第2次 フィリピン調査
漁村の多面的機能とEcosystem-based Co-Management
パナイ島 バナテ湾 2005年7−8月


昨年に引き続き,調査チームはフィリピン・パナイ島のバナテ湾において,漁家聞き取り調査を実施いたしました。 昨年は3つの地区(バランガイ)で悉皆調査をいたしましたが,今年は,昨年聞き取りをした漁家の中から,その地区で代表的と思われる漁具を用いている漁家を選んで世帯の経済状況や漁業実態について調査をいたしました。

Barangay Alacaygan(アラカイガン地区)

アラカイガンで用いられている主な漁具

Long−line(ハエナワ)

Push−net(プッシュネット)

カニカゴ:最近カニカゴ漁が盛んになっている
アラカイガンで主に用いられている漁具です。 この他に,”Fish Coral”(定置の一種:別のページ「フィリピン・バナテ湾で用いられている主な漁具 」をみてください),底刺し網などがあります。プッシュネットはアセテス(オキアミの一種)漁獲するマニュアルの漁具ですが,この地区では特に盛んです。最近,カニ漁が盛んになっていますが,底刺し網とともによく使われているのがカニカゴです。竹で編んだ小さなカゴです。

アセテス(オキアミの一種)の加工品作り

乾燥させて

塩を加えてペースト作り

エビのペースト

エビのペースト
アセテスは漁獲後ただちにバナテなどの市場で販売されるか,ペーストに加工されて販売されます。 漁がピークを迎える時期には量が多くて漁家だけでは処理できない時にはそのまま販売されます。

アセテスのスモーク作り

手作りの施設でペーストがスモークされます。
スモーク作りも行われています。簡単な施設ですが,結構,おいしいスモークができあがります。

アラカイガンのマングローブ

漁民が植栽したマングローブ
アラカイガンの漁家の多くは海岸近くに住居を構えていますが,時に荒波が押し寄せてきたりして壊れてしまうことがあります。 今はマングローブを植栽するプロジェクトは実施されていませんが,住民の多くは機会を見つけては自宅のまわりにマングローブを移植しています。

貝類養殖

スティックをもちいたカキ養殖

カキ
一部の地区ではカキを中心とした貝類養殖が行われています。規模はきわめて零細です。 BBRMCIでは,漁獲漁業の代替収入とするために貝類養殖を増やすことを考えています。

アラカイガンの光景

網を押してアセテスを採る

Typical house of Alacaygan

聞き取り調査をした漁家

バランガイ・ブラランの様子

漁具

スパニッシュ・マッケラルに使われる針

タンギギ釣りに使われる針

ラガウ釣りに使われる針

リフト・ネット
ブラランで使われている漁具の写真です。釣り漁業が盛んです。 大工など様々な副業をもっている人が多いのがこの地区の特徴です。街中にあって漁家が密集しています。

リフト・ネット

釣り

釣りの各種

刺し網

さまざまな種類の塩干魚
ブラランでは多種類の塩干魚が生産されている。狭い浜辺にはところ狭しと干し台が並べられています。市場に隣接しているので販売は容易だと思われます。

ワタリガニ(Blue Swimming Crab)
ブラランでもカニの漁獲が増えています。

貸し金業者が発行する通帳

“RJ & A” は貸し金業者の名前
ブラランを始めとするバナテの漁村では貸し金業者が多数いて,住民の資金需要に応えています。 公的な資金融資機関がなく,銀行なども零細漁民を対象としないことから,漁民の多くは水産物取扱商人や貸し金業者,友人,親戚からお金を借ります。 利子率はいちがいにはいえません。ケースバイケースのようです。

“パカロイ”(刺し網)の魚網を修理する乗組員
中型の刺し網漁業は多数の乗組員を雇用しています。1隻あたり6−7人が乗り組みます。バナテ湾周辺には数多くの乗組員世帯があります。 漁村において低所得層,貧困層を形成するのはこの世帯の人たちです。歩合制での賃金支払いが一般的で,漁のない時期だと1日20−30ペソという日も珍しくありません。これでは家族は暮らしていけません。
今回,私たちは,これらの乗組員世帯についても聞き取りをしました。彼らのなかには持続的な資源管理の必要性を朴訥と説く人も少なくありません。

