研究分野

グループ全体の研究を、ここで大きく俯瞰できるようにします。各テーマの詳しい図や説明は後から追加できます。

01 タンパク質 タンパク質・ペプチドの構造や、生体膜との相互作用に伴う構造変化を研究します。

タンパク質の構造変化から機能を理解する

 タンパク質は、周囲の環境や他の分子との相互作用によって構造を変化させ、 その機能を発現します。私たちは真空紫外円二色性(VUVCD)分光法を中心に、 タンパク質やペプチドの二次構造を解析し、 構造と機能の関係を明らかにする研究を行っています。 特に、生体膜との相互作用に伴う構造変化や、 タンパク質の構造転移・フォールディングなどに着目しています。

薬物輸送機能を担うα1-酸性糖タンパク質 (AGP) の研究
薬物輸送機能を担うα1-酸性糖タンパク質 (AGP) の研究

 AGPは、薬物の輸送に関わるタンパク質であり、生体膜との相互作用に伴う構造変化がその機能に関係すると考えられています。
 私たちは、リポソーム膜と相互作用するAGPの構造をVUVCD法により解析しました。その結果、膜結合には静電的相互作用と疎水性相互作用が重要であることが分かりました。また、二次構造形成領域の解析から、N末端付近に形成されるαヘリックスが薬物結合部位と重なることが示され、この領域の構造変化がAGPの薬物輸送機能に関与する可能性が示されました。

抗菌ペプチド マガイニン2(M2)の膜結合により誘起される構造変化の研究
抗菌ペプチド マガイニン2(M2)の膜結合により誘起される構造変化の研究

 薬剤耐性は世界的な医療課題の一つです。抗菌ペプチド(AMP)は微生物の細胞膜に作用することから、薬剤耐性菌に対する新たな抗菌剤候補として注目されています。一方、臨床応用には課題も多く、膜結合機構の理解が重要です。
 私たちは、代表的なAMPであるM2を対象に、VUVCD法と直線二色性(LD)法を用いて膜結合構造を解析しました。その結果、M2は膜との相互作用に伴ってランダムコイルからαヘリックスへ構造変化し、その過程でβシート多量体を形成することが分かりました。さらに、この多量体は膜表面に対して垂直に配向し、膜構造を不安定化させることが示されました。これらの結果から、βシート多量体の形成がM2の抗菌作用に重要であることが明らかになりました。

疾患原因タンパク質 αシヌクレイン(α-Syn)の研究
疾患原因タンパク質 αシヌクレイン(α-Syn)の研究

αシヌクレイン(α-Syn)は、神経細胞内で異常に蓄積し、アミロイド線維を形成することでパーキンソン病などに関与するタンパク質です。α-Synは生体膜への結合によってランダム構造からαヘリックス構造へ変化しますが、その後どのようにアミロイド線維へ移行するのかは十分に分かっていません。
 私たちは、VUVCD法などを用いてα-Synの膜結合構造と線維形成過程を解析し、膜との相互作用や周囲の環境がアミロイド形成にどのような影響を与えるかを調べています。これにより、膜上での構造変化と異常凝集をつなぐ分子機構の解明を目指しています。

02 糖・高分子 糖類、多糖、高分子などを対象に、溶液中の構造や物性との関係を研究します。

糖・高分子の構造と物性を理解する

糖類や多糖、高分子を対象に、分子構造やコンフォメーションと、その物性・機能との関係を研究しています。真空紫外円二色性(VUVCD)分光法を中心に、溶液中での構造平衡、分子間相互作用、自己集合やゲル化に伴う構造変化を解析し、必要に応じて散乱法や各種分光法、計算科学を組み合わせています。糖・高分子が示す多様な物性や機能を、分子構造の観点から理解することを目指しています。

CDと理論的手法を組み合わせた水溶液中の糖類の構造研究
CDと理論的手法を組み合わせた水溶液中の糖類の構造研究

 単糖類の構造は、生体分子の安定化、溶液の粘度、タンパク質との結合親和性など、そのさまざまな性質に関係しています。これらの性質を理解するためには、分子内相互作用や水和状態、溶液中での構造ダイナミクスを明らかにすることが重要です。D-グルコース(D-Glc)は水溶液中で6つの異性体が共存しますが、それらの存在比と構造パラメータの関係については十分に整理されていませんでした。
 私たちは、D-Glcの6つの異性体を対象に、VUVCD測定と分子動力学(MD)計算、時間依存密度汎関数理論(TDDFT)計算を組み合わせて溶液構造を解析しました。その結果、各異性体の存在比と構造パラメータの相関を明らかにし、水溶液中におけるD-Glcの平衡構造を特徴づけることに成功しました。VUVCDと計算科学を組み合わせた本手法は、単糖類の溶液構造を理解するための有用な解析法として期待されます。

