低エネルギー反陽子 + 陽電子
低エネルギー反陽子 (< 1 eV)
反陽子は1957年にセグレとチェンバレンによってUCバークレーの加速器ベバトロンで最初に発見されました。
下図にあるCERNのプロトンシンクロトロン(PS)では現在様々な実験のために反陽子が日常的に作られています。
PSから供給される 26 GeV/c の陽子ビームパルスは反陽子減速器(AD)にある生成ターゲットに入射され、約5x10^7個の反陽子が 3.57 GeV/c でADに供給されます。
その後、ストカステイック冷却や電子冷却をとおして約25%の効率で反陽子を冷却します。最終的には約1.2x10^7個の反陽子が100 MeV/c(5.6 MeV)で実験に使われます。パルスの周期は約120秒です。
さらなる反陽子の減速は薄膜の減速材を用いて行われ、10keV以下のエネルギーの反陽子がペニングトラップ中に閉じ込められます。これらの反陽子はトラップ内での電子冷却をとおして10K以下まで冷却されます。
低エネルギー陽電子 (< 1 eV)
陽電子は1931年にアンダーソンが霧箱をつかって最初に発見しました。それ以来、高エネルギーの陽電子ビームは様々な研究に使われてきました。一方、低エネルギーの陽電子の閉じ込めはその個数が少ない(~10^4)ことが問題でした。しかし、最近になって、固体ネオン減速材で減速された陽電子を窒素ガスで冷却することにより10^8個以上の陽電子を室温で閉じ込めることができるようになりました。その閉じ込め時間は真空度 7x10^-10 torr で約1700秒、6x10^-7 torr で約45秒でした。この大量の陽電子は反水素の生成には非常に有効であると考えられています。
反水素生成実験 (ATHENA)
低エネルギーの反水素を生成しようとする実験が現在CERNで進んでいます。一見、反水素を作るのは単純に思えるかもしれませんが、反水素生成に十分な生成断面積を得るには高密度(> 10^8 /cm3)の反陽子と陽電子が極低温(< 4 K)で必要となります。電荷の異なる粒子を同じ空間に閉じ込める必要があることやレーザー冷却ができないこと等、様々な問題がありいまのところ反水素を生成する最善の方法はわかっていません。
低エネルギー反陽子を用いた原子分光及び原子衝突 (ASACUSA)
低エネルギー反陽子ビーム (< 20 eV) は新たな研究分野を切り開くと考えられています。 ASACUSA では Radio Frequency Quadrupole Decelerator (RFQD) をADに導入して 15 ~ 120 keV 反陽子ビームを得ることに成功しました。 さらに、10 ~ 1000 eV の反陽子ビームを生成するためにASACUSAトラップ が使われます。 大強度の低エネルギー反陽子ビームを効率良く得るために高エネルギー陽子の電子冷却の特性をASACUSAトラップで調べました。 (詳細).
参考文献
G.Gabrielse, et. at., Phys.Rev.Lett. 63 (1989) 1360
R.G.Greaves, M.D.Tinkle and C.M.Surko, Phys.Plasmas 1 (1994) 1439
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