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Thaxtomin -

目次

http://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/summary/summary.cgi?sid=57570867&viewopt=PubChem

「ジャガイモそうか病」を引き起こす放線菌が作る、非常に重要な毒素。セルロース合成を阻害する。

Thaxtomin A: evidence for a plant cell wall target Fry BA and Loria R. (2002) Physiological and Molecular Plant Pathology. 60: 1-8.

シロイヌナズナの培養細胞で PCD を引き起こす。

Thaxtomin A induces programmed cell death in Arabidopsis thaliana suspension-cultured cells. Duval I, Brochu V, Simard M, Beaulieu C, Beaudoin N. Planta. 2005 Nov;222(5):820-31. Epub 2005 Jul 15.

http://www.tuat.ac.jp/~chemreg/research/potato.html サクストミンに関して優れた研究をされている、夏目先生のホームページ

同じ「セルロース合成阻害剤」でも、サクストミンの作用は DCB, イソキサベンと異なるようである。DCB, イソキサベンは芽生えの根を著しく肥大させる。サクストミンも根を肥大させるが、その度合いはあまり強くない。伸長阻害の方が強く表れる。寒天培地で芽生えを育成した場合、DCB, イソキサベンは地上部に与える影響が比較的小さい。適当な濃度では根が著しく肥大していても地上部はほとんど影響が出ない。しかしサクストミンでは地上部にも影響が出やすい。

DCBIsoxabenThaxtomin と関連するマイクロアレイの結果が公開されている。http://www.ebi.ac.uk/microarray-as/aer/#ae-main[0] ArrayExpress のホームページで、"Arabidopsis DCB" "Arabidopsis isoxaben" "Arabidopsis thaxtomin" のようにサーチするとデータを得られる。"Arabidopsis DCB" で出てくるものは、実際は isoxaben-habituated cell のデータ (Manfield IW 2004) らしい。説明文が間違っている。

Habituation to thaxtomin A in hybrid poplar cell suspensions provides enhanced and durable resistance to inhibitors of cellulose synthesis.   Brochu V, Girard-Martel M, Duval I, Lerat S, Grondin G, Domingue O, Beaulieu C, Beaudoin N.   BMC Plant Biol. 2010 Dec 10;10(1):272.   アレイによる分析がされている。

サクストミンと病原菌応答活性化

Chemical Activation of EDS1/PAD4 Signaling Leading to Pathogen Resistance in Arabidopsis   Plant Cell Physiol. 2018 Aug 1;59(8):1592-1607. doi: 10.1093/pcp/pcy106.   Shachi Joglekar など   PMID: 29931201

サクストミン生合成と一酸化窒素 Nitric oxide

The emergence of nitric oxide in the biosynthesis of bacterial natural products.   Caranto JD.   Curr Opin Chem Biol. 2019 Jan 10;49:130-138. doi: 10.1016/j.cbpa.2018.11.007. [Epub ahead of print] Review.   PMID: 30640032

サクストミンにはニトロ基が存在する。ニトロ化には一酸化窒素が必要で、バクテリアは一酸化窒素を生合成する酵素を保持している。

サクストミンとは関係ないが、一酸化窒素は細胞内の蛋白質のチロシンをニトロ化することがある。   Metal-catalyzed protein tyrosine nitration in biological systems.   Campolo N, Bartesaghi S, Radi R.   Redox Rep. 2014 Nov;19(6):221-31. doi: 10.1179/1351000214Y.0000000099. Epub 2014 Jun 30. Review.   PMID: 24977336

作用機構に関する研究

カルシウムイオンとサクストミン

カルシウムイオンの細胞内流入を、サクストミンが数分以内に一過的に強く促進することが示されている。サクストミンの作用を考える上で重要視されている。

Plant cell growth and ion flux responses to the streptomycete phytotoxin thaxtomin A: calcium and hydrogen flux patterns revealed by the non-invasive MIFE technique.   Tegg RS, Melian L, Wilson CR, Shabala S.   Plant Cell Physiol. 2005 Apr;46(4):638-48. Epub 2005 Mar 7.

