
      |
      v
教員数推計値(各年)----->5年間の教員増減------------+
                                                      v
                                                   教員需要数
                                                  (各5年間)
                                                      ^
教員年齢構成・離職率----->5年間の退職者数推計値------+
           (定年退職者+定年前退職者)
       図1 潮木(1985)の教員需給モデルの概要
(a)児童生徒数推計値までの手続き
 出生数中位推計値(全国各年)は、『日本の将来推計人口』(昭和57年4月)である。昭和58年の実際の出生数と推計値にはすでにずれが生じており、前者が5.947%多くなっているため、59年以後の出生数推定値に1.05947という補正値を掛けた値をもって将来の出生数とした。次に、t年とt+1年の出生数からt+7年度の小学校1年生数を、
   SHOU(t+7)=BIRTH(t)*0.75+BIRTH(t+1)*0.25
なる式で推計する。しかし、実際の1年生数はやや小さいため、これに0.98934という一種の死亡率を掛けた値をもって小学校1年生数とする。学年が上昇するたびに児童生徒数は少しずつ変化するから、学年間の推移確率を掛けて各学年人口を推計する。こうして、将来の小学校児童数と中学校生徒数の推計値が得られる。
 都道府県別の児童生徒数推計値は、都道府県別出生数の推計値が公表されていないため、都道府県別将来人口推計値(5歳刻み)から、0−4歳人口の県別構成比を計算し、これに全国の出生数推計値を掛けることによって得るという方法をとっている(潮木,1985,30頁)。なお、潮木(1992)の全国及び都道府県別の児童生徒数推計方法も、資料こそ異なるが、基本的に上と同じ方法である。
(b)教員数の推計方法
 将来の教員数推計値は、児童生徒数推計値をPT比で割ることによって得られるが、将来各年のPT比を推計することが必要となる。潮木(1985)は、昭和60年のPT比は昭和58年のPT比をそのまま使い、昭和65年および70年のPT比は、この時までに40人学級が実現したと仮定して、昭和58年のPT比に40/45(=0.8888)を掛けた値を使っている(潮木,1985,28頁)。
 なお、潮木(1992)では、昭和61年現在の学年別1学級当たり児童生徒数(単式学級)の値を、40人学級が実施されている学年と実施されていない学年で比較して、PT比がどの程度減少するか、その値を各県につき計算した。小中学校の40人学級が完了する昭和66年のPT比は、その値に昭和60年のPT比を掛けた値を使っている(潮木,1992,90頁)。
 以上のようにして得た各年の教員数推計値から、5年間の教員増減数が計算される。
(c)退職者数の推計方法
退職者数は、定年退職者と定年前退職者の部分に分けて計算される。まず、定年退職者数は、昭和55年度現在で50歳以上55歳未満の教員は、61年度から65年度にかけて、また同じく55年度現在で45歳以上50歳未満の教員は、66年度から70年度にかけて、全員が定年退職するものとみなす。
 次に、定年前退職者である。昭和61年度から65年度までの5年間の推計値は、『学校教員統計調査』(昭和55年度)の各5歳刻みの年齢別教員数に、各年齢層の離職率を掛けることによって得られる。なお、昭和65年度から昭和70年度までの5年間の定年前退職者数推計値は、将来の教員の年齢構成を予測することが不可能なため、昭和61-65年度の推計数をそのまま使用している(潮木,1985,28頁)。

