3.教員需給予測の方法

そこで、今回の予測では、PT比の変化を考慮したシミュレーションを試みた。予測の基本的な考え方は、広い意味で人的資本アプローチと呼ばれるものである。人的資本アプローチは、需要と供給を別々に推計し、両者を突き合わせて需給ギャップを定量的に把握する点に特徴がある。このうち、教員の供給については、教員養成大学・学部の定員、一般学部・短大における教員免許状取得者数を考慮して、現状をもとに推計した。
他方、教員需要の全体は、各年度の学校教育活動において必要とされる教員数である。しかし、前年度から継続して教員として就業する者については、外部に対する需要としては顕在化しない。顕在化する教員需要は、離職者を補充する需要(置換需要)と、教員数の純増分(新規需要)の和である。以下では、外部に対して顕在化する教員需要を教員需要または採用数と呼び、教員需要の全体は教員数と呼んで、採用数と区別する。目下のところは、教員採用数が著しく縮小している時代であるから、教員需要の算出が急務の課題となるが、教員不足を招くような事態が予想されれば、教員供給の予測が意味をもってくる。以下、教員需要の予測に移るとしよう。

3.1 児童生徒数予測

教員数予測の基礎となるのは、児童生徒数である。児童生徒数の予測には、厚生省人口問題研究所『日本の将来推計人口(平成4年9月推計)』を用いた。同推計には、2090年までについて(ただし2026年からは参考推計)、低位・中位・高位3通りの推計人口が年齢別に示されている。このうち低位推計では、2025年の合計特殊出生率は1.45にとどまるとされている。少子化傾向が続くというシナリオであるが、1993年の出生率は1.50であるから、むしろ現状維持ということができよう。中位推計では、2025年の合計特殊出生率は1.80とされており、80年代前半の水準まで回復するというシナリオとなっている。短期的に見れば、93年から94年にかけては出生率は上向いているので、それを延長させていけば、このような数値になることも十分予想される。高位推計では、2025年の合計特殊出生率は2.09、すなわち定常人口の水準近くまで回復すると仮定されている。もっとも過去の出生率の推移からして、高位推計の値を示すと予想することは困難である。そこで本研究では低位推計と中位推計を採用することとし、それぞれについて、次の式を用いて小学校児童数と中学校生徒数を予測した。ただしtiは、t年のi歳の人口である。

t年の小学校児童数=1/2t6+t7+t8+t9+t10+t11+1/2t12
t年の中学校生徒数=1/2t12+t13+t14+1/2t15

小学校と中学校は義務教育であるから、厚生省推計による年齢別人口をそのまま用いても問題ないと考えられる。ところが高校は、該当年齢の全員が進学するわけでなく、進学しても中退する者が毎年2%程度みられる。この点を考慮して、高校生徒数予測については、潮木(1985,1992)が提唱する推移確率による方法を一部修正して採用した。推移確率とは、学年進行による人口増減率のことで、t年度のn年生数を(t-1)年度の(n-1)年生数で除すことによって求められる。ここでは、91〜95年について算出した推移確率を平均した値( 表3 )を用いた。

       表3 推移確率 
  ----------------------------------
       A(中3→高1)  0.959
       B(高1→高2)  0.967
       C(高2→高3)  0.974
       D(高3→高4)  0.018
  ----------------------------------
95年の各学年の生徒数は実測値が得られているから、96年については、1学年下の95年生徒数に各推移確率を(高校1年生は95年の中学校3年生数に推移確率Aを、高校2年生は95年の高校1年生数に推移確率Bを、高校3年生は95年の高校2年生数に推移確率Cを、専攻科・別科を含む高校4年生は95年の高校3年生数に推移確率Dを)乗じて求めた。97年以降については、出発点となる中学校3年生数を前年の該当年齢人口(14歳人口と15歳人口の和の2分の1、低位推計および中位推計)で代替し、順次計算を行った。こうして得られた各学年生徒数予測値を足し上げたものが高校生徒数予測値である。

