角谷研究室の新型コロナ関連研究
角谷研究室(および広島大学医療経済研究拠点)では多くのコロナ禍に関連する研究(過去の研究で応用できるものも含む)を行っています。本ページはそのうち主たる研究成果についてまとめています。
コロナワクチンの普及
全体
COVID-19 のパンデミックにより、人々の健康不安が高まるのみならず、社会生活も大きな影響を受けています。この問題を解決する有効な手段の一つが、コロナワクチンの早期普及による集団免疫の獲得ですが、必要なワクチンを確保した後も、人々が積極的にワクチンを摂取する行動を取るかどうかは未知数です。
角谷研究室では独自に実施した全国調査結果を用い、Stella T. Larty研究員(インディアナ大学)と共同で、人々のワクチン接種の態度とそれに影響を与える社会経済的要因の分析を試みました。
【プレスリリース】人々がコロナワクチン接種を躊躇する社会経済的要因を 明らかにしました~ COVID-19 ワクチン接種の効率化に科学的なエビデンスを提示 ~
Kadoya, Y., Watanapongvanich, S., Yuktadatta, P., Putthinun, P., Lartey, S.T., & Khan, M.S.R., Willing or hesitant? A socio-economic study on the potential acceptance of COVID-19 vaccine in Japan, International Journal of Environmental Research and Public Health 2021, 18 (9), 4846
若者世代
日本の高齢者世代のワクチン接種は概ね完了しましたが、若者はどうでしょうか。本研究では若者のワクチン接種の消極性を社会経済的側面から分析しています。
Khan, M.S.R., Watanapongvanich, S., & Kadoya, Y. COVID-19 Vaccine hesitancy among the younger generation in Japan, International Journal of Environmental Research and Public Health, 2021, 18 (21), 11702
ブースターワクチン
日本の若者の新型コロナワクチン3回目接種(ブースターワクチン接種)の接種率の伸びが低調と言われています。角谷研究室では若者のブースターワクチン接種の忌避要因を社会経済的変数を用いて分析しています。
Khan, M.S.R., Nguyen, T.X.T., Lal, S., Watanapongvanich, S., & Kadoya, Y. Hesitancy towards the Third Dose of COVID-19 Vaccine among the Younger Generation in Japan, International Journal of Environmental Research and Public Health, 2022, 19 (12), 7041
コロナ禍の孤独・孤立対策
三密回避、ソーシャル・ディスタンス、不要不急の外出自粛、緊急事態宣言等、COVID-19 パンデミックの対策によって会いたい人にもなかなか会えない状況が長く続き、人々の孤独・孤立の深まりが懸念されます。
高齢世代と現役世代
角谷研究室ではパンデミック前(2020年2月)とパンデミックから約1年経過後(2021年2月)に実施した独自の全国規模のパネルデータを用い、パンデミック前後の人々の孤独・孤立感の変化とその社会経済的要因の分析を試みました。
Khan, M.S.R. & Kadoya, Y. Loneliness during the COVID-19 pandemic: Are older people at higher risk?, International Journal of Environmental Research and Public Health 2021, 18 (15), 7871
年代・性別ごとの分析
角谷研究室ではさらに、パンデミックが人々の孤独・孤立感に与えた影響を深掘りし、年代・性別ごとのサブサンプル分析を実施。年代・性別ごとの孤独・孤立要因を明らかにしました。
Khan, M.S.R., Yuktadatta, P., & Kadoya, Y. Who became lonely during the COVID-19 pandemic? An investigation of the socioeconomic aspects of loneliness in Japan, International Journal of Environmental Research and Public Health, 2022, 19 (19), 6242
経年変化の分析
角谷研究室ではまた、パンデミックが人々の孤独・孤立感に与えた影響を経年変化で観察し、コロナ禍前からの孤独、コロナ禍による孤独、コロナ禍から2年経って新たに陥った孤独について年代・性別ごとのサブサンプルとパネルデータ分析を実施。長期にわたるコロナ禍が人々の孤独に与える影響とその要因を明らかにしました。
Lal, S., Nguyen, T.X.T., Abdul-Salam, S.. Yuktadatta, P., Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. A longitudinal study on loneliness during the COVID-19 pandemic in Japan, International Journal of Environmental Research and Public Health: Health Economics, 2022, 19 (18), 11248
スマホ利用の影響
角谷研究室では、普段は孤独感の要因として知られるスマホ利用が、パンデミック期間は、スマホ利用時間の長さが人々の孤独を和らげていた可能性が高いことを明らかにしました。
