件名 海外視察について(5)インドネシア・バンドン

スーパースターになったことある?私はあるけど。ついさっき。

インドネシアのとある大学にお話し合いに来ているのだが、この大学にはキャンパスが二つあり、明日は大学の先生二人と共に、もう一方のキャンパスを視察するという段取りと相成った。

今いるキャンパスは街のど真ん中にあるんだけれども、もう一方のキャンパスは市街地から1時間ほど離れた郊外にあり、だからこそ自然もそこそこ残っており、もう一方のキャンパスに行くついでに、自然やら大学が仕掛けているコーヒープランテーションも見に行こうということになった。

私はてっきり、キャンパスの横に演習林的なものがあって、そこでコーヒーの栽培実験をしているものだと思っていたのだが、視察に行くコーヒープランテーションは、郊外のキャンパスからさらに一時間以上、田舎に行ったところにあった。そして、そこに辿り着くための道は、郊外のキャンパスを出てからほどなくはきれいなんだけど、側道に入ってからはというと、穴ぼこだらけでかつ、車一台がやっと通れるくらいの細い、なんとも頼りない道になっていった。で、側道に入ってからが長い。30分以上かかる。「こ、この先で大学生が勉強しているのか」とにわかには信じられない道のりだった。

とはいえ、道の両側には見事な棚田が広がる絶景で、ぐあんぐあん揺れる悪路に対して、景色の方は全く飽きさせないものであった。ただ、8人乗りくらいのマイクロバス(現地の人は“アンコタ”って呼んでる)がこの道沿いに住む人の足になっていて、こんな悪路でもこのアンコタの行き交いが多く、結構ちょいちょいアンコタと離合しなければならなかった。私たちを運んでくれた運転手さんの技術は激しく高く、細い道でも難なくアンコタと離合し、悪路をずんずん進んで行ったが、私が運転せよと言われたら、無事たどり着く自信がないくらいの道だった。

で、目的地に着くと大学生の姿などは全くなかった。代わりに、村人たちが30人くらいいて、見た所どうやら寄合を開いているようであった。連れてきてくれた先生に、なぜ大学生がいないかを尋ねてみると、どうやら大学が仕掛けているというのは、大学生が運営しているコーヒー園という意味ではなく、大学が村人にコーヒー栽培を指導しているコーヒー園という意味らしく、大学生がここで勉強しているわけではないどころか、大学の先生だってちょいちょい顔を出す程度だということが判明した。

村人は我々の到着に気が付くと激しく喜び、なんと歓迎の宴を催してくれた。歓迎の宴というか、まぁ、歌を歌ってくれたのである。何の歌かは全く存じ上げないのだが、坊主頭の若人が腕を振りつつ音頭を取っての30人の合唱は勇ましく、なかなかの迫力であり、歌を聴きながら、「今度は私が日本の歌を披露する番なのだろうか?何を歌いましょうか?ゾウさんでしょうか?はとぽっぽでしょうか?」とあらぬ心配をしていたところ、歌のリクエストは全くなく、歌が終わると大学の先生は「ほな、プランテーション、見せてもらいまひょか?」とあっさりその場を離れようとした。「ああ、歌を歌ってくれたというのに、えらいあっさりしているなぁ」と思いながらお暇しようと思ったら、どうやら村人が私の存在に気が付いてしまったらしい。

で、大学の先生がインドネシア語で私の紹介をしているのだが、私は大学の先生のインドネシア語が全く分からない……日本から来たくらいは分かったのだけれども……しかし、大学の先生の紹介が進むにつれ、村人の目がきらきら輝きだし、話が終わるくらいには私を見てうっとりし始めたので、大学の先生はきっと、「この人は日本における、いや世界におけるコーヒーの権威で、日本では珈琲神と呼ばれていて、紅茶でさえ一瞬にコーヒー味に変えられるだけでなく、岐阜の山奥で世にも珍しいコーヒーの滝を発見し、受験生から崇められたのはもちろんのこと、空を飛んだり、孫悟空の真似もできる」くらいのことを言ったのではないかと今でも疑っている。

大学の先生の紹介を聞いた村人達は、お暇しようとする私たちを引き留め、

「とりあえず集合写真を!集合写真を!」

と懇願するのである。で、

「じゃあ、ここはひとつ写真でも撮りまひょか」

と、寄合所にお邪魔し、無事、集合写真を撮ったのではあるものの、その後、村一番のお調子者であるジョコ(仮名)が私に向かい、

「俺とツーショットとろうや」

なんて言ってしまったものですから、私は笑顔で彼と写真を撮り、握手を交わした後気が付くと、なんと30人の行列が既にできており、すべての村人と写真及び握手をするはめになってしまったのである。握手をしながら、スーパースターたる私は「私は48。YMD48!センターは譲れない!」と思っておった。

握手が終わってから、コーヒープランテーションを歩きながら大学の先生に

「なんで、みんな私に興味があったの?」

と聞いたところ、大学の先生は

「あなたぅわぁ、珍しぅいぃぃ、生き物だから」

と、片言の日本語で教えてくれた……この人、私の事、一体どんな風に村人に紹介したんじゃろう?

アディオス!

2019年03月25日