4.予測結果
4.1. 教員供給
教員供給は、次のように予測した。最も重要な教員供給源である教員養成学部(国立教員養成大学・学部と私立3大学)について、95年度の入学定員をみると、9,400人が小学校教員養成課程、4,750人が中学校教員養成課程、特別教科教員養成課程であり、残り5,615人が特殊教育教員養成課程、幼稚園教員養成課程、養護教諭養成課程、総合科学課程等(ゼロ免課程)であった。そこで、今後の教員養成大学・学部の改組等も見越して、小学校 9,000人、中・高校 4,500人を教員養成大学・学部からの潜在的供給量と考えた。「潜在的」としたのは、教員養成大学・学部卒業者の教員就職率は 100%ではないからである。重要な点は、現状でもそうであるが、将来においても教員養成大学・学部からの潜在的供給量を超える教員需要が発生することが予測されることである(4.2.参照)。この不足分(需給ギャップ)は、一般学部・短大からの参入によってまかなわれると考える。
一般学部・短大における教員免許状取得者は、近年減少傾向にあるものの、94年3月卒業者についてみると、小学校 8,897人、中学校 49,570人、高校 48,502人であり、少なくとも中学校・高校については予想される需要を大きく上回っている。中学校教員免許状取得者と高校教員免許状取得者は重なっている場合が多いことを考慮して、今後における一般学部・短期大学からの潜在的供給量を小学校 9,000人、中・高校48,000人と想定する。そうすると教員養成大学・学部と合わせて、小学校18,000人、中・高校52,500人を新規学卒者による潜在的供給量の全体と考えることができる。教員採用試験を再受験するケースや企業等から教員市場へ参入するケースがかなり存在するため、新規学卒者による潜在的供給量は、教員の潜在的供給量の全体ではないが、以後報告する教員需要の大きさをみる上で、一つの目安となるものではあろう。
4.2. 教員需要
続いて教員需要の結果に移ろう。表10は児童生徒数予測の結果を示している。先に述べたように『日本の将来推計人口(平成4年9月)』を用いているので、データにおける中位推計と低位推計の違いは小学校で1998年から、中学校では2004年から、高等学校では2007年から生じることになる。それ以前については、実際の出生数をもとにしているので将来の児童生徒数といっても、ほぼ確定した数値だといってもよい。小学校の児童生徒数を中位推計と低位推計で比較すると、2000年には10万人にも満たないが、その差はしだいに拡大していき、2005年で68万人、2010年には 129万人もの差が生じることになる。いずれにしても小学校の児童生徒数は2001年から2004年頃にかけて底となり、以後増加に転じる見込みとなっている。
表10 児童生徒数予測 (単位・千人)
────────────────────────────
中 位 推 計 低 位 推 計
年 小学校 中学校 高 校 小学校 中学校 高 校
────────────────────────────
95 8,370 4,570 4,725 8,370 4,570 4,725
96 8,062 4,528 4,546 8,062 4,528 4,546
97 7,803 4,472 4,393 7,803 4,472 4,393
98 7,607 4,370 4,282 7,600 4,370 4,282
99 7,465 4,230 4,237 7,430 4,230 4,237
2000 7,365 4,086 4,183 7,275 4,086 4,183
1 7,324 3,957 4,087 7,152 3,957 4,087
2 7,353 3,829 3,956 7,078 3,829 3,956
3 7,436 3,714 3,822 7,036 3,714 3,822
4 7,548 3,647 3,701 7,009 3,641 3,701
5 7,692 3,633 3,581 7,013 3,598 3,581
6 7,865 3,649 3,474 7,054 3,558 3,474
7 8,056 3,674 3,413 7,117 3,509 3,406
8 8,251 3,717 3,400 7,188 3,477 3,366
9 8,436 3,785 3,414 7,255 3,475 3,328
10 8,598 3,872 3,438 7,307 3,497 3,283
────────────────────────────
*95年は学校基本調査(速報)による実測値
表11は教員数予測を示したものである。最後の行には、予測最終年である2010年の教員数が91年の何倍になるかを、すべての場合について示している。まず、中位推計によって児童生徒数を予測した場合をみると、設定Aでは教員数の増減はあまりみられず、小学校で42万人〜43万人、中学校で26万人〜27万人でほぼ一定である。他方、設定Bでみると、小学校では児童生徒数が増加するに及んで教員数も増加し、2010年には48万人の教員数が予測されている。中学校は設定Bによっても教員数の増加は見込めないが、これは児童生徒数の増加が5〜6年のタイムラグを伴って生じるからである。では低位推計によって、児童生徒数を予測した場合はどうか。これをみると、設定Aにしても設定Bにしても、小学校・中学校ともに2010年までのいずれの時点においても、1995年の教員数を上回るような状態にはならない。その意味で置換需要を中心に教員採用が進行していくことになる。
なお、表11には99年以降のPT比を、設定Bによる98年値で固定した場合の教員数も示しているので参考にされたい。こうした作業を行ったのは、現在進行中の「第6次公立義務教育諸学校教職員配置改善計画」及び「第5次公立高等学校学級編制及び教職員配置改善計画」が1998(平成10)年度をもって終了するが、それ以後の改善はなされないという前提に立ったものである。
表11 教員数予測 (単位・千人)
─────────────────────────────────
児童 PT比設定A PT比設定B 設定B98年値固定
生徒数 年 小学校中学校 高校 小学校中学校 高校 小学校中学校 高校
─────────────────────────────────
95 431 271 281 431 271 281 431 271 281
96 427 271 275 427 270 280 427 270 280