(2)潮木(1985)の推計値と採用数実績


 以上のような手続きで推計された教員需要数は、事後的にどの程度「正確」であったのだろうか。以下、潮木の推計値とその後の小学校、中学校の教員採用数の実績値を比較し、モデルの妥当性を検討する。
 まず、教員採用数に関する主要資料の概要を述べておこう。教員採用数を知ることのできる資料には、少なくとも3種類ある。
 第1に、『学校教員統計調査報告書』(以後『教員調査』と称する)の中の「教員異動調査」の部分には、採用者数が記されている。「教員異動調査」は、国公私立の全ての学校等(除く専修学校、各種学校)のしっ皆調査であり、4月1日から翌年の3月31日までの「年度間」に採用・転入・退職した本務教員に関するデータが掲載されている。「採用」とは、「当該学校の本務教員として、高等学校以下の学校の本務教員以外の職業等から採用された者」(『教員調査』平成4年度,484頁)をいう。採用前の職業の中には、大学卒業後の新卒採用者だけでなく、官公庁(教員を除く)、民間企業、自営業なども含まれている。最近では、小学校、中学校とも、新卒採用者の比率は半数程度である。教育委員会職員から学校教員になる者も採用扱いになっている。国公私立の全ての学校のしっ皆調査であり、調査期間も1年度の全体にわたっているいる点が、この報告書の最大の長所であるが、3年に1回しか刊行されないのが欠点である。
 第2に、「公立学校教員採用選考試験の実施状況について」(以後「採用試験の実施状況」と称する)は、最近では毎年『教育委員会月報』11月号に掲載される。対象は、表題の通り、各都道府県及び政令指定都市の教育委員会が実施した同試験の範囲内である。したがって、国立や私立の学校は対象から除外されることになる。応募者、受験者、採用者、競争率の数値が、性別、学歴別、新卒・既卒の別に載っている。「t年度採用試験の実施状況」における採用者とは、t-1年度に実施されたt年度教員採用試験に合格して、t年6月1日まで(平成5年度以前の実施状況については5月1日まで)に採用された者をいう。
 最後に「年度末教員の人事異動の概況」(以後「人事異動の概況」と称する)は、最近では毎年『教育委員会月報』12月号に掲載される。対象は、各都道府県及び政令指定都市の教育委員会が任命権を有する公立学校の常勤講師以上の者である。国立及び私立の学校の他、公立学校でも指定都市以外の市および町村立の高等学校は対象外となっている。t年度末の採用者とは、t+1年4月1日から5月1日までの採用者をいう。
 以上3種類の採用者に関する統計数値のうち、『教員調査』のそれが最も大きく、最も正確なのは当然である。国公私立の学校を網羅し、まるまる1年間の数字が掲載されているからである。「採用試験の実施状況」と「人事異動の概況」は、調査の学校の範囲は同じで、計測期間もほぼ同等であるが、採用者数の数字は「人事異動の概況」の方が若干多くなる。それは、「人事異動の概況」の調査の採用者には「教員採用選考試験を受験せずに採用された者(他県や国立大学付属学校との人事交流により採用された校長、教頭、教諭等)が含まれているためである」(『教育委員会月報』平成5年12月号,44頁)。従って、採用者数の数字は『教員調査』、「人事異動の概況」、「採用試験の実施状況」の順に正確であることになる。
 さて、潮木の推計値と3種類の資料に掲載されている採用数実績を示したのが表1である。潮木(1985)の推計値は、中学校では採用数とほぼ一致しているが、小学校は過大推計となっている。潮木(1992)の推計値は、過小推計であるようである。
  表1 潮木(1985,1992)の推計値と採用数実績
+----+-----------+-------------------+-------------------+-------------+       
|    | 資  料   |  小学校(対象年) |  中学校(対象年) | 小+中学校  |       
+----+-----------+-------------------+-------------------+-------------+       
|    | 潮木(1985)| 16,917人(1986-90) | 10,295人(1986-90) |             |      
| 推 | 潮木(1992)|                   |                   |  11,922人   |       
| 計 |           |                   |                   |  (1989-93)  |       
| 値 | 潮木(1992)|                   |                   |  14,198人   |       
|    |           |                   |                   |  (1994-98)  |       
+----+-----------+-------------------+-------------------+-------------+       
|    | 学校教員統| 13,038人(1985年度)| 14,551人(1985年度)|   27,589人 |       
|    | 計調査報告|  (うち公立 12,846)|  (うち公立 14,024)| (公 26,870) |       
|   | 書        | 12,480人(1988年度)|  9,487人(1988年度)|   21,967   |       
|    | (年間, |  (うち公立 12,294)|  (うち公立  8,910)| (公 21,204) |       
|   | 国公私立)| 16,229  (1991年度)| 12,019  (1991年度)|   28,248   |       
| 採 |           |  (うち公立 16,048)|  (うち公立 11,386)| (公 27,434) |       
+----+-----------+-------------------+-------------------+-------------+       