サクストミンの作用に、カルシウムイオンチャネル、水素イオンの放出(オーキシンと関連?) が関与していることを示唆している。 すでに「土壌の pH を適切に調節する」ことがジャガイモそうか病に対する対策として確立されている。pH を低めにした方がそうか病が出にくくなるそうである。pH を調節することは、水素イオンの量を適切に管理することである。細胞外 pH に感受性の高い因子(例えばエクスパンシンやグルカナーゼなど)が、サクストミンによる細胞傷害作用に関わっているのかもしれない。しかしエクスパンシンやグルカナーゼの活性は pH が低い方が高まることが多い。

http://www.bio.nagoya-u.ac.jp/gcoe/event/detail.php?id=1227754112   2008年度 若手顕彰発表(GCOE Award)   小川博士が、「CLV3とCLV1の結合は,弱酸性条件下でのみ検出できる」ということを発見されている。細胞外 pH はオーキシンの作用によって低下することが知られている。フシコキン(フシコクシン)という植物毒素は H+ - ATPase を活性化して細胞外を酸性化する。 細胞外空間の pH は、細胞外リガンドとレセプターの結合に影響を与えることで細胞内に影響を与えるという仕組みもあり得る。

An early Ca2+ influx is a prerequisite to thaxtomin A-induced cell death in Arabidopsis thaliana cells.   Errakhi R, Dauphin A, Meimoun P, Lehner A, Reboutier D, Vatsa P, Briand J, Madiona K, Rona JP, Barakate M, Wendehenne D, Beaulieu C, Bouteau F.   J Exp Bot. 2008;59(15):4259-70. Epub 2008 Nov 17.

Fig.2 では、サクストミンをシロイヌナズナ培養細胞に与えることで細胞内 calcium 濃度が急速に一過的に高まることが示されている。これも、H+-ATPase によってプロトンが細胞内から細胞外へ能動輸送され、細胞膜が過分極(外側がもっと+になる)することでカルシウムイオンチャネルが開口するのかもしれない。しかし単なる想像にすぎない。

Transcriptional profiling in response to inhibition of cellulose synthesis by thaxtomin A and isoxaben in Arabidopsis thaliana suspension cells.   Duval I, Beaudoin N.   Plant Cell Rep. 2009 May;28(5):811-30. Epub 2009 Feb 7.

サクストミン、イソキサベンを細胞に与えた際の遺伝子発現変化をマイクロアレイで調べた結果が示されている。カルシウムイオンと関連がある遺伝子群が、発現増加する遺伝子に多く含まれていた。接触刺激、mechanical agitation で発現増加するものと部分的に共通性があった (TCH3, TCH4)。接触刺激に対する応答にもカルシウムが関わっていることが既に知られている。

Two different signaling pathways for thaxtomin A-induced cell death in Arabidopsis and tobacco BY2.   Meimoun P, Tran D, Baz M, Errakhi R, Dauphin A, Lehner A, Briand J, Biligui B, Madiona K, Beaulieu C, Bouteau F.    Plant Signal Behav. 2009 Feb;4(2):142-4.

Fig.2 では、サクストミンをシロイヌナズナ培養細胞に与えることで細胞内 calcium 濃度が急速に一過的に高まることが示されている。しかしタバコBY2細胞では、その効果は全くなかった。それぞれの培養細胞で、原形質膜に存在するイオンチャネルの種類が違っていたりするのだろう。

Thaxtomin A affects CESA-complex density, expression of cell wall genes, cell wall composition, and causes ectopic lignification in Arabidopsis thaliana seedlings.   Bischoff V, Cookson SJ, Wu S, Scheible WR.   J Exp Bot. 2009;60(3):955-65.