Nguyen, T.X.T., Lal, S., Abdul-Salam, S.. Yuktadatta, P., McKinnon, L., Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. Has Smartphone Use Influenced Loneliness during the COVID-19 Pandemic in Japan?, International Journal of Environmental Research and Public Health: Health Economics, 2022, 19 (17), 10540
スマホ利用の影響(パンデミック終息期)
角谷研究室では、上記の結果をパンデミック終息期である2023年2月に取り直したデータで再度検証しました。結果としてパンデミック終息期では、従来の仮説通りスマホの利用時間の長さが人々の孤独に陥るリスクを高めることを明らかにし、パンデミック期の結果が例外的であった可能性が高いことを明らかにしました。
Kuramoto, Y., Nabeshima, H., Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. How does Smartphone Use Impact Loneliness in the Post-COVID landscape in Japan?, Behavioral Sciences: Behavioral Economics, 2024, 14 (4), 294
【カバー論文】国際学術誌「Behavioral Sciences」2024年4月
コロナ対策疲れ
コロナ対策全般
角谷研究室では、日本の全国家計調査結果を用いて、人々のコロナ禍疲れを分析しました。結果として、コロナ対策疲れの度合いには性別(男性の方がコロナ対策を嫌がる) やその他の社会経済変数経済的が影響することがわかりました。
Sulemana, A.-S., Lal, S., Nguyen, T.X.T., Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. Pandemic Fatigue in Japan: Factors Affecting the Declining COVID-19 Preventive Measures, Sustainability: Health, Well-Being and Sustainability, 2023; 15 (7), 6220
手洗い習慣
角谷研究室では、日本の全国家計調査結果を用いて、人々の手洗い習慣の維持と時間割引率(≒せっかち度)、双極割引率(≒ある種の衝動性)の関係を分析しました。結果として、コロナ対策の呼びかけにもone-size-fits-allの考え方では不十分であることがわかりました。
Lal, S., Nguyen, T.X.T., Sulemana, A.-S., Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. Time Discounting and Hand Sanitization Behavior: Evidence from Japan, Sustainability: Health, Well-Being and Sustainability, 2023, 15 (8), 6488
コロナ禍の経済対策
特別定額給付金
角谷研究室は、日本政府がコロナ禍の経済的影響への緊急経済対策の一環として2020年に実施した「特別定額給付金」の政策評価を行いました。
国内居住者全員に一律10万円を配布したこの政策は、緊急経済対策として実施にかかる手続きを短縮できるメリットがありましたが、コロナ禍では家計の経済損失のインパクトには濃淡が大きかったため、家計に対する効果は一律ではありませんでした。角谷研究室では、全国規模の特別定額給付金に対する満足度調査を実施し、どのような属性が同政策の満足度に影響するかを分析することで、政策の評価を行うとともに、さらなる支援が必要な家計の属性を明らかにする試みを行いました。
Yuktadatta, P., Ono, S., Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. Satisfaction with the COVID-19 economic stimulus policy: A study of the special cash payment policy for residents of Japan, Sustainability, 2022, 14 (6), 3401
プレミアム付き商品券
COVID-19 のパンデミックにより、世界経済は大幅に落ち込んでいます。企業の倒産連鎖や失業者の増加等に対し、今後政府は効果的な経済対策を打つ必要がありますが、多くの対策の効果は未知数です。
角谷研究室では広島県および広島銀行の協力を得て、以前に日本政府が展開した、「プレミアム付き商品券」政策を、全国で唯一電子マネー方式で実施した、広島県のデータを分析しました。プレミアム付き商品券の購入情報とアンケート調査結果を用いて、同政策の受益者層の特定を試みました。
【プレスリリース】経済対策の受益者の特性を明らかにしました~ COVID-19 後の経済対策の設計に科学的なエビデンスを提示 ~
Kadoya, Y., Khan, M.S.R. & Yamane, T. Government’s Stimulus Program to Boost Consumer Spending: A Case of Discount Shopping Coupon Scheme in Japan, Sustainability 2020, 12 (9), 3906
withコロナ・働き方改革
健康経営(製造業)
現在、日本の「働き方改革」等、各国で従業員のための職場環境(労働環境)の改善が社会の大きなテーマになっています。そのなかで、労働環境のどのような改善が企業にとってメリットとなるかわかっておらず、改善がなかなか進まない要因とも言われています。なかでも従業員の就業時の感情(幸福、怒り、リラックス、悲しみ)が労働生産性にどのように結びついているかはほとんどわかっていませんでした。
角谷研究室では、TDK株式会社、NEC、そしてKP Beau Lao社の協力を得て、従業員の感情の推移を記録しながら、彼らの労働生産性の変化を分析しました。
【プレスリリース】幸福感が労働生産性を高めることを解明
Kadoya, Y., Khan, M.S.R., Watanapongvanich, S., & Binnagan, P. Emotional status and productivity: Evidence from the special economic zone in Laos, Sustainability 2020, 12 (4), 1544