|   | 年度末教員| 11,800  (85年度末)| 13,228  (85年度末)|   25,028人 |       
|   | の人事異動| 11,125  (86年度末)| 11,370  (86年度末)|   22,495   |       
| 用 | の概況    | 11,239  (87年度末)|  8,140  (87年度末)|   19,379   |       
|   |           | 14,266  (88年度末)|  9,698  (88年度末)|   23,964   |       
|   | (4,5月| 14,661  (89年度末)|  9,965  (89年度末)|   24,626   |       
| 数 | 公立のみ)| 15,235  (90年度末)| 10,529  (90年度末)|   25,764   |       
|    |           | 11,856  (91年度末)|  8,234  (91年度末)|   20,090   |       
|   |           | 10,633  (92年度末)|  6,983  (92年度末)|   17,616   |       
| 実 |           |  8,853  (93年度末)|  5,876  (93年度末)|   14,729   |       
|   |           |  7,610  (94年度末)|  5,846  (94年度末)|    13,456   |       
+----+-----------+-------------------+-------------------+-------------+       
|   | 公立学校教| 11,543人(1986年度)| 12,998人(1986年度)|   24,541人 |       
| 績 | 員採用選考| 10,784  (1987年度)| 10,943  (1987年度)|   21,727   |       
|    | 試験の実施| 10,510  (1988年度)|  7,673  (1988年度)|   18,183   |       
|    | 状況につい| 13,938  (1989年度)|  9,130  (1989年度)|   23,068   |       
|    | て        | 14,039  (1990年度)|  9,509  (1990年度)|   23,548   |       
|    |           | 14,131  (1991年度)|  9,869  (1991年度)|   24,000   |       
|    | (5月1日迄 | 10,987  (1992年度)|  7,839  (1992年度)|   18,826   |       
|    | 公立のみ)|  9,413  (1993年度)|  6,499  (1993年度)|   15,912   |       
|    |           |  7,784  (1994年度)|  5,294  (1994年度)|   13,078   |       
|    |           |  6,742  (1995年度)|  5,414  (1995年度)|    12,156   |       
+----+-----------+-------------------+-------------------+-------------+       
(3)潮木モデルの検討
 潮木(1985)で小学校教員の推計値が過大推計になったのは、なぜだろうか。潮木モデルでは、教員需要は教員数増加分と退職者数の部分の和になっているから、推計期間中の2つの部分の実績値を調べてみよう。表2は東京都を例にとって調べた結果である。
 表2 潮木推計値と実績値の比較(東京都の小学校)
+-------------------------+---------------+--------------------------+         
|        変   数       | 潮木推計(1985)|   実 績 値 (資料)        |          
|                         |  (ケースU) |                          |          
+-------------------------+---------------+--------------------------+         
| 60年度児童数          |     860,021   |   882,702 (基本調査)     |          
| 65年度児童数          |     655,971   |   709,140                |          
| 5年間児童数増減        |    -204,050   |  -173,562                |          
+-------------------------+---------------+--------------------------+         
| 60年度教員数       (1)|      33,141   |    35,614 (基本調査)     |          
| 65年度教員数       (2)|      28,438   |    32,291                |          
| 5年間教員数増減     (3)|      -4,703   |    -3,323                |          
+-------------------------+---------------+--------------------------+         
| 61ー65定年退職者数    (4)|       6,674   |                          |          
| 年平均定年前退職者数 (6)|        378   |                          |          
