II パンガー湾沿いの村を訪ねて
発信:山尾 政博   広島大学 食料環境経済学研究室


1 被害の少なかったクロンキエン村

パンガー湾奥に位置するパンガー県の漁村の津波被害は比較的小さく、同じ湾奥でも、定置網と養殖経営が大きな打撃を受けたクラビ県の漁村とは対照的である。ただ、パクアトン郡のクロンキエン村では、漁船の被害はそれほどではなかったが、ポー・ナム・トゥと呼ばれる定置(水深の浅いところに設置)がほぼ全損し、魚養殖の生け簀が破壊された。現在では、定置網のかなりの部分が復旧していた。



@  復旧した定置網


昨年にくらべて定置網(浅瀬用:ポー・ナム・トゥ)の数が大幅に増えた。棒がさしてあるのはカニカゴ、この数も増えた。


定置網では小魚やエビがとれる。

カニ刺し網

しかし、魚類養殖のための生け簀については、復旧はまだ始まったばかりである。ここ数か月の間に、大きな被害を受けたアンダマン側およびクラビ県の諸地域への支援が一息ついたこともあって、支援の対象がパンガー湾側に移ってきている。放置されたままであった生け簀の残骸がかたずけられ、新しい生け簀の設置が準備されている。


A 新しい生け簀

後で述べるハートサイ・プルアク・ホーイ村と同じように、昨年末から今年にかけて新しい支援策が3つ始まっている。ひとつは、イタリアのNGOが支援するプロジェクト、養殖業の復興と普及に力をいれている。真新しい生け簀が組み立てられている。この村では養殖業はそれほど盛んではなく、10軒程度が営んできたにすぎないが、これを機会に養殖業を始めようとする漁家が増えている。



イタリア政府より贈られた新しい生け簀。青いネットで石綿フォームをくるんである。


2 ハートサイ・プルアク・ホイ村の場合

ハートサイ・プルアク・ホイ村の漁家の多くが、長年にわたって魚類養殖に取り組んできた。昨年6月に訪れた際には、壊れた生け簀があちらこちらに放置されていたが、今は片付けられている。



B 生け簀などの様子

イタリアのプロジェクトが導入されて本格的な復興が始まった。マングローブにあるクローン(運河)には青色のネットで包まれたフォームが並び始めている。生け簀を組むための木がまだ届いていないため、現在は、津波以前の20-30%の復旧状況である。クラビ県の養殖地帯が早くに復旧させたのとは様子が異なっている。



運河沿いにはまだ津波の爪あとがまだ残っている。生け簀の残骸。



古いタイプの生け簀。フォームがくずれ、木枠もしっかりとはしていない。


C 援助で贈られた生け簀

援助で贈られたフォーム



青いネットで包むのは石綿フォームが崩れるのを防ぐため。枠組みに用いる木材がまだ

届いていないため、作業は止まったままだ。


イタリアから贈与されるのは、1人あたり4台の魚類用の生け簀と16台の貝類養殖用の施設である。65人の漁民がグループを作り、このプロジェクトに参加している。漁民は10人程度のグループ3つに分けられている。この村にイタリアが贈与するのは600,000バーツ、あるグループに対して128,235バーツが提供されていた。グループ内では、提供された資金をローテーションで何回も融資することになっている。

最初は、漁民は現物融資の形で、養殖資材を受け取る。補助率は40%、残り60%をグループに返済。住民のほとんどがイスラム教であることもあって無利子貸付だが、漁民は少しの手数料を支払う。グループ内で資金をプールし、これを順次貸し付けていく。この活動とともに、新しい養殖技術、魚病、薬品の使い方などの紹介が行われる。

   返済期間: 魚類養殖 26か月   貝類養殖  24か月

魚類養殖をもとの状態に戻すには稚魚やえさの購入代金が必要だが、十分に手当できない漁民が多い。相当の歳月を要するのではないか。

「援助がやっときた」、養殖被害が大きかったハートサイ村の住民はそう感じている。


D 養殖用稚魚(ハタ)の漁獲と養殖



ハタの稚魚の漁獲が行われている。岩場のほかにマングローブ内にも多数のカゴが設置されている。

 

ハタの稚魚を採捕するためのカゴ。

少しづつ増えてきている生け簀の台数。津波以前はこのあたりは生け簀で埋め尽くされていた。


クロンキエン地区の各村には、漁民グループが以前から設立されていた。海産エビのオークションや金融事業を営むなど、活動は活発であった。この村の復興の受け皿になったのがこの漁民グループ、および各種の住民グループであった

E  漁民グループの事務所

復興援助の受け皿となった漁民グループ



復興の受け皿になっている漁民グループの事務所。ここで海産エビのオークションが行われている。

グループの代表者(左)と職員(右)。今年になって始まった復興プロジェクトについて話してくれた。

静かなたたずまいの漁村の風景。この地区の漁民の多くが半農半漁、農業はゴム栽培に従事している。