健康経営(運輸業)
自動車運転時の感情が運転の安全性に影響を与える可能性は知られていましたが、運転シミュレーションやアンケート等ではなく、公道での実際の運転時に客観的かつ科学的な手法で感情が運転速度に与える影響が検証された例はこれまでありませんでした。また、世界的にも長時間勤務が多いとされる職業ドライバーの安全と健康を保つことは、運送業の「健康経営」においても非常に重要な課題です。
角谷研究室では、全国健康保険協会(協会けんぽ)広島支部、つばめ交通株式会社、日本電気株式会社(NEC)、TDK 株式会社の協力を得て、タクシードライバーの実際の勤務時に感情をリアルタイムで推計する生体計を身に着けてもらい、運転記録との照合結果を分析。ドライバーの感情が運転速度に影響を与えることの実証を試みました。
【プレスリリース】安全運転にドライバーの感情が影響することを明らかにしました~ドライバーの感情ステータスが運転の安全性に影響を与える科学的なエビデンスを提示~
Kadoya, Y., Watanapongvanich, S., & Khan, M.S.R., How is emotion associated with driving speed? A study on taxi drivers in Japan,
Transportation Research (F): Traffic Psychology and Behaviour 2021, 79 (May), 205-216
Yahoo!ニュース報道「ドライバーの怒りと悲しみが速度超過につながる 広島大学が科学的に証明」
健康経営(オフィスワーク:金融業)
オフィスワークの健康経営も重要です。角谷研究室ではあいおいニッセイ同和損保保険株式会社の協力を得て、NECの「感情分析ソリューション」を用い、ランダムに分けた自らの感情評価を個人のスマホを通じてリアルタイムでフィードバックするグループ(介入群)とフィードバックを行わないグループ(コントロール群)でのオフィスワーク時の感情状態および、それらに対する休憩等の健康行動誘発効果を比較しました。2週間の計測結果として、フィードバックを行った方が心理的負荷が高まるという結果が出ました。ここから、感情を含む健康デバイスの導入には導入時に丁寧な説明が必要なこと、また利用者の「慣れ」を考慮し、観察期間をある程度長く取る必要があるおと等がわかりました。
Kadoya, Y., Fukuda, S., & Khan, M.S.R. Could having access to real-time data on your emotions help improve mental health? Evidence from a Randomized Controlled Trial of Japanese Office Workers, Behavioral Sciences, 2024, 14(3), 169
コロナ禍で増加が懸念される金融犯罪対策
特殊詐欺被害が件数・被害額ともに長年高止まりしています。これまで、公的機関を中心に対策を促す啓蒙活動等が全国で実施されてきましたが、注意喚起に反応する人はそもそも犯罪リスクに対する意識の高いケースが多いことから、抜本的な解決には至っていませんでした。また、この度のコロナ禍で注意喚起にとって重要な人と人との接触が制限される中、犯罪件数の増加も懸念されています。
こうした中、そもそもどのような社会経済的属性を持った人が特殊詐欺リスクに対して脆弱なのか、そして多数の犯罪の総称である「特殊詐欺」のなかで、具体的にどの種類の犯罪に脆弱なのかを検証し、被害リスクの高い属性を持つ人に必要なサポートを効率よく提供することは、犯罪被害軽減を大きく前進させる上で極めて重要です。
コロナ禍前の調査
角谷研究室は、成本迅教授(京都府立医科大学)、渡部諭教授(秋田県立大学)と共に、過去3年間の、未遂を含む特殊詐欺被害の有無と回答者の社会経済的属性を分析。特殊詐欺全般と、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金詐欺といった個別の詐欺への脆弱性に対する脆弱性を持つ社会経済的属性の特定を試みました。
【プレスリリース】特殊詐欺被害の軽減に金融リテラシーの向上が有効である可能性を提示しました~特殊詐欺被害リスクを低減させる方策に科学的なエビデンスを提示~
Kadoya, Y., Khan, M.S.R., Narumoto, J., & Watanabe, S. Who is next? A study on victims of financial fraud in Japan, Frontiers in Psychology forthcoming
コロナ禍後の調査
角谷研究室では、上記のコロナ禍前の調査をコロナ禍でも継続し、コロナ禍における被害状況と被害リスクの高い層の経年変化を分析しました。
コロナ禍では男性に対する還付金詐欺が増え、女性に対する融資保証詐欺が減ったこと等を明らかにしました。また、全体的に、コロナ禍では特に家計資産に恵まれた比較的若い男性が被害に遭った可能性が高いこともわかりましたが、結果は詐欺の種類によって異なることも改めてわかりました。
Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. Who became victims of financial frauds during the COVID-19 pandemic in Japan?, Sustainability, 2023, 15 (4), 2865
コロナ禍で増加が懸念される依存症対策
ギャンブル依存対策関連研究成果
Watanapongvanich, S., Khan, M.S.R., Putthinun, P., Ono, S., & Kadoya, Y. Financial Literacy and Gambling Behavior in the United States, Journal of Gambling Studies forthcoming
Watanapongvanich, S., Binnagan, P., Putthinun, P., Khan, M.S.R.,& Kadoya, Y. Financial Literacy and Gambling Behavior: Evidence from Japan, Journal of Gambling Studies 2021, 37, 445-465