| 5年間退職者数合計   (8)|     8,564   | 6,629(退職者,年度末異動) |          
| (年平均退職者数)      |     1,713   | 1,326(同上、年平均)      |          
|                         |               | 1,331(離職,教員調査88年) |         
+-------------------------+---------------+--------------------------+         
| 年平均教員需要数     (7)|         772   |   661*                   |          
|                         |               |   519(採用,年度末異動)   |          
+-------------------------+---------------+--------------------------+         
(注:潮木(1985),9頁の第1表及び57頁を元に作成。*の数字は、実際の値を
   ((3)+(8))/5で求めた数値である。ケースUは、昭和60年度から65年度
   にかけて学級定員の改善が行われた場合である。
 この表2から、それぞれの推計値について、以下のようにまとめられる。
1.1.将来の児童数推計値は、実際よりも過小であった。
1.2.5年間の児童数減少を、実際よりも過大推計した。
1.3.将来の教員数推計値は、実際よりも過小であった。
1.4.5年間の教員数減少を、実際より過大に推計した。
2.1.退職者数推計値は、実際よりも過大であった。
2.2.最も想定されるケースUでの年平均教員需要推計値は、実際よりも過大であった。
 以上より、東京都の小学校教員需要推計値が過大であったのは、児童数および教員数の過小推計と退職者数の過大推計にあったことになる。
 次に、児童数と教員数の推計について、少し詳しく検討してみよう。
(a)教員数推計の問題
 第1に、児童数と教員数の推計についてである。潮木(1985)の将来の教員数推計値が過小に、5年間の教員数減少が過大に推計されたのは、なぜだろうか。まず、厚生省人口問題研究所の中位推計値(昭和56年11月推計)がどの程度正しかったかという問題がある。表3をみると、その後の出生数実績値と比べて56年中位推計は1982年から1986年まで過小推計になっている。この頃に生まれた子どもは1980年末には小学生になっているから、中位推計に基づく児童数推計値(1980年代末以降)も過小になっており、PT比の前提値が正しければ、教員数推計値も過小になっているはずである(図2)。東京都の場合、表2からも明らかなように、事実そのようになっている。潮木推計における、将来教員数推計値の過小推計(すなわち5年間の教員数減少の過大推計)の原因は、人口問題研究所の出生数中位推計値(昭和56年11月推計)の過小推計に起因しているのである。
 表3 昭和56年11月中位推計値と実際の出生数
+-------+-------------+--------------+-------+              
|   年  | 56年11月中位|  出生数実績  |推−実 |            
|       | 推計値(0歳)|              |計  績 |          
+-------+-------------+--------------+-------+           
|  1981 |  1,534 千人 |  1,529,455   |   5千 |           
|  1982 |  1,477      |  1,515,392   | -38   |            
|  1983 |  1,430      |  1,508,687   | -79   |            
|  1984 |  1,393      |  1,489,780   | -97   |        
|  1985 |  1,366      |  1,431,577   | -66   |       
|  1986 |  1,356      |  1,382,946   | -27   |      
|  1987 |  1,357      |  1,346,658   |  10   |     
|  1988 |  1,364      |  1,314,006   |  50   |      
|  1989 |  1,377      |  1,246,802   | 130   |       
|  1990 |  1,395      |  1,221,585   | 173   |       
|  1991 |  1,421      |  1,223,245   | 198   |      
|  1992 |  1,453      |  1,208,640   | 244   |      
|  1993 |  1,491      |  1,188,282   | 303   |        
+-------+-------------+--------------+-------+    
 さらに、推計期間内のPT比をどの程度に設定するかが、いま一つの問題である。潮木は、昭和65年度に40人学級が実現している場合、その時のPT比として、58年PT比に40/45(0.8888)を掛けた値を用いている。ある学校1学年の児童数が無限の値であるならばこれでよいが、実際には、多くても1学年数百人である。40人学級になれば、生徒数を40で割った時、剰余が出れば1クラス増えるから、教員がもう1人必要となり、実際のPT比は、40/45よりも小さな値になろう。このため、潮木(1985)のPT比の推計値は過大推定となり、教員数推計値は過小推計となる。
 以上の状況を図示したのが図2である。児童数の過小推計とPT比の過大推計の結果、教員数推計値が過小になり、その結果、5年間の教員増減数推計値の減少数が過剰に大きくなったのである。

