レーザー生成プラズマ
レーザー生成プラズマ
高強度レーザーを固体標的に照射すると、レーザーの電場によりまず電子が加熱され、その電子が衝突によりイオンを加熱し固体密度のプラズマが生成されます。入射してくるレーザー光はプラズマと相互作用することにより様々な物理現象(ブリルアン散乱、ラマン散乱、等)を生じます。レーザー生成プラズマを特徴づける現象として臨界密度が挙げられます。臨界密度(critical density)はレーザー周波数w、電子質量m、電気素量e、を用いて nc=mw^2/4pi e^2 で定義されます。レーザー光はプラズマ中に形成される臨界密度面で共鳴吸収されるのでこれよりも高密度側には伝搬することができず、強い光の圧力を臨界密度面に付与することになります。その結果、プラズマ密度の勾配がきつくなったり、高次高調波の生成が起こったりします。レーザー生成プラズマは一般に非平衡状態にあり、過渡的なものですが、現在のところ高温高密度(固体密度)プラズマを研究する唯一の方法です。また、自然界では星の内部でこのような高温高密度プラズマが存在するため、その特性を知ることに興味がもたれています。
Chirped Pulse Amplification
CPA (Chirped Pulse Amplification) 技術の発展に伴い高強度レーザーと物質との相互作用に関する研究は飛躍的に進むようになりました。CPAの基本的な動作は以下のようになっています。
まず最初に種となる非常に短パルス ( < 1ps ) で低エネルギーの ( <~microJ ) レーザー光を生成します。次に回折格子のペアを用いてパルス幅を一時的に1000倍以上に引き延ばします。選択された特定のパルスを再生増幅 (regenerative amplifier) 、や空間フィルターをとおしてレーザー光の質を保ちながら数Jまで増幅します。最後にまた、回折格子のペアを用いてパルス幅をもとに戻します。
もし、1Jのエネルギーをもった1psのパルスが10 x 10^{-6} cm^2 に集光されると、10^17 W/cm^2 の強度が容易に得られることになります。
CPA レーザーを用いた実験
高強度レーザーで様々な標的を照射すると、プラズマの生成を伴って興味深い現象をひき起こします。以下はそのいくつかの例です。
- 高次高調波の生成
高強度短パルスレーザーで気体や固体の標的を照射すると、極紫外線や軟X線が高次高調波として生成されます。ここで注目されるのは "water window" と呼ばれる波長が 2.3 ~ 4.4 nm の光です。この波長の光は炭素には吸収されますが、水には吸収されないことから、生きている細胞のDNA等を診断するのに使えると考えられています。
- 慣性核融合での高速点火方式
通常の慣性核融合では核融合燃焼をおこす熱い中心部分を形成しようとしていますが、そのためには、レーリーテーラー不安定性を避けるために、レーザー照射の極度の対称性が要求されています。その困難を克服するために、高速点火方式ではあらかじめレーザーで加熱された燃料を高強度短パルスレーザーで追加熱して核燃焼を誘起する方法がとられています。
- 卓上中性子源
最近、D-T気体標的を高強度レーザーで照射したところかなりの中性子が生成されることが飛行時間測定により実験で確認されました。これは小さな中性子源としての応用が期待されています。
- 光学物質のエッチ率
現在、卓上CPAレーザーで得られる最大のレーザー光強度は光学系物質の損傷限界によって決まっています。そのため、光学系物質の損傷限界やそれに関係した現象を調べることが重要になります。ここでは、SiO2標的のエッチ率について1psと300psのレーザーパルスを用いて詳しく調べました。(詳細).
参考文献
D.Strickland and G.Mourou, Opt.Commun. 56 (1985) 219
M.D.Perry and G.Mourou, Science, 264 (1994) 917
T.Ditmire, Science, 264 (1999) 917
"The Physics of Laser Plasma Interactions", W.L.Kruer, Addison-Weseley, Redwood City, 1988
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