サクストミン処理は過剰なリグニン形成を引き起こす。他のセルロース合成阻害剤処理、さらにセルロース合成変異体でも見られる形質である。

カルシウムイオンと関連する CDPK の機能を抑制することで、過剰なリグニン形成が起きることが報告されている。サクストミン → (プロトンポンプ?) → カルシウムイオン → CDPK → リグニン形成の制御 というつながりが推測できる。しかし証拠はない。

RNA interference identifies a calcium-dependent protein kinase involved in Medicago truncatula root development.   Ivashuta S, Liu J, Liu J, Lohar DP, Haridas S, Bucciarelli B, VandenBosch KA, Vance CP, Harrison MJ, Gantt JS.   Plant Cell. 2005 Nov;17(11):2911-21. Epub 2005 Sep 30.

Abstract に "Silencing Ca2+-dependent protein kinase1 (CDPK1) resulted in significantly reduced root hair and root cell lengths." "Additionally, microarray analysis revealed that silencing CDPK1 alters cell wall and defense-related gene expression." と記載されている。CDPK と細胞壁に関連があるらしい。

根が短くなると同時に根毛も短くなっている (Fig.1D)。フロログルシノールでリグニンを染めたデータもある (Fig.6B)。根のリグニンが増えている。細胞壁が自家蛍光を発するようになっている。

その他の可能性(特に水素イオン)

http://www.potatonews.jp/ ポテトニュースジャパン のホームページで、International Potato Scab Symposium (IPSS2004) の講演要旨を読むことができる。そうか病は、世界的にジャガイモの生産量に影響を与えている非常に重要な植物病害である。

ウィルソンら(オーストラリア連邦、タスマニア州ニュータウン、タスマニア農業研究センター)は、サクストミンの作用がオーキシンを同時に処理することで打ち消され軽減されることを示している。非常に興味深い、注目すべき成果である。オーキシンの受容体、作用機構については近年すばらしい進歩、成果が上がっている。彼らはオーキシンの作用機構とサクストミンの作用に関連がある可能性を考えている。

オーキシンの作用機構の、転写調節に関わる部分にはユビキチン系、プロテアソームが重要な役割を果たしている。

それだけでなく、オーキシンは plasma membrane に局在する H+-ATPase 活性を増大させることも知られている。この作用に関して、名古屋大学の高橋博士らによって優れた成果が報告された。よく解明されている TIR を受容体としたオーキシン作用とは全く別の機構で、H+-ATPase はオーキシンによって活性化されることが明らかにされた。それにはリン酸化が関与している。   http://www.nagoya-u.ac.jp/research/pdf/activities/20120418_sci.pdf

PIN1 というオーキシンを細胞外に排出する重要なトランスポーターがある。これは auxin:hydrogen symporter/ transporter であり、オーキシンを細胞外に排出するために、細胞内のプロトンを必要とする。細胞内外のプロトン濃度、すなわち pH の重要性が、最近重力屈性、光に対する応答などにおいても明らかにされているそうである。

オーキシンの作用(特に細胞伸長)に対して、サクストミンは阻害したりするのだろうか。これはすぐに試せるから、効くのなら報告があってしかるべきだがそういう論文はないらしい。

サクストミンは、トリプトファンとフェニルアラニンが結合したような構造をしている。ペプチドの構造を mimic していると考えることもできる。シリンゴリン Syringolin という植物毒素は a mixed non-ribosomal peptide/polyketide synthetase によって合成される。3,4-Dehydrolysine, 5-Methyl-4-amino-2-hexenoic acid, Valine, Valine が結合し閉環したような構造である。

シリンゴリン Syringolin はプロテアソーム阻害剤であることが明らかにされた。

A plant pathogen virulence factor inhibits the eukaryotic proteasome by a novel mechanism.   Nature 452, 755-758 (10 April 2008)    

サクストミンの生合成にも peptide synthetase が関与している。シリンゴリン syringolin と類似している。 作用も類似しているかもしれない。

The txtAB genes of the plant pathogen Streptomyces acidiscabies encode a peptide synthetase required for phytotoxin thaxtomin A production and pathogenicity.   Healy FG, Wach M, Krasnoff SB, Gibson DM, Loria R.   Mol Microbiol. 2000 Nov;38(4):794-804.

