環境運動生理学研究室 概要
運動時の適度な体温上昇は運動パフォーマンスを高めますが,過度の体温上昇は運動パフォーマンスの低下を引き起こします。近年は環境温や核心温も運動能力を決定する重要な要因の1つとして注目されています。図に示すように,暑熱環境下の運動時に引き起こされる高体温が暑熱耐性の制限因子となり,末梢及び中枢神経系を介して疲労感を誘発し,運動パフォーマンスの低下,ひいては熱中症などを引き起こすと考えられています。
当研究室では日本国内やベルギーなどの研究者と共同で,ヒトおよびラットを用いて運動時の体温調節機構における中枢性の要因に着目し研究を行っています。さらに得られた研究成果は,競技現場における暑さ対策として活用できるように現場のトレーナーの協力を得ながら実践しています。現在の主な研究プロジェクトは次の通りです。
プロジェクト研究
1.運動時の暑さ対策に関する研究
近年は多くの競技会が暑熱環境下で開催されることが多くなっています。このような厳しい環境下で高い運動パフォーマンスを維持するためには,体温上昇レベルや脱水レベルをいかにコントロールするかが重要な課題です。水分摂取,冷水及びアイススラリーの摂取,身体冷却,暑熱順化,コンディショニング,リカバリーなどの暑さ対策に関する実践的な研究を行っています。
また研究成果を競技現場や指導現場でどのように応用していくかが重要です。これらの研究は熱中症予防にも役立ちます。
2.体温上昇及び脱水が運動パフォーマンス及び認知機能に及ぼす影響
体温上昇や脱水が中枢神経系を介しどのように運動パフォーマンス及び認知機能に影響を及ぼすかに焦点をあて検討しています。運動時の体温上昇は生理的反応だけではなく,運動感覚や温熱感覚などの主観的感覚,運動時のペース配分,状況判断能力(認知機能)などの認知機能にも影響を及ぼすことが分かってきました。
またこれらの低下を防ぐための実践的方法も検討中です。
3.サッカーの競技力向上及び暑さ対策に関する研究
サッカーは持久的運動能力,高強度運動能力,スプリント能力,筋発揮能力などの様々なフィジカル能力が必要とされるスポーツです。これらのフィジカル要素はどの程度必要であり,どのようなトレーニングによって効率良く高めることができるのか?そのためには日本人や諸外国のサッカー選手におけるフィジカル的特徴を分析し,それらを競技力向上に役立てていくことが必要不可欠です。
さらに水分摂取や栄養摂取,身体冷却などのスポーツ科学領域における科学的エビデンスをサッカーに応用し,サッカーにおける効果的な暑さ対策について検討しています。Bangsbo博士の言葉「フットボールはサイエンスではないが,サイエンスを取り入れることはフットボールのレベルアップにつながるだろう」を実践したいところです。
4.運動時の体温調節機構及び中枢性疲労に関する研究
運動中の腹腔内温,脳温,脳内神経伝達物質,代謝量(熱産生反応)及び皮膚温(熱放散反応)の体温調節反応を同時かつリアルタイムで測定できます。テレメトリー法(無線式小型体温計の埋め込み),脳内マイクロダイアリシス(微量透析)-HPLC(液体クロマトグラフィー)法,代謝測定法を組み合わせた実験系は世界に1つしかないシステムです。これらの測定から運動時の体温と中枢性疲労の関連性を検討しています。またこれらの手法は神経薬理学的研究にも応用しています。