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はじめに

平面図形(2値画像)の認識は、パターン認識における最も基本的な課題のひ とつである。特に、形の本質的な情報を担う外形(輪郭線)の記述は、認識や 分類のために重要である。これまで、平面図形を表現するための多くの形の記 述子(shape descriptors)が提案されている[142]。輪郭線の記述子と しては、 Fourier記述子や平滑化曲率関数が有名である。本章では、統計的手 法を用いて形の相似変換によらない形の認識や分類のために好ましい特徴を構 成するために統計的手法を応用するとを考える。

Duboisら[24]は、実自己回帰モデルを用いて外形を記述し、形を識別するこ とを試みた。そこでは、平面図形の重心を原点として輪郭を等角度で標本化し、原点 から輪郭までの距離をデータ点列として実自己回帰モデルを当てはめ、その係数を形 の識別に用いている。また、Kashyap ら[49]は、平面曲線の符号化の立場か ら実自己回帰モデルの理論的な解析を行なった。実自己回帰モデルは、音声波形等の 時系列データの解析・記述のために有効な手法である。音声認識の分野では、それは 線形予測法あるいはPARCOR法として知られており、音声波形を分析するための基本的 な手法となっている。しかし、彼らの定式化では、本来2次元の点列として表現され る輪郭点列に対して1 次元の実自己回帰モデルを当てはめたためにいくつかの問題が 生じている。例えば、輪郭を極座標表現し、原点から輪郭点までの距離をデータ点と する方法では、角度に関して輪郭点が多価となるような図形が存在し、任意の輪郭を 1意に表現できなくなる。

ここでは、輪郭上の各輪郭点を複素表現した輪郭点列に対して複素自己回帰モデルを 当てはめ、このときの係数を用いて形を識別する手法を提案する。複素自己回帰モデ ルを用いることにより、輪郭に実自己回帰モデルを当てはめたときに生じていた問題 が解消され、輪郭を少数のパラメータでモデル化することが可能となる。この係数 (複素自己回帰係数)は輪郭の回転や輪郭点列を追跡する際の始点の選び方に依存し ない量であり、さらに、輪郭点の量子化法を工夫すると、平行移動や大きさに対して も不変となる[87,138,156,158,159]。また、この 複素自己回帰モデルに基づき複素PARCOR係数と呼ばれる量を定義する [87,156,158,159]。これも形の相似変換に関して不変 な特徴となる。さらに、これらの特徴を高速に計算するためのアルゴリズムを示す [87,158,159]。最後に、この複素自己回帰モデルに基づいて 形の相似変換に不変な2つの輪郭形状間の距離を定義する [93,157] 。これは、形の自動分類や類似した形状の検索などに 有効である。



Takio Kurita 平成14年7月3日