しかしサクストミンの作用とプロテアソームなどのプロテアーゼが関連しているかどうかはわからない。このようないい加減な予想が正しい可能性は高くない。でも調べてみる価値はあるかもしれない。シリンゴリンは非常に特徴的な遺伝子発現変化を引き起こすが、公開されているデータではサクストミンではそのようなことは起きていないようなので、直接プロテアソームに効くと言うことはないらしい。

オーキシンとの関連で言うなら、H+-ATPase 活性のほうが関係している可能性が高い。H+-ATPase は細胞外にプロトンを放出する。細胞外の pH が低下する。「土壌のpH を低めにした方がそうか病が出にくくなる」ということと関係があるかもしれないが、証拠は全くない。H+-ATPase の活性化で重要な、リン酸化とサクストミンに関係があるかもしれない。しかし単なる想像に過ぎない。

Proteasome activity profiling: a simple, robust and versatile method revealing subunit-selective inhibitors and cytoplasmic, defense-induced proteasome activities.   Gu C, Kolodziejek I, Misas-Villamil J, Shindo T, Colby T, Verdoes M, Richau KH, Schmidt J, Overkleeft HS, van der Hoorn RA.    Plant J. 2009 Dec 23. [Epub ahead of print]   という論文が発表された。プロテアソームの活性を簡易に見積もることが出来る。benzothiadiazole (BTH) という抵抗反応を誘導する物質がプロテアソーム活性を高めると abstract に書かれている。

植物ではホルモン作用、光に対する応答、病原菌に対する抵抗反応など非常に多くの物事にプロテアソームを含むタンパク質分解系が関与している。細胞壁を含む細胞表層についても、プロテアソームを含むタンパク質分解系が直接または間接的に関連していることもあり得なくはない。

植物の細胞膜タンパク質に、E3 ligase で修飾されるものが存在することが明らかにされている。そのタンパク質 (RING1) は フモニシン で引き起こされる PCD に関与している。 Lin, S.S., Martin, R., Mongrand, S., Vandenabeels, S., Chen, K.C., Jang, I.C., Chua, N.H. 2008. RING1 E3 ligase localizes to plasma membrane lipid raft to trigger FB1-induced programmed cell death in Arabidopsis. Plant J. DOI: 10.1111/j.1365-313X.2008.03625.x

タンパク質の輸送機構に影響を与えている可能性も想定できる。Scheible WR らの 2003 年の論文ではタンパク質輸送機構の構成因子らしき遺伝子が単離されてきている。

An Arabidopsis mutant resistant to thaxtomin A, a cellulose synthesis inhibitor from Streptomyces species.   Scheible WR, Fry B, Kochevenko A, Schindelasch D, Zimmerli L, Somerville S, Loria R, Somerville CR.   Plant Cell. 2003 Aug;15(8):1781-94.

At3g59280が原因遺伝子として単離されている。論文には記載されていないが、この遺伝子は Pam16 という因子と相同性がある。 Pam16 はミトコンドリアへのタンパク質輸送に関与している。ATTED-II でもAt3g59280 がミトコンドリア局在性であると予測されている。ミトコンドリアの機能が低下するとセルロースができにくくなるのかもしれない。しかしそれ以上の証拠はない。

http://www.springerlink.com/content/w572234p25448612/   Relationship of resistance to common scab disease and tolerance to thaxtomin A toxicity within potato cultivars    Robert S. Tegg and Calum R. Wilson   European Journal of Plant Pathology Volume 128, Number 2, 143-148, DOI: 10.1007/s10658-010-9648-3

