東アジア水産業の競争構造と分業のダイナミズムに関する研究
平成21年度〜平成23年度科学研究費補助金(基盤研究(B))
課題番号 21405026
研究代表者 山尾 政博
 

はじめに
 本報告書は、文部科学省科学研究費補助金の基盤研究(B)海外学術『東アジア水産業の競争構造と分業のダイナミズム』(平成21年度〜23年度)の実施による研究成果の一部をまとめたものです。調査研究の趣旨、目的、課題等については、I部に詳しく述べています。この報告書に納めている論文の中には、すでに学会誌や国際学会のプロシーディング中に掲載されたものもありますが、現在も推敲中のものが含まれています。近々、なんらかの形で出版したいと考えています。

世界の水産物輸入市場の巨大化と東アジア
 かつて、日本は、世界最大の水産物輸入市場でした。しかし、欧米での健康志向の高まりによる魚介類消費の増大、アジアでは中国を始めとする新興国の急激な経済成長により国民1人当たり所得が増大し、それにともなって、魚介類消費の形が大きく変わってきていると言われます。一方、日本・中国・韓国に、東南アジア諸国を加えた東アジアは、世界の水産物貿易のなかで、独特の地位を築いています。この地域を構成する多くの国で、国民の食生活の中に魚食が深く根付いています。この地域は、巨大な消費市場圏を形成しています。国境を越えた経済活動が広がり、貿易の自由化が進むこの東アジアでは、水産物貿易のボーダレス化が進行しています。東アジアが、あたかも巨大なひとつの消費市場圏が存在しているかのような構造がみられます。

食料産業の集積が進む東アジア
 東アジアには、食料産業の集積が進んでいます。近代的な技術と施設を装備した食料製造業、それに関連した様々な産業が成立・発展しているのが特徴です。その生産力にはすさまじいものがあり、世界の食品産業のまさに拠点になっています。中国はもとより、タイ、ベトナム、インドネシアといった国々には、資本と技術が集積されて大きな経済効果が生まれています。食品加工業の原料が、周辺諸国はもとより、世界各地から搬入されます。特徴的なことは、いくつもの食料産業クラスターがこの地域に形成され、周辺諸国や世界の漁業・養殖生産国、さらには加工国との間に、深い分業関係を築いていることです。

ダイナミックに動く貿易・分業関係
 拠点国となるのは、上記の4か国ですが、水産業および食品加工業に関する分業関係は決して固定的ではなく、条件によって大きく動きます。その結果として、水産物貿易にはダイナミックな力が働くことになります。
 本報告書は、そうしたダイナミックな分業関係の全体像を、必ずしも正確に捉えているわけではありません。今後に残した課題には大きなものがありますが、水産業と水産物貿易のダイナミックな動きの一端を理解していただければと思います。

研究体制と分担
研究代表者 山尾政博
(広島大学大学院)
総括・東アジアの水産食品製造業のラスター形成,貿易多極化の分析
分担者 山下東子
(明海大学)
ツナ関連産業の域内分業の動態,日系水産食品企業の投資行動分析
赤嶺 淳
(名古屋市立大学)
在来型水産食銀の生産・流通分析,周辺貿易のエスノ・ネットワーク論
鳥居享司
(鹿児島大学)
冷凍食品関連産業の集積効果,日本漁業の輸出動向分析
研究協力者 Achmad Zamroni(広島大学大学院博士課程後期)
WAI YEE LIN(広島大学大学院博士課程前期)
柳 a錫(韓国農林水産食品部)
Sakulsaeng Ponprapa(タイ カセサート大学)
Suanrattanachai Phattareeya(タイ環境NGO)
岩尾 恒雄(NGOスタッフ)
山下 和樹(長崎県畜産課)

報告書の構成
T巻  第T部 成果と概要、現代日本の食料供給システムと日本の水産業 
U巻-1  第U部 東アジア水産物貿易と水産業の分業化
U巻-2  第U部 東アジア水産物貿易と水産業の分業化
V巻  第V部 市場、分業、環境   第W部 付属資料

おわりに
 本研究を進めるにあたり、多くの方々にご協力をいただきました。ここに深謝いたします。
T巻 
第T部 成果と概要、現代日本の
      食料供給システムと
      日本の水産業       


U巻-1 
第U部 東アジア水産物貿易と
      水産業の分業化     


U巻-2
第U部 東アジア水産物貿易と
      水産業の分業化     


V巻 
第V部 市場、分業、環境
第W部 付属資料          




山尾研究室(食料環境経済学)