最近読んだ本1999年版
最終更新日1999.03.09
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1998年分(未完成)
ただいま読書中(近況一言報告) 1月;
2月;
3月;
2月
1月
- イエスの遺伝子 (マイクル・コーディ)
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人の全遺伝子配列をわずか数時間で読み取ることができるという画期的な装置が発明されたら…、というアイディアで書かれた小説。実際にこのような装置が開発される望みは薄いが、このアイディアによって、現在加速度的に進行しているゲノムプロジェクトや遺伝子医療が、近い将来に我々につきつけるであろう問題を戯画化して提示することに成功している。
物語の後半は、この物語のもう一つのアイディアである、「イエス=キリスト」の遺伝子、すなわち病人の治癒などの「奇蹟」を行う能力をもたらす遺伝子の正体を探る、というストーリーが中心になる。こうなると話は多少(というかだいぶ)現実離れしてくるのだが、「奇蹟」の遺伝子を探索していく過程は理にかなっているので、そう飛躍した印象は受けない。
エンターテインメントとして良くできていて、楽しく読めた。ただ僕としては「奇蹟」のメカニズムをどう説明してくれるのか、というところに期待していたので、そこがはぐらかされているのは残念だった。そこがうまく説明できていれば満点だったのですが。
- 大久保町の決闘 (田中哲弥)
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ネット上、特にSF方面の人々に強い支持を受けている作品。『やみなべの陰謀』には乗れなかった僕であるが、いろんなサイトで良い評価を受けていたので、再度挑戦してみた。
この人は、なんともいえない文章のおかし味で読ませる作家なのだと思う。ネット上で公開されている日記の文章などはたまらなく面白い。というわけで、この小説も文章を楽しむには良いと思う……のだけど、でも、それだけなんだよね。物語の設定自体が、はなからリアリティを完全放棄した冗談で、マンガで言えばたとえば安永航一郎とかあんな雰囲気なのだけど、小説でこういう話を読むのは(僕が慣れていないということなのかもしれないが)つらいものがある。要するに軽すぎるのね。まあ上手いことは認めつつ、僕には合わなかったということです。
- レフトハンド (中井拓志)
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埼玉にある某研究所で起こったウイルス漏洩事故。その謎のウイルスに感染し発病すると、左腕が抜け落ちて奇怪な生物に変態してしまう。事故によってウイルスに感染した主任研究員は研究棟を乗っ取り、研究を続行させろと要求する。厚生省から派遣された調査員として「左腕」たちが蠢く研究棟に乗り込んだ主人公は、このウイルスが「カンブリアの海」の多様性を現在に蘇らせたのだと確信する――というような筋書きのバイオ系SF/ホラー。
けっこう悲惨な話なのにユーモラスな文体で、それが違和感なく成功している。左腕が抜け落ちて怪物になるというアイディアも面白い。贅沢を言えば、もっとハードSFっぽく(瀬名秀明ばりにとまでは言わないまでも)理屈をこねまわしてくれた方が僕的にはもっと面白かったと思うけど、ホラー小説としては十分な水準だろう。肛門がない生物なんて別に「カンブリア」じゃなくたって現生の生物にもいるじゃん、とか、まあ細かいアラはいろいろあるけど、それはご愛嬌。ラストのセンチメンタリズムも甘すぎず苦すぎず、読後感も良い。
- チグリスとユーフラテス (新井素子)
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新井素子の新たなる代表作として評判の高い作品。子供が生まれなくなることで滅びへの道をたどる移民惑星「ナイン」。ナインに一人取り残された「最後の子供」ルナは、コールド・スリープで眠っている人々の中から4人の女性を選び、一人づつ覚醒させていく。4人の女性に関する4つの物語からなる連作SF小説。4人の女性の生き方に託して「人は何のために生きるのか、人生に意味はあるのか」というテーマに挑んでいる。
新井素子は初期の作品は結構読んでいたのだけど、『……絶句』の頃から読むのがつらくなって、もう十年以上読んでいなかった。今回読んでみて、新井素子って全然変わっていないなあ、と思った。ファンにはこれが良いのだろうけど、僕はやっぱり苦手だ。
新井素子の小説って、読んでいると一人芝居を見ているような、あるいは幼い女の子がお人形遊びをしているのを見ているような、そんな気分になってしまう。登場人物がぜんぶ新井素子の分身のように見えてしまうんだよね。だから登場人物達が互いにすんなり了解してしまうようなことでも、他人の僕から見たら全然納得いかないような事が多くてつらい。たとえば、この時代、生殖テクノロジーが高度に発達しているわけだから、どうしても子供が欲しければテクノロジーを駆使して産めば良いじゃない、とか、それをしないでおいて「最後の子供」だからルナは不幸だ不幸だとくり返し言われてもぜんぜん説得力ないじゃん、とか、僕ならそういう風に考える。でもこの作品の世界では、そういう考え方自体がはなから考慮の外にある。皆、判で押したように同じ了解事項、同じ前提の上に立って話が進んでいってしまう。今あげたのは端的な例だけど、他にもそういう部分がたくさんあって、フラストレーションがたまる。