3.2. 教員数予測

児童生徒数をPT比で除すことによって各年の教員数を求めることができる。このPT比が毎年変動するので、教員数は児童生徒数を単純に反映するものとはならない。PT比設定の重要性は、先行研究の検討を通して指摘したところである。本研究では、将来のPT比を予測するために、まずこれまでのPT比の動きを検討するところから始めた。
1948年以降のPT比をみると、小学校では1950年代後半以降、中学校では1960年代前半以降、高校では1960年代後半以降、ほぼ一貫して低下している。この低下傾向を、児童生徒数と合わせて検討してみると、PT比は、児童生徒数が減少する時は低下し、増加するときは停滞または若干上昇していることがわかる。
そこで、PT比と児童生徒数との関係を回帰分析によってとらえることを試みた。まず回帰分析Aとして、81〜95年のデータから児童生徒数に対するPT比の弾性値を推定した。
推定結果は、表4の通りである。小学校については良好な決定係数が得られたが、中学校と高校は当てはまりが悪い。この原因として、小学校については、分析期間のほとんどが児童数の減少期であったのに対して、中学校と高校は、生徒数増加期と減少期の双方が分析期間に含まれていたことがあげられる。PT比は、生徒数の増加期と減少期で明らかに異なる動きを示す。つまり、生徒数減少期にはPT比は低下しているが、増加期に同じ割合で上昇してはいないのである。そこで回帰分析Bとして、81〜95年前後について、児童生徒数の増加期と減少期に分けてPT比弾性値を推定した。推定結果は表5の通りである。中学校と高校については決定係数がかなり改善されている。

     表4 回帰分析Aの結果 
----------------------------------------------
               弾性値(t値)  調整済決定係数
----------------------------------------------
     小学校    0.742(52.19)   0.995    
     中学校    0.835( 9.57)   0.866    
     高  校    0.471( 3.17)   0.392    
----------------------------------------------
    *lnY=a+blnX型の回帰分析(表5も同様)
  
     表5 回帰分析Bの結果 
-----------------------------------------------------------------
              増加期・減少期の別    弾性値(t値)  調整済決定係数
-----------------------------------------------------------------
     小学校    増加期(76〜81年)    0.099( 3.03)     0.620    
               減少期(82〜95年)    0.746(47.18)     0.994    
     中学校    増加期(80〜86年)    0.209(11.54)     0.957    
               減少期(87〜95年)    0.764(22.69)     0.985    
     高  校    増加期(83〜89年)    0.344(19.72)     0.985    
               減少期(90〜95年)    0.891(87.03)     0.999    
-----------------------------------------------------------------
将来のPT比設定に際しては、2つの回帰分析結果にもとづき、2通りの設定をした。まず設定Aは、回帰分析AによるPT比の弾性値を予測期間の全体に適用するものである。設定Bは、回帰分析Bによる推定結果のうち、児童生徒数の増加期のPT比弾性値を児童生徒数増加が予測される期間に、児童生徒数の減少期のPT比弾性値を児童生徒数減少が予測される期間に、それぞれ適用するものである。
設定A・BそれぞれによるPT比は、表6に示した。この表からもわかるように、設定Aでは、児童生徒数の減少期にはPT比が低下するが、増加期には同じ割合で上昇する。つまり、減少期に教員数をあまり減らさない代わりに、増加期に教員数の手当をあまりしないことを意味する。設定Bでは、児童生徒数の減少期にはPT比が低下する。しかし増加期のPT比上昇幅が小さい。したがって、増加期には教員数がかなり増えることになる。
回帰分析の結果(決定係数)からも分かるように、これまでのPT比の動きは設定Bに近かったということができる。つまり、これまでは、児童生徒数の減少期にPT比の改善が実現し、増加期にはそれに見合う教員数が手当されてきた。これに対して、財政難などを理由に、児童生徒数の増加期に教員数の手当をあまりしないという方向へ政策修正すれば、今後は設定Aに近くなると考えられる。