ニコチン依存対策関連研究成果
Khan, M.S.R., Putthinun, P., Watanapongvanich, S., Yuktadatta, P., Uddin, M.A., & Kadoya, Y. Do Financial Literacy and Financial Education Influence Smoking Behavior in the United States?, International Journal of Environmental Research and Public Health 2021, 18 (5), 2579
Watanapongvanich, S., Khan, M.S.R., Putthinun, P., Ono, S., & Kadoya, Y. Financial Literacy, Financial Education, and Smoking Behavior: Evidence from Japan, Frontiers in Public Health: Health Economics 2021, 8, 612976
アルコール依存対策関連研究成果
Putthinun, P., Watanapongvanich, S., Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. Financial Literacy and Alcohol Drinking Behavior: Evidence from Japan, Sustainability 2021, 13 (16), 8858
依存リスク回避行動(運動習慣・健康診断受信行動)研究成果
Ono, S., Yuktadatta, P., Taniguchi, T., Iitsuka, T., Noguchi, M., Tanaka, S., Ito, H., Nakamura, K., Yasuhara, N., Miyawaki, C., Mikura, K., Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. Financial Literacy and Exercise Behavior: Evidence from Japan, Sustainability 2021, 13 (8), 4189
Yuktadatta, P., Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. Financial Literacy and Exercise Behavior in the United States, Sustainability, 2021, 13 (16), 9452
Nguyen, T.X.T., Lal, S., Abdul-Salam, S.. Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. Financial Literacy, Financial Education, and Cancer Screening Behavior: Evidence from Japan, International Journal of Environmental Research and Public Health: Health Economics, 2022, 19 (8), 4457
Lal, S., Nguyen, T.X.T., Abdul-Salam, S.. Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. Does Financial Literacy Influence Preventive Health Check-up Behavior in Japan?, BMC Public Health, 2022, 22, 1704
衝動性のコントロール研究成果
Katauke, T., Fukuda, S., Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. Financial Literacy and Impulsivity: Evidence from Japan, Sustainability: Health, Well-Being and Sustainability, 2023, 15 (9), 7267
コロナ禍と家族介護行動
Khan, M.S.R., Watanapongvanich, S., & Kadoya, Y. Family caregiving attitudes: Implications for post-pandemic eldercare in Japan,
Gérontologie et société 2021, 43 (165), 1-18
Kuramoto, Y., Nabeshima, H., Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. The Association of Caregivers’ Socio-Economic Conditions with Family Caregiving Norms: Evidence from China, Behavioral Sciences, 2023, 13 (5), 362
コロナ禍と市場の乱高下対策
2020年3月、コロナショックによる株価の急下が発生しました。角谷研究室では証券会社との共同研究プロジェクトにより、投資家のパニック売りの因子を分析し、結果として投資家の双曲割引(≒ある種の衝動性)がパニック売りを誘発することを実証しました。
Lal, S., Nguyen, T.X.T., Bawalle, A.A., Khan, M.S.R., & Kadoya, Y. Unraveling investor behavior: The role of hyperbolic discounting in panic selling behavior on the global COVID-19 financial crisis, Behavioral Sciences: Behavioral Economics, 2024, 14 (9), 795
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