Mechanisms of thaxtomin A-induced root toxicity revealed by a thaxtomin A sensitive Arabidopsis mutant (ucu2-2/gi-2).   Tegg RS, Shabala S, Cuin TA, Wilson CR.   Plant Cell Rep. 2015 Oct 30. [Epub ahead of print]   PMID: 26518425

Enhanced resistance to the cellulose biosynthetic inhibitors, thaxtomin A and isoxaben in Arabidopsis thaliana mutants, also provides specific co-resistance to the auxin transport inhibitor, 1-NPA.   Tegg RS, Shabala SN, Cuin TA, Davies NW, Wilson CR.   BMC Plant Biol. 2013 May 3;13:76. doi: 10.1186/1471-2229-13-76.   PMID: 23638731

ニトロ基とサクストミン

Nitration of a peptide phytotoxin by bacterial nitric oxide synthase.   Johan A. Kers1, et al. Nature 429, 79-82 (6 May 2004)

サクストミンには同族体がいくつか存在する。それらにはすべてニトロ化されたインドール環が存在する。その構造が植物毒素としての活性に必須であることが示されている。ニトロ化には動物の一酸化窒素合成酵素と似た酵素が関わっていることが、Johanらの論文で示されている。

その酵素のホモログはシロイヌナズナには存在しない。この結果はサクストミンの植物毒素としての効果と一酸化窒素との関係を想像させるが、単なる想像に過ぎない。植物での一酸化窒素の研究は難しいところがある。RNS (活性酸化窒素種)に関する研究が進んでいる。


ニトロ基が付加されることによって、化合物に親電子性が付与されることがある。cGMP はそのグアニン部分がニトロ化されることによって親電子性を獲得する。

8-Nitro-cGMP の発見と生理機能の解明 藤井、澤、赤池 各博士による解説 化学と生物(日本農芸化学会誌)2010年1月号 24ページの図3に紹介されている。 ニトロ基の部分が、レドックス活性の高い SH 基を持つ蛋白質と反応し付加物を形成する。それらの蛋白質は ROS(活性酸素種), RNS (活性酸化窒素種)と反応することもできる。ROS や RNS に対するセンサーになっている。細胞内には大量にグルタチオンなどが存在する。しかしそれらの低分子 SH 化合物の SH 基とは、pKa の違いにより反応しにくい。

サクストミンも、ニトロ基の部分で細胞内の酸化ストレスセンサー蛋白質と反応することも考えられる。植物のセルロース合成酵素にはシステインが規則的に並んだドメインがある。その部分のシステインとサクストミンが反応する可能性もなくはない。 サクストミンと RNS に、作用機構の相似性があるかもしれない。

赤池先生のグループによって、さらにすばらしい成果が発表されている。

硫化水素イオンは親電子物質のスルフヒドリル化を介しレドックスシグナル伝達系を制御する   2012年7月30日   澤 智裕1・西田基宏2・赤池孝章1   (1熊本大学大学院生命科学研究部 微生物学分野,2九州大学大学院薬学研究院 創薬育薬産学官連携分野)

Hydrogen sulfide anion regulates redox signaling via electrophile sulfhydration.   Motohiro Nishida, Tomohiro Sawa, Naoyuki Kitajima, Katsuhiko Ono, Hirofumi Inoue, Hideshi Ihara, Hozumi Motohashi, Masayuki Yamamoto, Makoto Suematsu, Hitoshi Kurose, Albert van der Vliet, Bruce A. Freeman, Takahiro Shibata, Koji Uchida, Yoshito Kumagai, Takaaki Akaike   Nature Chemical Biology, 8, 714-724 (2012)

日本語による解説が   http://first.lifesciencedb.jp/archives/5330   で公開されている。図2を見ると、ニトロ基を持った親電子性化合物 8-Nitro-cGMP が H2S でスルフヒドリル化されるように書いてある。サクストミンも同じように反応するなら、H2S で不活性化するかもしれない。しかしかえって毒性が増すこともあり得る。H2S は、嫌気的な土壌で大量に発生することが知られているので植物にも関連性は高い。植物細胞自体もシステインから H2S を発生し、ホルモンのように働いていることが明らかにされてきた。注目を浴びている。

