微小トンネル接合の一電子帯電効果はどのように我々に役立つの?
二つの金属(伝導体)を遠くから近づけていったとき電気抵抗をはかる。
距離が十分遠いときには両者のあいだには電流は当然ながれない。
しかし二つの金属の間の距離が数十オングストローム程度になると
量子力学的なメカニズムで両者のあいだに電流が流れてしまう。これを
トンネル効果という。
「われわれ人間や牛はトンネルするだろうか?」ということが最先端の
話題のひとつにある。
トンネル接合には電圧をかけることが可能である。すると二つの電極は
コンデンサーとして容量Cできまる電荷をためる。このコンデンサーに
電荷QがたまったときにはQ2/2Cの帯電エネルギーがたまる。
もしトンネル接合の面積が小さいとき、コンデンサーの対抗電極の面積が
十分に小さいときにはCが小さいので帯電エネルギーQ2/2Cは大きくなる。
具体的には、0.1ミクロン角の対抗電極が10オングストローム離れた場合、
Cは約1fF(フェムトファラド)程度と見積もられ電子一個コンデンサーにた
めたときの帯電エネルギーe2/2Cは温度に換算して約1Kになる。
この温度は実験的に容易に作り出すことができ、一電子帯電効果由来する
いろいろな現象が予想される。
最も典型的な現象は、いわゆるクーロン・ブロッケイドとよばれる現象である。
孤立した微小トンネル接合に何らかの方法で電圧をかけたとする。電子が
トンネル接合をトンネルするとき、トンネル前の帯電エネルギーがトンネル後の
系の帯電エネルギーよりも大きな時には電子は接合をトンネルすることができるが、
その逆の場合には電子のトンネルはできなくなる。これをクーロン・ブロッケイドという。
非常に高抵抗のリードにつながっている単一の微小トンネル接合の場合、十分
低温で電流電圧特性をとるとI=0付近のVにe/2Cの電圧のとびがでる。
また、超伝導の微小トンネル接合においては、接合の抵抗値に依存して、トンネル
接合に超伝導電流が流れるか否かがきまる。これを超伝導・絶縁体転移という。
微小トンネル接合の実験は、大きく分けて微粒子膜を用いる方法と電子線リソグラフに
よって作る方法がある。
電子線リソグラフによって作る方法を試料の材質で大別すると、金属の微小トンネル接合と
半導体二次元電子にポイントコンタクトを作る方法に分けられる。
金属の微小トンネル接合は約0.1ミクロンの線幅の細い線同士を酸化膜を介して
0.1ミクロン程度重ねた構造になっている。 この構造は電子線リソグラフで作製する。
シリコンなどの基板の上に電子線が当たると感光する電子線レジストをぬる。走査電子
顕微鏡に似た電子線描画装置で基板の上に電子ビームをパターンの形になぞると電子線
レジストが感光する。これを現像すると感光したところに穴があく。 ->もっと詳しく知りたい。
このようにして作ったサンプルはたとえばこんな形です。
帯電エネルギーが1K程度なので、はっきりとした特性を得たい場合には、1Kよりも
十分低温ではからなければならない。 この目的のために希釈冷凍機を用い約50mK
程度まで冷やす。
具体的に新型の三端子素子としては、一電子トンネルトランジスタ(SET トランジスタ)
などが提唱されてすでに低温では動作している。これは従来の半導体を用いるトランジスタ
とは根本的に動作原理がことなり、金属のみで作る事ができる。
またSET トランジスタを二つ合成したような一電子ポンプやターンスタイル(回転ドア)
と呼ばれる構造で電子一つ一つを扱う事もすでに可能におり、電流標準への応用も検討されている。
半導体素子を究極的に高密度に微細加工を追及していった場合、電子一つの帯電エネルギーと
トンネル効果を無視することのできない領域にすぐ突入する。また省電力型の機能素子として
電子一つの操作をする必要があるかもしれない。
また金属で機能素子を作ることができるので超伝導と組み合わせジョセフソンコンピュータ
などへの応用もできるかもしれない。
また、近年、これまでのコンピューターとはまったく
動作の原理の異なる、ある分野で飛躍的な演算性能をもつ量子コンピュータへの扉がこれらの
研究で開くかもしれない。
一電子帯電効果を使う機能素子の問題点は現時点では低温でしか動作しないことである。
また電子一つを扱うのでノイズの効果が大きくでることが問題であろう。