       表6 PT比の設定
         A.PT比設定A 
--------------------------------------------------------
       │  中 位 推 計     │   低 位 推 計   
   年  │小学校 中学校   高校   │ 小学校 中学校   高校 
--------------------------------------------------------
   95  │  19.4   16.9   16.8   │   19.4   16.9   16.8 
   96  │  18.9   16.7   16.5   │   18.9   16.7   16.5
   97  │  18.4   16.6   16.2   │   18.4   16.6   16.2
   98  │  18.1   16.2   16.1   │   18.1   16.2   16.1
   99  │  17.8   15.8   16.0   │   17.8   15.8   16.0
 2000  │  17.7   15.4   15.9   │   17.5   15.4   15.9
    1  │  17.6   15.0   15.7   │   17.3   15.0   15.7
    2  │  17.6   14.6   15.5   │   17.2   14.6   15.5
    3  │  17.8   14.2   15.2   │   17.1   14.2   15.2
    4  │  18.0   14.0   15.0   │   17.0   14.0   15.0
    5  │  18.2   13.9   14.8   │   17.0   13.8   14.8
    6  │  18.6   14.0   14.6   │   17.1   13.7   14.6
    7  │  18.9   14.1   14.4   │   17.2   13.5   14.4
    8  │  19.2   14.2   14.4   │   17.4   13.4   14.3
    9  │  19.5   14.4   14.4   │   17.5   13.4   14.3
   10  │  19.8   14.7   14.5   │   17.6   13.5   14.2
--------------------------------------------------------

      B.PT比設定B
--------------------------------------------------------
        │  中 位 推 計     │   低 位 推 計   
    年  │小学校 中学校   高校   │ 小学校 中学校   高校 
--------------------------------------------------------
    95  │  19.4   16.9   16.8   │   19.4   16.9   16.8
    96  │  18.9   16.7   16.2   │   18.9   16.7   16.2
    97  │  18.4   16.6   15.8   │   18.4   16.6   15.8
    98  │  18.1   16.3   15.4   │   18.1   16.3   15.4
    99  │  17.8   15.9   15.3   │   17.8   15.9   15.3
  2000  │  17.7   15.5   15.1   │   17.5   15.5   15.1
     1  │  17.6   15.1   14.8   │   17.3   15.1   14.8
     2  │  17.6   14.7   14.4   │   17.1   14.7   14.4
     3  │  17.6   14.4   13.9   │   17.1   14.4   13.9
     4  │  17.6   14.2   13.5   │   17.0   14.2   13.5
     5  │  17.7   14.2   13.1   │   17.0   14.1   13.1
     6  │  17.7   14.2   12.8   │   17.0   13.9   12.8
     7  │  17.8   14.2   12.6   │   17.0   13.8   12.6
     8  │  17.8   14.2   12.5   │   17.1   13.7   12.4
     9  │  17.8   14.3   12.6   │   17.1   13.7   12.3
    10  │  17.9   14.4   12.6   │   17.1   13.7   12.2
--------------------------------------------------------
           *95年は学校基本調査(速報)による実測値。

3.3. 新規需要(教員数増減)予測

教員数の増減によってもたらされるt年の新規需要は、次式によって求めることができる。

t年新規需要=t年教員数−(t−1)年教員数


つまり、t年と前年の教員数の差がt年中(多くは前年度末からt年度はじめ)に満たされると考えている。

3.4. 置換需要(離職数)予測

他方、置換需要(離職数)は、定年によるものが最も多いが、病気、死亡、転職など定年以外の理由によるものもある。ここでは、離職数を規定する要因として年齢が最も重要であると考え、年齢階級別の離職率を推定した。 表7 に、「学校教員統計調査」から得られる年齢階級別離職率の推定値(91年度間の年齢階級別離職数を92年度の年齢階級別教員数で除して求めた)を示している。この推定値を用いて毎年の離職数を予測するには、教員の年齢構成を1歳刻みで推定しておく必要がある。各年齢階級ごとに教員数を5で除して1歳刻みにしたが、25歳未満については、「学校教員統計調査」にもとづいて学歴別に分解した上で、1歳刻みにした。こうして作成した年齢別教員数に 表7 <を適用して、年齢別の離職数を推計した。年齢別離職率は将来にわたって不変とした。年齢別離職数の合計、つまり離職者の総数が置換需要である。

