研究内容
系統分類学・生態学
コケ植物を中心に、比較形態に基づく分類学的研究、遺伝子・ゲノム解析に基づく系統学的研究を行っています。現在は日本産ゼニゴケ類、フキ属植物の研究に注力しています。
コケ植物の野外での受精のプロセスを研究しています。タイ類ゼニゴケ類の多くが空中に精子を放出していることを発見しました(ゼニゴケMarchantia polymorphaは除く)。精子は濡れた地面に落ちた後に細胞壁を脱ぎ捨てて泳ぎ始めます。
北アルプス、南アルプスなどでの蘚苔類フロラの調査、高山性コケ植物の分布調査を行っています。また、蘚苔類への放射性物質の蓄積を利用した福島県におけるモニタリング調査、放射線が蘚苔類に与える遺伝的影響について調査を行っています。
コケ植物の形態学・発生生物学
コケ植物と維管束植物とは4億年以上昔から、異なる進化の歴史を歩んでおり、組織・器官の構造や機能も互いに大きく異なります。光学組織切片、電子顕微鏡などを用いて、コケ植物の組織構造を詳細に観察し、構造と生理学的性質の関連、形態進化の方向性を探る研究、新分類形質の探索などに取り組んでいます。
細胞分裂面制御と植物の体制の関係について研究を行っています。コケ植物の植物体の成長点を構成する細胞群の中央には、ただ1つの特有の形をした幹細胞(頂端細胞)がみとめられます。これまでの組織学的研究から頂端細胞の分裂方向の旋回角度周期が、発生段階や種特異的な葉序の変調(開度180 度の1/2 葉序、開度120 度の1/3 葉序、開度145 度の2/5葉序、開度135 度の3/8 葉序など)と対応関係にあることが分かってきました。しかし、葉序を生み出す細胞分裂方向の周期的旋回の制御が、単一の頂端細胞の中でどのような細胞生物学的プロセスで起こっているのかは不明です。
植物の細胞分裂様式の多様性と進化
コケ植物の紡錘体形成様式の多様性から、陸上植物の細胞分裂の進化の道筋を考える研究を行っています。コケ植物やシダ植物などの細胞分裂様式の多様性やそこに関わる分子機構を明らかにしていくことにより、陸上植物の細胞分裂様式の進化の系譜を探っています。初期の陸上植物は、陸上に適応した体制を発達させる中で、鞭毛をもつ細胞を形成する時以外は、鞭毛の基部装置となる中心体を形成しなくなり、代わりに、葉緑体表面を紡錘体の微小管形成中心として使ったかもしれません。また、1個の大きな葉緑体を持つ細胞から、多数の小さな葉緑体を持つ細胞へ進化していく過程で、微小管形成中心は葉緑体表面から細胞質に移行していったかもしれません。