電子1個1個はScödinger方程式に従って運動し,その性質はよくわかっていますが,それが物質中で集団となったとき,全体としてどのような状態を作るかは,物質ごとに異なり,どうなるかはわかりません.実に多彩で,想像もしなかったような電子の秩序状態が形成されます.基本にあるのは,原子の配列と強い電子相関です.これに起因する近藤効果、電気磁気多極子秩序、キラル磁性体におけるらせん磁気構造など、結晶構造という空間対称性の中で物質中の電子集団が創出する様々な秩序現象を、共鳴X線散乱・中性子散乱といった量子ビームの特性をフルに活用した観測と,極低温、強磁場、高圧下でのマクロな熱・輸送特性測定とを組み合わせて研究しています。これらの物質の試料作製や、新奇な現象を示す新物質の探索にも取り組んでいます。学内外を問わず,大学院生(特に博士課程)を広く募集しています。

We study various kinds of interesting phenomena originating from electron correlations in condensed matters: Kondo effect, multipole orderings, helical magnetic structures in chiral magnets, etc. We study them by means of macroscopic thermal, magnetic, and transport properties at low temperatures, high magnetic fields, and high pressures, and also by microscopic methods of x-ray and neutron scattering. We grow samples for these experiments and also try to find new compounds exhibiting these interesting properties.

最近の研究から

キラル磁性体におけるらせん磁気秩序と電気四極子秩序の競合 

三方晶系の1軸性キラル磁性体DyNi3Ga9における多段逐次相転移の機構が明らかになった.多段相転移が格子非整合ならせん磁気秩序(TN'<T<TN),格子整合ならせん磁気秩序(TN''<T<TN'),強四極子秩序によって誘起される単斜晶系への転移とキャント強磁性を伴うq=0の反強磁性秩序(T<TN'')によるものであることが共鳴X線回折によって明らかになった.大きな軌道角運動量(L=5)とスピン角運動量(S=5/2)による巨大角運動量(J=15/2)をもち,磁気双極子だけでなく大きな電気四極子自由度ももつキラル磁性体で,Dzyaloshinskii-Moriya相互作用による格子非整合ならせん磁気秩序と格子整合な強四極子秩序は相矛盾する秩序であるが,これらがどのように競合し,秩序が移り変わるのか,マクロ物性ではよくわからなかったミクロな機構が明らかになった.秩序モーメントが小さな転移温度直下では結晶場異方性が弱いため,DM相互作用によるらせん秩序が実現するが,秩序モーメントが発達する低温では四極子秩序が支配的となってらせん秩序は消える.一方,強い反強磁性交換相互作用は全温度領域で強く働き,らせん秩序相ではab面内の最近接Dyモーメントが反強磁性的に結合したまま,c軸方向にらせんを描いて伝播するという,新奇な構造をもたらすことが明らかになった.

"Competition between helimagnetic and ferroquadrupolar ordering in a monoaxial chiral magnet DyNi3Ga9 studied by resonant x-ray diffraction",
M. Tsukagoshi, T. Matsumura, S. Michimura, T. Inami, and S. Ohara,
Phys. Rev. B. 105, 014428-1-12 (2022). LinkIcon

磁場によって誘起される電荷秩序と反強磁性の不思議な関係 

立方晶充填スクッテルダイト化合物SmRu4P12で観測された磁場誘起型の原子変位と磁場と平行な長短反強磁性秩序.背後にP12分子軌道に生じた磁場誘起電荷秩序とSm-f軌道に生じた結晶場準位の交替型秩序があると予想される.反強磁性秩序モーメントは本来は磁場と垂直になったほうがZeemanエネルギーで有利であるが,磁場と平行な長短型反強磁性をあえて選ぶ電子間相互作用の機構は何であるかがこの系の核心部分.体心立方格子におけるPの分子軌道バンドが本質的にもつネスティング不安定性に,p-f混成によってf電子自由度が結合することで生じたものと考えられている.当研究グループを中心に国内外の放射光施設と中性子散乱実験施設で行われた共鳴X線回折,偏極中性子回折,共鳴軟X線回折,磁気円偏光二色性の実験によって20年来の問題が解決されたといえる.これら先端的量子ビームの特徴を最大限に生かし切って得られた成果でもある.

"Isotropic parallel antiferromagnetism in the magnetic-field-induced charge-ordered phase of SmRu4P12 caused by p-f hybridization",
T. Matsumura, S. Michimura, T. Inami, C. H. Lee, M. Matsuda, H. Nakao, M. Mizumaki, N. Kawamura, M. Tsukagoshi, S. Tsutsui, H. Sugawara, K. Fushiya, T. D. Matsuda, R. Higashinaka, and Y. Aoki,
Phys. Rev. B. 102, 214444-1-11 (2020). LinkIcon

Gd化合物で見つかった新種の電子スピン秩序:スピン三量体のらせん秩序

磁性体Gd3Ru4Al12で形成されるSpin Trimer(スピン三量体,GdのS=7/2スピン3つが合成スピンS=21/2を形成したもの)によるらせん磁気秩序状態.当研究グループのメンバーを中心に行われた共鳴X線回折実験により実証された.たとえば,よくみられるS=0のSpin Dimerは ( |↑↓〉– |↓↑〉)/√2のように表され,2つのサイトのスピンが合成スピン0を作る状態であるが,それには電子が2つのサイトを往来する必要がある.一方,GdのスピンS=7/2は1つのGdイオンによく局在した7個の電子によるものである.遍歴性のあるCeやYbのf電子ではなく,局在性の高いGdのf電子は通常はサイト間を遍歴することはないと考えてよく,合成スピンS=21/2状態を形成するというだけでも不思議なことである.しかもその合成スピンがらせん秩序を形成するというのである.極めてめずらしい例だと思われたのであろう,本論文はJPSJ Editors' Choiceに選ればれた.

"Helical Ordering of Spin Trimers in a Distorted Kagome Lattice of Gd3Ru4Al12 Studied by Resonant X-ray Diffraction",
T. Matsumura, Y. Ozono, S. Nakamura, N. Kabeya, and A. Ochiai,
J. Phys. Soc. Jpn. 88, 023704-1-5 (2019). LinkIcon

キラル磁気ソリトン格子の形成:極低温磁場下での共鳴X線回折による観測

三方晶系の1軸性Chiral磁性体Yb(Ni1-xCux)3Al9で実現するChiral Magnetic Soliton Lattice.ゼロ磁場でのらせん磁気秩序が磁場で強制強磁性状態に変化する過程で,局所的なねじれ構造が周期的に配列する非一様な状態が生じる.鏡映面と反転心をもたないキラル磁性体の特徴の一つで,Dzyaloshinskii-Moriya型相互作用によって巻き方が限定されることが背景にある.f電子系では初めての観測例となった.(対称性の高い物質でもらせん磁性は多くあるが,そのような系では左右の巻き方のらせんが共存できるため,磁場中ではファン構造と呼ばれる対称構造が現れる.)当研究グループのメンバーを中心にSPring-8で行われた共鳴X線回折実験により実証された.円偏光X線を使った低温磁場中共鳴X線回折という極めて特殊な実験である.

"Chiral Soliton Lattice Formation in Monoaxial Helimagnet Yb(Ni1-xCux)3Al9",
T. Matsumura, Y. Kita, K. Kubo, Y. Yoshikawa, S. Michimura, T. Inami, Y. Kousaka, K. Inoue, and S. Ohara,
J. Phys. Soc. Jpn. 86, 124702-1-12 (2017). LinkIcon

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