植物でも 8-Nitro-cGMP が孔辺細胞で生成し、気孔の閉鎖を誘導していることが報告されている。2010年3月植物生理学会 P2D008 8-ニトロcGMP は孔辺細胞で生成する   上土井、七里、赤池、澤智、岩井 各先生の発表   気孔の開閉にはイオンチャンネルが重要な役割を果たしている。ニトロ基を持つ生理活性化合物の標的に、イオンチャンネルを制御する因子があるのかもしれない。

Nitrated Cyclic GMP Modulates Guard Cell Signaling in Arabidopsis.   Joudoi T, Shichiri Y, Kamizono N, Akaike T, Sawa T, Yoshitake J, Yamada N, Iwai S.   Plant Cell. 2013 Feb 8. [Epub ahead of print]   PMID: 23396828

東京理科大 朽津教授らのグループによって、細胞表面のNADPH oxidase が生産する活性酸素によって活性化するカルシウムチャネル(細胞内への流入)の優れた研究が行われている。サクストミンのニトロ基のターゲットが、活性酸素で活性化されるイオンチャンネルだったりする可能性もある。


ニトロ基がついた芳香環は、低酸素で還元代謝を受けてヒドロキシルアミンに変化し親電子剤として細胞内の分子と反応することがある。 
「実験医学」という雑誌の2007年9月号の2154ページに、そのことについて書かれている。   http://www.phs.osaka-u.ac.jp/homepage/b006/sub2.html  

サクストミンも、ニトロ基が低酸素の条件下で還元代謝を受けて活性を持つようになるという可能性もあり得る。 しかし、ジャガイモそうか病は高温・乾燥の土壌条件下で多発するそうなので、「還元代謝で活性化する」というのは違うような気もする。 でも、実際に還元されるのは植物細胞内だろうから、問題ないのかもしれない。

すでに「土壌の pH を適切に調節する」ことがジャガイモそうか病に対する対策として確立されている。 サクストミンを活性化できなくなるのかもしれない。しかし証拠はない。 もしかしたら、pH を調節することで、サクストミンのニトロ基が土壌内で土壌中の物質、硫化水素イオン、またはpH調節に用いられる土壌改良材と反応し、植物細胞に取り込まれる前に不活性化しているのかもしれない。しかし単なる思いつきなので証拠はない。高温・乾燥の土壌条件ではニトロ基が保存されたままで植物細胞に取り込まれてしまいやすいのかもしれない。


不対電子をもつラジカル分子は分子に配向が生じ、スピンの性質を持つ。ESR で生物を観測する際にはスピンプローブ剤を生物に与える。3-carbamoyl- PROXYL などがある。これには N-O の部分があり、酸素原子に不対電子がある。この物質は、細胞表層でアスコルビン酸によって還元されてヒドロキシルアミンに変化することが紹介されていた。   http://msmd.ims.ac.jp/molspin/letter7.pdf   ESR/スピンプローブ法による植物のストレス応答機構の研究 尾形、加藤、伊藤、大矢 各先生の研究

単にヒドロキシルアミンに還元されるだけでなく、活性酸素によって元の構造に再酸化されることが示されている。サクストミンのニトロ基も、条件によって還元、再酸化を受けるのかもしれない。それによって植物に対する毒性が変化するなら、サクストミンに対する対策の開発に役立つかもしれない。

サクストミンは植物以外にも作用するか?

