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複素自己回帰係数と複素PARCOR係数の高速計算法

複素自己回帰係数あるいは複素PARCOR係数を用いて形の認識を高速に行なうためには、 これらの係数を高速に求めることが必要である。$m$次の複素自己回帰係数を式 (7.9)からGaussの消去法などで求めると、$O(m^3)$の演算回数 が必要となる。さらに$1$次から$m$次までの複素PARCOR係数を全て求めるためには $O(m^4)$の演算回数が必要である。ここでは、$1$次から$m$次までの複素自 己回帰係数と複素 PARCOR 係数を$O(m^2)$ で求める手法を示す。

式(7.9)の次数に関する再帰式を考えよう。ここで次数を明示するために、 $m$次複素自己回帰モデルにおける式(7.5)、(7.6)、( 7.7)の$R$ $\mbox{\boldmath$a$}$ $\mbox{\boldmath$r$}$を、それぞれ、$R(m)$ $\mbox{\boldmath$a$}(m)$ $\mbox{\boldmath$r$}(m)$ と表記する。

$1$次の複素自己回帰モデルの複素自己回帰係数$a_1$は、明らかに

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$a$}(1)=r_1/r_0
\end{displaymath} (309)

である。$2$次以上の複素自己回帰モデルに対しては、$R(m)$
\begin{displaymath}
R(m) = \left[
\begin{array}{rr} R(m-1), & \bar{\mbox{\bol...
...row \\
{\bar{r}(m-1)^\star}, & r_0 \\ \end{array}
\right]
\end{displaymath} (310)

と表わせるので、ブロック行列の逆行列の公式を用いて整理すると、$m$次のモデル の複素自己回帰係数列ベクトル $\mbox{\boldmath$a$}(m)$ は、$m-1$ 次のモデルの複素自己回帰 係数 $\mbox{\boldmath$a$}(m-1)$ を用いて、
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$a$}(m) = \left[ \begin{array}{c} \mbox{\bol...
...math$a$}}(m-1)^\updownarrow
p_m \\ p_m \\ \end{array} \right],
\end{displaymath} (311)


\begin{displaymath}
p_m=(r_m-\mbox{\boldmath$r$}(m-1)^\star \ \mbox{\boldmath$a...
...-\mbox{\boldmath$r$}(m-1)^T \
\bar{\mbox{\boldmath$a$}}(m-1)),
\end{displaymath} (312)

と書ける。但し、 $\mbox{\boldmath$a$}(m-1)^\updownarrow$ $\mbox{\boldmath$a$}(m-1)$の要素の順番を逆 にしたベクトル $[a_{m-1}, a_{m-2}, ..., a_1]^T$を表し、 $\mbox{\boldmath$a$}(m-1)^\star$ $\mbox{\boldmath$a$}(m-1)^\updownarrow$ の転置を意味する。

従って、$1$次のモデル(式(7.14))から始めて、式(7.16)、( 7.17)を繰り返し適用すれば、高次のモデルの係数を次々と求めることができ る。また、式(7.17)で与えられる $p_m$ は実は $m$ 次の複素PARCOR係数と 等しい。つまり、この方法で複素自己回帰係数と複素PARCOR係数が同時 に求められることになる。この方法は、結果的に実数値列に対する実自己回帰係数を 計算する手法として知られている Levinson-Durbinのアルゴリズム[25]を、 複素数値列に対する複素自己回帰係数計算のために自然に拡張した手法となっている。

また、上述の逐次式を用いて複素PARCOR係数と平均2乗誤差との間には

\begin{displaymath}
\varepsilon^2(m)/\varepsilon^2(m-1)=1-p_m\bar{p}_m, \ \ \
\varepsilon^2(0)=r_0
\end{displaymath} (313)

の関係が成り立つことも示せる。この関係式は、モデルの次数を情報量基準等で決め る際の目安となる。



Takio Kurita 平成14年7月3日