       表7 年齢階級別離職率
   -------------------------------------
                  小学校  中学校   高校
   -------------------------------------
       25歳未満    0.025   0.037   0.055
       25〜29歳    0.020   0.028   0.032
       30〜34歳    0.013   0.014   0.013
       35〜39歳    0.008   0.011   0.009
       40〜44歳    0.009   0.014   0.007
       45〜49歳    0.012   0.016   0.007
       50〜54歳    0.036   0.029   0.010
       55〜59歳    0.081   0.073   0.035
       60〜64歳    1.000   1.000   0.581
       65歳以上     −      −     0.335
   -------------------------------------
       *「学校教員統計調査報告書」より推定

3.5. 教員需要(採用数)予測

t年の教員需要(採用数)は、新規需要に置換需要を加えることによって求めることができる。ただし、採用された教員は次年度以降の離職数に影響を与えるので、採用者の年齢構成(1歳刻み)を推定しておく必要がある。このため、「学校教員統計調査」から算出した採用者の年齢階級別構成比( 表8 )を用いてt年の採用数を年齢別に分解した(採用数を1歳刻みに分解する方法は教員数の分解と同様、25歳未満については採用者の学歴構成を考慮)。年齢別採用数から年齢別離職数を差し引いた値が年齢別教員数の増分(教員数減少の年は負の値になる)になる。この増分をt年の年齢別教員数に加え、さらに年齢をシフト(全員1歳ずつ加齢)させて、t+1年の年齢別教員数とした。以下、3.4.と3.5.を予測期間にわたって繰り返した。
  表8 採用者の年齢階級別構成比
 -------------------------------------
             小学校  中学校    高校
 -------------------------------------
  25歳未満    0.629   0.592   0.478
  25〜29歳    0.220   0.242   0.305
  30〜34歳    0.043   0.046   0.075
  35〜39歳    0.016   0.018   0.036
  40〜44歳    0.020   0.019   0.021
  45〜49歳    0.021   0.025   0.018
  50〜54歳    0.026   0.026   0.023
  55〜59歳    0.021   0.022   0.018
  60歳以上    0.004   0.009   0.027
 -------------------------------------
   *「学校教員統計調査報告書」より

3.6. 都道府県別教員需要予測

教員数の基本となる小・中学校児童生徒数については、全国予測で得られた児童生徒数(中位推計)を都道府県別に分解して2010年までを予測した。分解にあたっては、95年の実測値(学校基本調査)から得られる児童生徒数の都道府県別比率と、2000年、2005年、2010年の予測値を用いた。予測値については、将来の学齢人口の県別予測が公表されていないため、近似的に、厚生省人口問題研究所『都道府県別将来推計人口(平成4年10月推計)』の都道府県別・年齢別将来推計人口(年齢別純移動率が縮小した場合)から算出される次の値を用いた。すなわち、小学校児童数の県別比率は5〜9歳人口の県別比率、中学校生徒数の県別比率は10〜14歳人口の県別比率で代替した。中間年の県別比率は、直線補間で求めた。
高校生徒数については、全国予測と同様、学年進行による推移確率を用いる方法によって予測した。この方法による場合、96年以降の中学校3年生数(県別)が必要になる。それは、全国の該当年齢人口(14歳人口と15歳人口の和の2分の1、中位推計)を95年の中学校3年生数と2000年、2005年、2010年の10〜14歳人口の県別比率によって県別に分解した値(中間年については直線補間)を用いた。推移確率は、3.1.と同じ方法で県別に算出したものを用いた。
教員数は、毎年の児童生徒数をPT比で除して求めた。PT比は設定Aにより、教員の年齢構成は学校教員統計調査に示されている都道府県別年齢構成を用いて順次推計した。置換需要(離職数)、新規需要(教員数増減)、教員需要(採用数)の予測方法は、全国予測と同様である。

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