Tパンガー県 アンダマン海側の漁村
発信:山尾 政博   広島大学 食料環境経済学研究室

 

1 跡形もなくなった漁村:レム・パカラン村 

パンガー県のアンダマン海側にあるレム・パカラン村は、津波被害で一躍有名になったリゾート地であるカオ・ラックから、さらに北に向かったところにある。津波被害を受ける前には、白砂の長い海岸線をもとめてリゾートホテルが建ち並び、浜にある漁家集落との調和がとれた地区として知られていた。

しかし、津波はこの漁家集落をのみつくし、海岸線ぎりぎりにたっていたリゾートホテルやバンガローを破壊しつくした。1年半たった現在でも、ホテルの無惨な残骸が放置されており、大波の破壊のすごさを思い知らされる。


@ 無惨に放置されたホテル跡

これらホテルの前には70-80世帯が暮らす漁業集落があった。漁業と観光が主な収入源であった。漁業はカゴを使ったイカ漁業や刺し網が中心で、漁船は主に船外機付き、典型的な零細漁業を住民は営んでいた。強い季節風が吹く6か月間は漁にはでず、その間は観光客相手のレストランの営業や土産物売りなどが主な収入源となる。

観光業は漁家にとっては貴重な収入源で、聞き取りをしたコンさんの場合、小さなレストランを営んでいたが、そこから得る1日あたりの収入は10002000バーツであったという。イカカゴはもうかる時もあるが、漁獲量の変動が大きく、30004000バーツの時もあるが、500バーツ程度の水揚げしかない日もある。




放置されたままの海沿いのホテル




 

再建が始まったホテル

 


A  イカカゴと船外機付き漁船

漁業集落は津波に飲み込まれ、今は、その跡形もない。広い砂浜が広がっているだけだ。



この村ではイカカゴ漁を営む漁民が多い



新しく建造された漁船。同一機種のエンジンを備えている。


B 漁家があった地点

復興の難しさ

コンさんの場合、津波被災から1年半たった現在も、漁業には従事していない。漁船も漁具も失ったためだが、漁船の贈与をうけるまでに予想以上の時間がかかっている。早くに漁船を得た漁民もいるが、未だに漁船も漁具も得られていない人もいる。地異によって復興の進み具合はさまざまだが、同じ地域内でも相当にまだら模様ができている。

漁家があった浜:何十年か前の静かなパンガーの浜に戻った

コンさんの家もここにあった。60-70世帯の漁家が暮らし、大勢の観光客でにぎわっていたが、今はなにもない。放置されたホテルの前。


美しい砂浜がつづく小湾

このあたりにはバンガローが建ち並んでいた。

 


C 復興住宅の様子 (外観 2つのタイプ、中の様子)

新しいレム・パカラン村は幹線道路沿いに二カ所に分散して作られている。かつて集落のあった浜からは相当距離が離れている。住宅区域は整然と区切られているが、様々なタイプの家が立ち並んでいる。二階建の家は王室関係プロジェクト予算で、一階建ての家は民間の援助によって建てらてた。

整然と並ぶ2階建て住宅(王様プロジェクトによる建設)

同じ地区内にはさまざまなタイプの住宅がある。民間によって建設された住宅

 

D 漁船建造の様子

漁船の建造は民間の支援で進んでいる。被災漁民に対する漁業復興支援は6万バーツ、生活保障が2万バーツであったが、多くの零細漁民は漁船建造にまわすことができず、国内外のNGOや復興支援機関に依存している。これが復興のまだら模様を作りだした原因のひとつと思われる。

今も続けられている船の建造。漁民の多くが早く漁にでたいと願っている

E 復興住宅の様子
 

コンさんは漁船が建造し終わるのを待っているが、津波被災からすでに1年4か月、生活再建の道のりは遠い。建設関係の仕事を主にしてきたが、漁業にいつ復帰できるかはまだわからない。ホテルやバンガローのなかには営業再開したところもあるが、客が戻ってきているようには思われない。

この漁村の住民の大半は仏教徒だが、津波被災後にキリスト教に改宗した人も多いと聞く。詳しいいきさつはわからないが、津波が、タイの漁村社会の構造にはかりしれない大きな影響を及ぼしたことは容易に想像できる。

住宅内部の様子。内装などは自己負担が多い

家族3−4人までなら生活していける広さ

ボランティア団体もここに拠点を構えている。



2 復興が本格化しているカオラック地区

もっとも大きな被害を受けたカオラック地区では、ホテルやバンガロー再開に向けた建築ラッシュが始まっていた。すでに営業を再開しているところもあった。

 

F カオラック地区の建築ラッシュの様子

ただ、あちらこちらに津波の傷跡が残り、空き地や工事現場が続く地区に観光客がもどってくるまでには、まだ相当の歳月を要するであろう。プーケット島には相当の観光客が訪れているのとは対照的である。



新築しているホテル、依存の構造をそのまま使っているものなどさまざま。工事の音がうるさいくらいだった。




すでに開業しているバンガローもある。


G まばらな観光客

気がかりなのは、浜辺に大きくせりだしたホテルの存在だ。カオラックは白砂の長い海岸で有名だが、その魅力が保たれるだろうか。秩序ある観光地として復興されることが望まれる。復興のスピードがはやいプーケット島とは異なり、元通りに戻るにはまだまだ時間がかかりそうだ。



3月のこの時期は真夏。津波以前なら観光客であふれていたはずだ。

浜辺にせりだしたホテルの壁とチェア。整備が進むまでまだだいぶ時間がかかりそうだ。