染色体機能学・遺伝子機能発現グループ(植物班) 本文へジャンプ
研究内容紹介 (土壌細菌Agrobacterium rhizogenesの発根遺伝子)


 土壌細菌Agrobacterium rhizogenesは植物に感染 すると感染部位から毛状根(hairy root)と呼ばれる不定根を誘発します。この根は植物に発生する腫瘍の一種なのですが、外観はもちろん組織的 にも根の形態をとっています。また、水分や栄養分を吸収する機能にも異常は見当たりません。しかし、生理的には普通の根とは異なっている部分が あり、例えば、分岐数が多くなったり、重力方向に曲がる性質(重力屈性)が失われたりすることがあります。また、植物組織培養用の培地で培養する と非常に旺盛に生育し、非常に長期間に渡り安定した形質を示します。

★ 毛状根はどのように誘発されるのか?
 毛状根はA. rhizogenesが保有する発根(Ri)プラスミドのT-DNAが感染の際に植物細胞に移行し、植物の染色体に組込まれます。T-DNA上には発根(rooting locus, rol)遺伝子が存在し、これらの転移先の細胞の中で発現すると、その細胞は分裂しながら根の原基の形成へと進み、最終的に根が形成されます。RiプラスミドのT-DNA には誘発させた毛状根中でオピンと総称される非タンパク態アミノ酸誘導体を生産させる遺伝子が存在します。オピンにはアグロピン、マンノピン、ククモピン、ミキモピン などがあり、Riプラスミドは、生産させるオピンの種類によって区別され、例えば、アグロピン型とかマンノピン型などと呼ばれます。


★ 発根遺伝子群と機能
 発根遺伝子rolにはABCなどがありますが、中でもrolBは最も発根能が高く、単独の導入でも不定根が形成されることが知られています。また、rolArolC の導入でも発根が見られる場合があります。また、これらの遺伝子を導入した植物体は背丈が低くなる(矮化)、葉が小型化する、花に奇形が生じる、花粉に異常が生じることにより 雄性不稔となる、などの形質が見られ、毛状根症候群と呼ばれています。

★ RolBタンパク質は植物のタンパク質と相互作用し機能する
 rolB遺伝子による発根の分子機構は全く分かっていませんでした。私たちは、RolBタンパク質は植物のタンパク質と相互作用することによって、そのタンパク質の機能を促進もしくは阻害することによって 発根するのではないかと考え、相互作用するタンパク質の候補を探しました。その結果、14-3-3という変った名前がつけられたタンパク質の一つと相互作用することが分かりました。また、RolBタンパク質は核に 局在すること、14-3-3と相互作用しないようなアミノ酸の変異を持つRolBは核局在できなく、発根能もないことから、RolBタンパク質は14-3-3と結合して核に移行し、14-3-3が関わる何らかの機能を促進もしくは阻害 している可能性が考えられました。なお、14-3-3タンパク質自体は酵素活性は持たない上に積極的に核移行するタンパク質ではないこと、他のタンパク質と結合しその機能を制御することから、RolBは14-3-3を介して 別のタンパク質の機能を制御している可能性が考えられました。現在、14-3-3と相互作用するタンパク質の候補を幾つか見つけていますので、その働きおよびRolBによる影響を調べています。




★ 幾つかのタバコ属植物種に残るA. rhizogenes感染の爪痕
 タバコ属の植物は60種以上あります。このうち、幾つかの種のゲノムにはA. rhizogenesのRiプラスミドのT-DNAの一部と非常に相同性が高いDNA配列が存在することが分かっています。これはcT-DNA(cellular T-DNA)と呼ばれ、RiプラスミドのT-DNAの起源ではないかとも考えられていました。
 私たちは、これらの中でキダチタバコNicotiana glaucaのゲノムに存在するT-DNAの配列の由来を明らかにしました。この配列には、非タンパク態アミノ酸誘導体であるオピンの一種のミキモピンの生合成遺伝子 (mis)が存在し、これより、N. glaucaのcT-DNAはミキモピン型RiプラスミドのT-DNAが組込まれたことが分かりました。また、mis遺伝子は、N. tabacumN. tomentosiformisおよびN. tomentosaという3種のタバコ属植物種にも存在するらしいことも見出し、これらの種の祖先にミキモピン型Riプラスミドを持つA. rhizogenesが感染し、T-DNAが送り込まれた可能性があります。今後はこれら の種のcT-DNAに本当にmis遺伝子が存在するかを調べる必要があります。発根遺伝子群が発現する植物は矮化を始めとする特徴的な毛状根症候群が現れることから、これらの植物の進化にはA. rhizogenes のT-DNAが何らかのかかわりを持ったかもしれません。



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