多糖・アルギン酸のCa2+の自己集合とゲル化
多糖・アルギン酸のCa2+の自己集合とゲル化

 アルギン酸は、Ca²⁺による分子鎖の架橋によってゲルを形成する天然多糖です。私たちはCD分光法、FTIR、SAXS、AFMを組み合わせ、Ca²⁺添加に伴う自己集合・ゲル化過程を解析しました。その結果、アルギン酸が核形成、中間状態、ゲル化の3段階を経て構造形成することを明らかにしました。特にCD法により、ゲル形成に先行する初期の構造変化を高感度に捉えることができました。

03 新しい測定手法・装置の開発 放射光の特性を活かし、時間分解・イメージング・高効率測定など、 新しいVUVCD計測技術の開発を進めます。

VUVCDの新しい可能性を拓く

放射光の高輝度性と真空紫外領域まで利用できる広い波長範囲を活かし、従来の円二色性測定では捉えにくかった生体分子の構造情報を取得するための新しい計測技術・装置の開発を進めています。特に、タンパク質の構造変化をリアルタイムで追跡する時間分解VUVCD、試料中の空間的な構造分布を捉えるイメージング測定、さらに測定の高効率化・自動化などに取り組んでいます。これらの技術開発を通して、溶液中の平均構造だけでなく、時間変化や空間的不均一性を含む、より動的で多面的な生体分子構造解析を実現することを目指しています。

動的構造変化観測のための時間分解装置の構築
動的構造変化観測のための時間分解装置の構築

 生体物質の構造と機能は密接に関係しており、タンパク質は周囲の環境や他の分子との相互作用に応答して、その構造を時間とともに変化させます。こうした機能発現の仕組みを理解するためには、反応前後の構造を比較するだけでなく、構造変化がどのような経路をたどり、途中でどのような中間状態を形成するのかを直接観測することが重要です。
 私たちは、既存のVUVCD分散計に溶液混合機構を組み込んだ時間分解VUVCD(TR-VUVCD)装置を構築し、反応開始後のCDスペクトルを連続的に取得することで、タンパク質の構造変化をリアルタイムに追跡することを可能にしました。これにより、従来の定常測定では捉えることが難しかった一過性の中間構造や、各構造状態への転移過程を解析できます。
 現在は、タンパク質と生体膜や界面活性剤との相互作用などに本手法を応用し、構造変化の速度や経路と機能との関係を明らかにする研究を進めています。さらに、測定条件や装置性能の高度化を進めることで、さまざまな生体分子反応の動的構造解析へ展開することを目指しています。

利用ビームライン

HiSOR BL-12

真空紫外円二色性分散計(VUVCD分散計)

HiSOR BL-12 真空紫外円二色性分散計

 BL-12は、320~120 nmの近紫外から真空紫外領域までの放射光を利用し、生体分子の立体構造を解析するためのビームラインです。放射光計測に特化した円二色性分散計が設置されており、液体・固体試料を対象とした円二色性および直線二色性測定が可能です。
 また、−20~100 ℃の範囲で試料温度を制御できる温度可変装置や、放射光を数十 µmまで集光できるシュバルツシルト集光装置を備えています。これらの装置を活用し、生体分子の構造解析に加えて、時間分解測定や位置分解測定などの計測にも取り組んでいます。

装置・利用に関するお問い合わせ: 松尾 光一

HiSOR BL-15

直線二色性分散計(VUVLD分散計)(開発中)

HiSOR BL-15 直線二色性分散計

 BL-15は、320~40nmの近紫外~真空紫外までの放射光を利用して、主に生体分子の配向構造を観測することができるビームラインです。末端装置には、直線偏光子、光弾性素子、検出器から成る直線二色性測定用の光学システムが設置されています。基本的な光学システムの設置であるため、様々な生体物質の偏光測定に応用・拡張が可能となっています。

装置・利用に関するお問い合わせ: 松尾 光一