97 423 270 270 423 270 279 423 270 279
中 98 420 269 267 420 268 278 420 268 278
99 418 268 265 418 266 278 413 260 275
2000 417 266 263 417 264 277 407 251 272
位 1 416 265 260 416 262 277 405 243 265
2 417 263 256 418 260 276 406 235 257
3 418 262 251 422 258 275 411 228 248
推 4 419 261 247 428 257 274 417 224 240
5 421 261 243 435 257 273 425 223 233
6 424 261 239 444 257 272 435 224 226
計 7 427 261 236 454 259 271 445 225 222
8 429 262 236 464 261 271 456 228 221
9 432 263 236 473 265 272 466 232 222
10 434 264 237 481 270 273 475 238 223
─────────────────────────────────
2010/95 1.006 0.972 0.844 1.116 0.995 0.972 1.103 0.876 0.794
─────────────────────────────────
─────────────────────────────────
児童 PT比設定A PT比設定B 設定B98年値固定
生徒数 年 小学校中学校 高校 小学校中学校 高校 小学校中学校 高校
─────────────────────────────────
95 431 271 281 431 271 281 431 271 281
96 427 271 275 427 270 280 427 270 280
97 423 270 270 423 270 279 423 270 279
低 98 420 269 267 420 268 278 420 268 278
99 418 268 265 418 266 278 411 260 275
2000 415 266 263 416 264 277 402 251 272
位 1 414 265 260 414 262 277 396 243 265
2 413 263 256 413 260 276 391 235 257
3 412 262 251 412 258 275 389 228 248
推 4 412 261 247 412 257 274 388 223 240
5 412 260 243 412 256 273 388 221 233
6 412 260 239 414 255 272 390 218 226
計 7 413 259 236 417 254 271 394 215 221
8 414 259 235 421 254 271 398 213 219
9 415 259 233 425 254 270 401 213 216
10 416 259 232 427 255 270 404 215 213
─────────────────────────────────
2010/95 0.965 0.956 0.824 0.992 0.941 0.961 0.938 0.792 0.758
─────────────────────────────────
*95年は学校基本調査(速報)による実測値。
教員数増減と離職者の予測にもとづいて算出されるのが教員採用数である。その採用数予測結果は表12に示した。まず、表の中央部分に示しているPT比設定Bによる予測結果をみてみよう。これは、児童生徒数減少期にPT比を低下させ、増加期にはPT比をあまり上昇させないという、これまでの政策を継続するシナリオによる予測結果である。まず中位予測に基づいて、これまでの政策が延長される場合の教員採用数予測を検討してみよう。小学校では長期的減少傾向が、2000年頃に終止符を打ち、2003年に1991年のレベルに回復し、2010年には28,000人ほどの採用数が見込まれることになる。中学校では採用数の減少が2003年頃まで継続するが、その後は増加に転じ、2007年に10,000人、2010年には16,000人程度の採用数が予想されよう。いずれにしても、この政策継続シナリオを採用すれば、2010年にはいずれの校種においても、91年水準を大きく上回り、小中学校を合わせると40,000人を越える教員需要が発生することになる。ではPT比設定Bは変えず、低位推計、つまり出生数が回復しない場合を想定するとどのようになるだろうか。結論的に言えば、低位推計の場合であっても、2010年には1991年の採用水準を上回り、小中学校で30,000人以上の採用数を見込むことができる。もっとも中位推計の場合と比較すれば、かなり低めにはなっている。
次に、PT比設定Aの場合を検討してみよう。PT比設定Aは、児童生徒数減少期にPT比を低下させるが、上昇期には同じ割合でPT比を上昇させるという、政策修正シナリオである。この場合でも、中位推計の場合は、2010年において、いずれの校種においても91年以上の教員需要が発生することがわかる。これを低位推計に当てはめてみると、小学校では2008年に1991年のレベルに回復し、2010年には19,000人程度の教員採用を見積もることができる。それに対して中学校・高等学校では、2010年に1991年の段階に戻っていくのがやっとの状態であることがわかる。
それでは99年以降のPT比を98年値で固定した場合、採用数予測はどのようになるだろうか。先にも述べたように、この場合の将来予測は、今次教職員配置改善計画が終了すれば、新たな改善計画は行われないという前提に立っている。これをみると、98年以降の数年間、中学校においては教員需要がほとんど発生しないという事態が生じる可能性がある。
2003年までの児童生徒数はすでに確定しているので、中位推計、低位推計に関係なくこのような事態が生じる。中学校ほどではないが、高等学校においても2001年から2007年頃まで、教員採用数は極めて限られたものになる。こうした事態が生じるのは、昨今の出生数の減少が、その頃の児童生徒数を直撃するからである。他方、小学校においては第3次ベビーブーム(第2次ベビーブーム世代の子ども)世代が小学生になり、しかも、2003年以降、現在40歳代後半の教員(2008年からは現在40歳代前半の教員)が退職することもあって、PT比を固定したとしても教員需要は大幅に増加することになる。中学校・高等学校では、小学校から遅れて2008年以降に教員需要が大幅に増加するはずである。