最近、いくつかの植物化学調節物質(毒素)が、動物細胞にも作用することが解明されている。 フシコキン (フシコクシン) Syringolin Malformin ジャスモン酸、アブシジン酸にもそういう作用があるという話がある。

Jasmonates: novel anticancer agents acting directly and selectively on human cancer cell mitochondria.   Rotem R, Heyfets A, Fingrut O, Blickstein D, Shaklai M, Flescher E.   Cancer Res. 2005 Mar 1;65(5):1984-93.   PMID: 15753398

Occurrence, function and potential medicinal applications of the phytohormone abscisic acid in animals and humans.   Li HH, Hao RL, Wu SS, Guo PC, Chen CJ, Pan LP, Ni H.   Biochem Pharmacol. 2011 Oct 1;82(7):701-12. Epub 2011 Jul 8.   PMID: 21763293

The Plant Hormone Abscisic Acid is a Pro-Survival Factor in Human and Murine Megakaryocytes   Alessandro Malara1, Chiara Fresia2, Christian Andrea Di Buduo1, Paolo Maria Soprano1, Francesco Moccia3, Cesare Balduini3, Elena Zocchi2, Antonio De Flora2 and Alessandra Balduini4*    doi: 10.1074/jbc.M116.751693 jbc.M116.751693.

Camalexin という化合物でもそういう報告があった。

Camalexin-Induced Cell Membrane Scrambling and Cell Shrinkage in Human Erythrocytes.   Almasry M, Jemaa M, Mischitelli M, Lang F, Faggio C.   Cell Physiol Biochem. 2017 Feb 13;41(2):731-741. doi: 10.1159/000458733. [Epub ahead of print]   PMID: 28222420

Discovery of Phytoalexin Camalexin and Its Derivatives as Novel Antiviral and Antiphytopathogenic-Fungus Agents.    Liao A, Li L, Wang T, Lu A, Wang Z, Wang Q.   J Agric Food Chem. 2022 Feb 18. doi: 10.1021/acs.jafc.1c07805. Online ahead of print.   PMID: 35179026

マラリア原虫はアピコプラストという葉緑体に起源を持つ細胞内小器官を保持している。マラリア原虫にジベレリン生合成阻害剤が作用するという論文があった。

Gibberellin biosynthetic inhibitors make human malaria parasite Plasmodium falciparum cells swell and rupture to death.   Toyama T, Tahara M, Nagamune K, Arimitsu K, Hamashima Y, Palacpac NM, Kawaide H, Horii T, Tanabe K.   PLoS One. 2012;7(3):e32246. doi: 10.1371/journal.pone.0032246. Epub 2012 Mar 7.   PMID: 22412858

サクストミンについては、まだそういう報告は見たことがない。そうか病はジャガイモの生産に大変悪い影響を与える。しかしサクストミンが何かの病気に効いたりすることがわかったら、逆にサクストミンを大量に作らせるジャガイモ栽培法が必要になるかもしれない。

サクストミンを選択制がある除草剤に使うという特許が公開されていた。   http://www.ekouhou.net/%E3%82%A4%E3%83%8D%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E6%B0%B4%E7%94%9F%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%9B%91%E8%8D%89%E3%81%AE%E9%81%B8%E6%8A%9E%E7%9A%84%E9%98%B2%E9%99%A4%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%81%AE%E4%BD%BF%E7%94%A8/disp-A,2012-524069.html

Multiplexed Promoter Engineering for Improving Thaxtomin A Production in Heterologous Streptomyces Hosts   Life (Basel). 2022 May 6;12(5):689. doi: 10.3390/life12050689.   Xuejin Zhao など PMID: 35629358 PMCID: PMC9146380

Total synthesis of thaxtomin A and its stereoisomers and findings of their biological activities.

Zhang H, Ning X, Hang H, Ru X, Li H, Li Y, Wang L, Zhang X, Yu S, Qiao Y, Wang X, Wang PG.

Org Lett. 2013 Nov 15;15(22):5670-3. doi: 10.1021/ol4026556. Epub 2013 Oct 25.  PMID: 24159901

ジャガイモそうか病に対する対策の特許    http://tokkyoj.com/data/tk2011-132158.shtml   長崎県の特許

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