バロタック・ビエホのサンフランシスコ
BBRMCIは4つの町の海域を管理していますが,一番新しく加盟したのがバロタック・ビエホです。 ここにサンフランシスコというバランガイがあります。ここでも昨年と同様に調査をしました。 町から離れたところにある純漁村です。一見したところ漁業以外に産業らしいものはありません。バナテにあるアラカイガンやブラランのように町に近い漁村とは雰囲気が違います。

サンフランシスコの漁協

立派になった漁協の建物

漁協のマネージャー
サンフランシスコでは漁民からの聞き取りに加えて,漁協,漁民の協会,資源管理組織(BFARMC)の組織や活動について調査をしました。 漁協がある地区は少ないのですが,サンフランシスコでは事業も経営も比較的順調です。漁民組合員の経営や生活の向上に貢献しています。

漁協のサリサリ・ストア

日常生活雑貨を扱っている

漁船燃油や漁具も供給している
漁協は日常生活雑貨,燃油,エンジン・オイル,漁具などを扱っている。周辺にサリサリ・ストアがないために,非組合員の利用も多い。


組合員がもっている台帳
漁協は水産物の買い付け・販売も手がけています。漁協は組合員の販売代金を原資にして,日常生活用品や生産資材の掛売りを行っています。 この組合員台帳には組合員との間の取引状況が記載され,組合員に対する債権額がわかるようになっています。

サンフランシスコの様子

住民の信頼が厚いバランガイ・キャプテン

パナイ島・サンホセ
サンホセはパナイ島西部にある町ですが,私たちはバナテ湾の調査の合間を縫って,同地で活動を続けているNGO組織”Process”をたずねました。 参加型の沿岸資源管理を中心とした活動について聞き取りをいたしました。

バランガイ・リパタの地図(マングローブプロジェクト)
リパタという名のバランガイではマングローブ植林が行われています。プロセスが住民参加のもとで進めているプロジェクトです。

リパタのマングローブ植林
マングローブを植林している現場。荒い波が押し寄せるところもあるが,なんとか育っている。

サンホセのMarine Protected Area (MPA))

MPAに関するルールを説明している

MPAのゾーンを示している
サンホセの漁村では資源管理の一環としてMPAを設置しています。サンゴ礁を保護し,資源の保全をはかろうというものです。 このルールはマニシパル自治体で承認された条例ですので,違法漁業に対する取締りを関係機関と協力してできます。


MPAの位置を知らせるブイ

保全だけでは漁民が困るため、MPAの周辺には
FAD(集魚施設)が設置されている
住民参加のもとで決めたMPA,その存在を知らせるためにブイが設置されています。この中に入って操業することは許されてはいません。 MPAの周辺には集魚施設(Fish Aggregating Devices)が設置されています。これは,成長した魚はとってもよいというもので,MPAを設置する「代替」として考えられています。

Fishing gears

ハエナワ

ハエナワ

プッシュネット

突き漁業

突き漁業
この村ではイルカ漁が行われています。オオッピラに獲って販売してというわけにはいかないようですが,イルカ肉を流通させる商人が何人かいるようです。 イルカの肉は安価でタンパク源として,山中に住む住民には重宝がられているようです。でも,サンホセの市場で公然と売られるというようなことはないようです。

サンホセの光景

漁船

ニッパ

サンホセの市場

イロイロ市の市場

市場の様子
バナテはパナイ島東部の魚の集散地になっています。 バナテ湾の水産物はもとより,周辺地域から移送されてきたものがバナテのものと一緒にイロイロ市に販売されます。

私たちの調査はバナテ湾の沿岸資源管理に焦点をあてていますが,機会をみつけて,バナテ湾に水揚げされる水産物のフードシステムを描いてみたいと思っています。