表12 採用数予測
───────────────────────────────────
PT比設定A PT比設定B 設定B98年値固定
年 小学校 中学校 高校 小学校 中学校 高校 小学校 中学校 高校
───────────────────────────────────
1991 16,229 12,019 8,856 16,229 12,019 8,856 16,229 12,019 8,856
96 10,554 9,815 4,028 10,609 9,638 8,556 10,609 9,638 8,556
97 10,407 9,315 4,360 10,455 9,069 8,523 10,455 9,069 8,523
中 98 10,609 8,481 5,356 10,647 8,026 8,594 10,647 8,026 8,594
99 10,141 7,591 8,079 10,171 6,944 9,686 4,334 433 7,075
2000 10,784 7,402 8,054 10,806 6,704 9,869 6,567 -218 6,665
位 1 11,693 7,439 6,638 11,705 6,775 9,621 9,751 363 3,820
2 12,821 7,355 5,345 13,881 6,670 9,346 13,707 203 1,370
3 13,738 7,402 5,031 16,835 6,750 9,255 16,909 734 851
推 4 15,744 8,123 5,153 19,983 7,687 9,154 20,201 3,752 1,262
5 16,560 8,850 4,980 22,067 8,662 9,058 22,453 7,027 1,074
6 17,329 9,337 5,273 24,105 9,926 9,104 24,674 9,079 1,702
計 7 17,904 9,577 6,882 25,510 10,603 9,480 26,215 9,879 4,593
8 18,268 9,909 8,666 26,209 11,773 9,909 26,986 11,214 7,731
9 21,092 11,665 10,442 28,841 14,675 11,467 29,618 14,327 10,347
10 20,996 12,030 11,192 28,060 15,995 12,306 28,775 15,843 11,441
───────────────────────────────────
2010/91 1.294 1.001 1.264 1.729 1.331 1.390 1.773 1.318 1.292
───────────────────────────────────
───────────────────────────────────
PT比設定A PT比設定B 設定B98年値固定
年 小学校 中学校 高校 小学校 中学校 高校 小学校 中学校 高校
───────────────────────────────────
1991 16,229 12,019 8,856 16,229 12,019 8,856 16,229 12,019 8,856
96 10,554 9,815 4,028 10,609 9,638 8,556 10,609 9,638 8,556
97 10,407 9,315 4,360 10,455 9,069 8,523 10,455 9,069 8,523
低 98 10,512 8,481 5,356 10,551 8,026 8,594 10,551 8,026 8,594
99 9,724 7,591 8,079 9,758 6,944 9,686 2,772 433 7,075
2000 9,932 7,402 8,054 9,965 6,704 9,869 3,418 -218 6,665
位 1 10,440 7,439 6,638 10,467 6,775 9,621 5,145 363 3,820
2 11,209 7,355 5,345 11,228 6,670 9,346 7,731 203 1,370
3 11,792 7,402 5,031 11,805 6,750 9,255 9,595 734 851
推 4 13,569 8,042 5,153 13,579 7,574 9,154 11,917 3,341 1,262
5 14,395 8,509 4,980 14,552 8,183 9,058 14,004 5,287 1,074
6 15,294 8,648 5,273 16,858 8,334 9,104 16,434 5,559 1,702
計 7 15,961 8,640 6,644 18,409 8,281 9,424 18,075 5,118 4,176
8 16,399 8,937 7,666 19,214 8,656 9,672 18,931 6,219 5,975
9 19,298 10,771 8,440 22,011 10,579 10,362 21,744 9,574 6,829
10 19,291 11,193 8,493 21,516 12,054 10,601 21,240 11,200 6,708
───────────────────────────────────
2010/91 1.189 0.931 0.959 1.326 1.003 1.197 1.309 0.932 0.757
───────────────────────────────────
*1991年は、学校教員統計調査による実測値。
4.3.教員需要の分解
(略、『香川大学教育学部研究報告』第97号、1996年3月、を参照のこと)
4.4.都道府県別予測
(略、『香川大学教育学部研究報告』第97号、1996年3月、を参照のこと)
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