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『広島芸術学会報(127)」記事 
広島芸術学会報の巻頭言を書かせていただきました。2014年4月20日発行 

タイトル、本文は以下の通り。
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公開シンポジウム「藝術の腐葉土としてのダークサイド」パネリストとして

一鍬田 徹(広島大学大学院教授)

 2014年6月7日、東京国立近代美術館で開催される藝術学関連学会連合・第9回公開シンポジウムのテーマは、「藝術の腐葉土としてのダークサイド」である。趣意書には、「疲れ・倦怠・虚偽・衰退・自棄・挫折・麻痺・堕落等が日常となっている文明的生の腐葉土を滋養に換えて、アートは芽吹いている。ことは何も現代に限らないが、キラキラと健康を歌う社会の陰で、ひっそり閑と進展しているアートを、それが根ざす腐葉土との関連で検討するのが、今回のシンポジウムの趣旨」とある。
  
 ハリウッド映画でも目にするこの“ダークサイド”という言葉。辞書をひくと「暗黒面」「社会や人生の暗黒面」とあり、この暗黒面は「物事の醜い面。暗い悲惨な面。」と説明される 。また“腐葉土”とは「落ち葉が腐ってできた土」であり、一般的には、栄養分を蓄え、植物や森を育てるイメージを持つものである。今回のテーマは、このネガティブな“ダークサイド”とポジティブな“腐葉土”という 2つの言葉を、“藝術”という枠組みで考えようとする斬新な切り口だと言えるだろう。各発表者がこのテーマをどのように解釈し、発表するのか、パネリストとして参加させていただく一人として、期待感は強い。

 かつて《人間の未来へ ダークサイドからの逃走》という展覧会が、水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催された。企画者である逢坂恵理子氏は、「本展は、戦争や憎しみの連鎖がおさまらない混沌とした状況の中では、ますます狭い視野に縛られ、悪におちいりがちな人間が、ダークサイドからいかに距離をおき、人間の尊厳や良心に対して自覚的になれるのかをテーマにしています。」 と述べ、主に人間の姿を作品化した、アントニー・ゴームリーの彫刻やビル・ヴィオラの映像等、13人の作品を展示した。その中には、マグダレーナ・アバカノヴィッチ、スゥ・ドーホー、オノ・ヨーコ、シリン・ネシャットといったヒロシマと関わりの深い作家たちもいた。

 またCNNは、〈創造性の「暗黒面」 抑鬱や狂気が天才を生み出す?〉というタイトルの記事をホームページ上に掲載し(2014年3月17日) 、「画家ムンクの幻視やゴッホの自殺など、天才と狂気が紙一重に同居していることを示唆するエピソード」の多さを例に挙げながら、「創造性と精神疾患は統計的な相関があることが明らかになりつつある」と述べた。またその背後にある身体的メカニズムとして、処理しきれない大量の情報で収拾がつかなくなった状態が「時として、創造的なアイデアに結びつくのでは」、という興味深い分析も紹介している 。

 このように“ダークサイド”は、距離をおく対象であったり、作品を生み出す源泉であったりと、否定的にも、肯定的にも捉えることができる言葉である。従ってシンポジウムでも多方向の展開が予想されるが、「《ヒロシマのピエタ展》―その成果と課題」というテーマで発表させていただく私自身としても、改めてその意味を整理してから臨みたいと考えている。

(脚注省略)

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