あと、文体も苦手。特に会話文。ああいう話し方をする人たちとは、お近付きになりたくないよ……。
- トポロジー ―ループと折れ線の幾何学― (瀬山士郎)
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トポロジーに関する入門的なテキスト。
幾何学的な図形を、ある特定の変換群で変換する。この変換で互いに移りあえる図形は同じものとみなすことにすると、たとえば「アフィン変換」という変換においてはすべての三角形は同じであるとみなされるし、射影変換においてはすべての四角形が同じ図形であるとみなされる。で、さらに変換の自由度を上げて、たとえばコーヒーカップと浮き輪を「同じ」とみなすような変換を考えることにすると、トポロジー幾何学になる。このような変換によって、何と何が「同じ」で何と何が「違う」かを定義することで、図形の「分類」が可能になる。では具体的にどのようにして「分類」を行うのか。そこで登場するのがホモトピー理論だ。ホモトピー理論によって幾何学的図形に「基本群」という構造を設定することができて、図形の性質を代数的に扱うことが可能になる。この本は、ホモトピー、基本群、などの基本的な概念を説明し、基本群の計算の仕方、特に「複体」という構造の上での基本群の計算方法を解説している。
数学の本だから、すらすらと読めるというわけにはいかないが、数学の本としては読みやすい部類に入ると思う(僕でも通読できたくらいだからね)。
- グリーン・マイル1 (スティーヴン・キング)
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全6巻。読み出すと次が読みたくてたまらなくなる、という評判だったけど、1巻を読んだ限りではそれほどでもない。
2巻も買ったのでそのうち読んでみます。
- グイン・サーガ64 ゴーラの僭王 (栗本薫)
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いよいよイシュトヴァーンがゴーラの王に(もうすぐ)なる。しかしゴーラ帝国の支配者は「皇帝」ではなかったのか。それが「王」というのはどういうことなのか。その辺の事情がよく分からないぞ。グインも皇帝じゃなくて「王」になるらしいし。
- バースデイ (鈴木光司)
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『リング』『らせん』『ループ』3部作で描かれなかった部分(高野舞の死、山村貞子の劇団時代、ループ界のその後)を書いた3本の短編から成っているのだけど、蛇足の感は拭えない。よほどのファン以外は読まなくても良いでしょう。こういう本が出るっていうことは、『ループ』の「次」(第4部)というのは、無いっていうことなんでしょうね、おそらく。
- 黒い家 (貴志祐介)
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生命保険詐欺を題材にしたホラー。あちこちで「怖い」という評判を読んでいたので期待して読んだのだが。
もっとひねりがある話なのかと予想していたのだが、ストレートに進行してストレートに終わってしまい、物足りない感じが残った。怖いかときかれたら、うーん、怖くないなあ。変に期待したのが悪かったのか。
たぶん僕がいちばん「怖い」と感じるのは、信じていた物事に一瞬にして裏切られる、という状況だと思う。典型的な例では「その、のっぺらぼうってやつは…こんな顔でしたか?」みたいな (^^; やつ。小説でいうとウイリアム・カッツの『恐怖の誕生パーティー』とかね。
- 水霊―ミズチ― (田中啓文)
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イザナギ、イザナミ神話を題材にとった伝奇ホラー。けっこう蘊蓄が多い割には、すらすらと読める。途中まではわりと面白くなるかな、と思いながら読んでいた。しかし結局は期待外れ。なにより、敵が間抜けすぎ。もうちょっとちゃんと作戦をたてて、きちんと実行していれば、彼らの目的くらい簡単に達成できそうなものだ。せっかく知性があるんだから使えば良いのに。これじゃ実在の寄生虫とか細菌、ウイルスの方がよほど恐いよ。他のところで感動させてくれるならまだ良いのだけど、自己犠牲のお涙頂戴シーンが2つほどあるだけでは、白けるだけ。
- うるさい日本の私、それから (中島義道)
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『うるさい日本の私』の続編。