図2 出生数の推計誤差(略)

(b)退職者数推計の問題  次に、潮木モデルの第2の要素、退職者数の推計を検討してみよう。前掲の表2から明らかなように、退職者数の推計誤差が大きい。潮木推計では、東京都における61-65年の年平均退職者数推計値は、1,713人とされている。「年度末異動の概況」によればこの期間の退職者の年平均値は1,326人、「教員調査」によれば1988年度間の離職者は1,331人となっている。潮木推計は400人近い過大推計になっている。都道府県別に退職者数を比較検討したのが表4である。潮木推計は「教員調査」(1988年度間)よりも全国で約4,000人過大推計であることがわかる。

表4 潮木(1985)の退職者推計値と実績値 (略)

 なぜ、実際の退職者は推計よりも少なかったか、その原因を3つの観点から検討してみよう。まず、第1に、推計期間中の離職者率である。『教員調査』の「異動調査」から、性別・年令階級別離職率の1980,1986,1992年の3時点の推移を図示したのが図3(小学校)である。小学校の場合、男子の離職率はほとんど不変だが、女子の場合、1986年の離職率は、50歳以上55歳未満の年齢階層で1980年を上回り、1992年には下回っている。従って、その後の定年前離職者数推計に1980年の年齢階層別離職率を使用したのは、結果的には妥当であったといえる。なお、中学校の場合も女子は50歳未満の者の離職率は増大しているが、50歳以上55歳未満の者の離職率は1980年と殆ど同じである。
 以上要するに、推計期間中(1986-1990年)の離職率は、女子を中心に低下したが、推計の基準年である1980年と比較すればこの期間の離職率は必ずしも低くない。従って、離職率は決定的な要因とはいえない。
 図3 小学校教員の年齢別離職率の推移(略)

 なお、退職者に関する資料にも問題がある。定年退職者数の推計に使用する『教員統計』の「学校調査」の年齢別教員数は、10月1日現在の満年齢による人数である。公立学校の場合、満60歳になった年度の年度末に定年退職するから、定年退職すべき人の母数として使うには、半年のずれがある。ここから若干の誤差が発生しうる。なお、潮木モデルでは、全体の1割程度を占める30歳以下の若年退職者を十分に考慮していないが、実際の退職者数推計値は過大推計になっているから、実際上、差し支えない。
 第3に、異種の学校間の人事異動を調べてみよう。実際にどの程度の学校間の異動があったかは、推計値ではあるが、「人事異動の概況」で知ることができる。平成3(1991)年度末の概況によれば、小学校への転入者は全国で817人、東京都で48人であった。数字としては小さい。『教員調査』の「教員異動調査」によれば、1992年度内に全国で、県内の異種の学校から小学校に転入した者は5628人、県外から転入した者は390人、合わせて6018人となる。小学校から異種の学校へ転出した者を含めて計算しても、小学校への転入者は全国で112人でしかない。つまり、学校間の人事異動の数はそれほど大きくはない。異なる学校種間の人事異動の状況をモデルの中に組み込むことは簡単なことではないし、この程度の数字であれば無視して差し支えない。
 以上、検討の結果、児童数推計については当時の厚生省人口推計値の誤差に原因があること、PT比の推計方法に若干の問題があることを指摘した。しかし、退職者数の誤差については、原因は不明である。