中島氏が耐え難く感じるようなアジア的な(氏によれば「秋葉原的、俗悪商店街的」な)猥雑さが、実は日本人の感受性の根っこなのだ、という説が興味深い。僕自身はそういう猥雑さが好きで、中島氏の耐え難さを実感することはできないけれど。
- 地球儀のスライス (森博嗣)
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短編集。以前の短編集『まどろみ消去』もそうだったけど、森氏の短編には森博嗣テイストが濃厚に凝縮されていて、ファンにとっては非常においしい本に仕上がっている。ふつうのミステリィを期待すると、はずされるけどね。
- やみなべの陰謀 (田中哲弥)
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ネット上SF(一部ミステリィ)方面で評判が良いので読んでみたのだが、僕には合わなかった。中学生くらいが楽しく読み流すのには良いかもしれない(だからまあ電撃文庫としては良い作品なのかもしれない)けど……という感じ。
- 爆笑大問題 (爆笑問題)
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爆笑問題の本。期待通り、ちゃんと笑えます。それだけだけど、それで十分。
- 古本マニア雑学ノート 2冊目(唐沢俊一)
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『古本マニア雑学ノート』の続編。内容は前の本とあまり変わらず、古書マニアという人々がいかに奇妙で怪しい人々であるかということが語られる。柱の部分には唐沢俊一がコレクションした珍本、奇本が紹介されていて、これを見るだけでも面白い。
- 中国人郵便配達問題=コンピュータサイエンス最大の難関 (西野哲朗)
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タイトルになっている「中国人郵便配達問題」は、郵便配達人が手紙を配達するときに、できるだけ短い距離を回って出発点の郵便局へ戻る経路を求めるという問題だ。配達人は担当区域内のすべての道を少なくとも1回通らないといけない。この時、担当区域内に一方通行の道と両方向通行の道が混在していると、問題が「NP完全問題」になってしまう。つまり「巡回セールスマン問題」とか、生物の系統推定における最節約樹形の探索などと同様に、扱う対象の数が増えると必要な計算ステップが指数関数的に増大してしまって、計算時間が爆発してしまう(現在のコンピュータでは事実上計算不可能な)問題だ。
本書ではまず、「計算」の定義と、チューリング機械の基本的な原理を解説する。次に、ある問題を解くために必要な計算量(アルゴリズムのステップ数)という観点から、問題をクラス(計算量クラス)に分ける理論について解説し、「中国人郵便配達問題」などのNP完全問題が現在のチューリング機械型コンピュータに限界を突き付けていることを述べる。そして現在のコンピュータの限界を乗り越える、新しいハードウェアの動作原理を模索する試み(ニューロイダルネット、量子コンピュータ)について紹介している。
全体的に面白く読めたが、ニューロイダルネットによる言語認識、獲得の話が特に興味深かった。言語獲得の初期回路に対して、正しい文のサンプルを与えて学習させることで、文の認識回路が生成される、という話。これを読んで素人考えで思ったのは、ヒトの発達の場合、一方的に入力を与えられるだけじゃなくて、発達する主体が外界に働きかけ(たとえば声を出すとか物を動かすとか)をしてリアクションを受け取る、という相互作用が主体と環境の間の適応を獲得する上でかなり本質的に重要なんじゃないかという気がするのだけど、そういうものが考慮に入れられると話はもっと面白くなるのじゃないかな、ということ。いずれにしろ、言語、発達、人工知能、といった領域が重なるこの辺の研究分野は要注目だと思った。
- もてない男―恋愛論を超えて― (小谷野敦)
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著者自身も「エッセイ」と書いている通り、議論を深めるというよりも著者の思いを綴った本。というわけで、この人はこういう人なのね、という事は分かるけど、ジェンダー論とかセクシュアリティ論についての認識はあまり深まらなかった。面白いんだけどね。
以下はコメント作成中です。もうしばらくお待ち下さい。
- タナトスの子供たち (中島梓)
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- DNAだけで生命は解けない ―「場」の生命論― (B・グッドウイン)
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- だから女は大変だ (オバタカズユキ)
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- 異次元失踪 (福島正実)
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