3.本研究のモデル

 本研究では基本的に潮木モデルに従ってモデルを構築する。ただし、3点ほどの技術上および変数上の工夫を行った。モデルの全体構造は図4のようになる。

年齢階級別都道府県別人口中位推計値(5年おき)
      | 
      v
児童生徒数推計値
      |<-------- PT比(毎年0.5926%改善すると仮定)
      v
教員数推計値(各年)----->将来5年間の教員増減数--------+
                                                        v
年齢階級別離職率                                 教員需要数推計値
      |                                           (各5年間)
      V                                                 ^
年齢階級別教員数--------->5年間の退職者数推計値--------+
               (定年退職者+定年前退職者)
      図4 本研究のモデルと変数
 潮木モデルと異なる第1の点は、児童生徒数推計の元になる年齢別人口のデータである。潮木は、各年の出生数から出発し、小学校への入学までの「死亡率」などいくつかの補正を行っている。本研究では、厚生省人口問題研究所の年齢階級別(5歳単位)都道府県別人口中位推計値(平成4年10月推計・年齢別純移動率が縮小した場合)を使用した。この推計値は、1990年以降5年おきに2010年まで示されている。このデータは、将来の都道府県間の人口移動も考慮している。そのため、潮木のような学年間の推移確率や「死亡率」の補正をしなくても済むという長所がある。将来各年の小学校および中学校の児童生徒数推計値は、表5の児童数推計式を使って、各県の5歳刻みの推計人口から計算した値に、その式で推計される1994年の児童数で1994年の児童数実績値を割った調整値を掛けたものを使用した。2) 中学校生徒数の推計式は省略するが、原理的には全く同じである。3)
 表5 推計人口から児童数の推計式
+---------------------+-------------------------------------------------------+ 
| 年齢階級別人口推計値|       各年の児童数推計式                            | 
+-----+-------+-------+-------------------------------------------------------+ 
| 1995|  0- 4 | P95(1)| 1995|  FSTUD(1)=         P95(2)*15/20+P95(3)* 9/20| 
|   年|  5- 9 | P95(2)| 1996|  FSTUD(2)=         P95(2)*19/20+P95(3)* 5/20| 
|     | 10-14 | P95(3)| 1997|  FSTUD(3)= P95(1)*3/20+P95(2)*20/20+P95(3)* 1/20| 
|     | 15-19 | P95(4)| 1998|  FSTUD(4)=             P00(2)* 7/20+P00(3)*17/20| 
+-----+-------+-------+ 1999|  FSTUD(5)=             P00(2)*11/20+P00(3)*13/20| 
| 2000|  0- 4 | P00(1)| 2000|  FSTUD(6)=             P00(2)*15/20+P00(3)* 9/20| 
|   年|  5- 9 | P00(2)| 2001|  FSTUD(7)=             P00(2)*19/20+P00(3)* 5/20| 
|     | 10-14 | P00(3)| 2002|  FSTUD(8)= P00(1)*3/20+P00(2)*20/20+P00(3)* 1/20| 
|     | 15-19 | P00(4)| 2003|  FSTUD(9)=             P05(2)* 7/20+P05(3)*17/20| 
+-----+-------+-------+   : |      :       (略)          :                  | 
|  以下略            | 2012| FSTUD(18)= P10(1)*3/20+P10(2)*20/20+P10(3)* 1/20| 
+-----------------------------------------------------------------------------+ 
 第2に、将来のPT比をどの程度に設定したら良いかが問題になる。教職員配置改善計画は、第1次計画(昭和34ー38年度)以降続けられており、現在は第6次計画(平成5−10年度の6年間)の途上にある。各計画期間内にPT比がどのように改善してきたかを鳥かんしたのが図5である。これより、改善計画に歩調を合わせるようにしてPT比が改善していることが一目瞭然である。

 図5 戦後における小学校のPT比の改善状況(略)

 本研究では、第6次計画期間中に、小学校と中学校の教員PT比は、いずれも各県均一・各年均一に年率0.5926%で改善するものとした。同計画では、小学校・中学校については、平成5年度から10年度までの6年間に27,031人の教職員定数が増加するよう計画されている。このうち学校栄養職員分1,170人および事務職員分1,389人分を除いたものに、これとは別枠で設けられている研修等定数1,000人分を加えた25,472人が、6年間に増員されることになる。1年平均で4,245人の増加となるが、これは、1993年の小学校および中学校の本務教員数716,331人を分母として、年率0.5926%に相当する。
 第3に、定年退職者および定年前退職者の計算にあたっては、その次の5年間には、その前の5年間迄に退職した者を除いた残りの者に対して年齢別離職率(男女計,1992年)を掛け合わせて退職者数を推計した。将来の離職率は1992年実績通りとし、各県同一値とする。なお『教員調査』には各県の年齢別教員数の実数は掲載されていないため、教員数は、年齢階層別(5歳単位)構成比(%)に「学校調査」の本務教員数(各県・国公私合計)を掛けることによって計算した。 4)
 本論文では、将来人口動態が中位推計値に従った場合を中心に分析結果を報告する。また、第6次教職員配置改善計画が1998年度で終了しそれ以後のPT比の改善がないケースと、1999年度以後もそれ以前と同様のペースでPT比が改善するケースの2通りについて、推計を行う。


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