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従来手法との比較

図 7.3: 認識対象図形
\begin{figure}\begin{center}
\psfig{file=images/fig-7.3.eps, width=130mm}\end{center}\end{figure}

ここでは、認識実験の対象として、図7.3に示す図形を用いた。これは、 文献[24]で用いられている2値図形をコピーして得たものである。これらの 図形は、重心を原点とする極座標 $(\rho, \theta)$ 上で輪郭を等角度標本化したと き、同一角度で $\rho$ が多価となるため、文献[24]でも認識しにくい図形 となっている。文献[24]では、識別方式として Feature Weighting (FW) 法 [155]、 Rotated Coordinate System (RCS)法、および Hyperplane 法を用い て実験をおこなっているが、このうち RCS 法が最も高い識別結果を与えている。 RCS 法は、各クラスの共分散行列を対角化した後に、 FW法を適用してクラスの平均 特徴ベクトルとのユークリッド距離が最小となるクラスへ特徴ベクトルを識別する手 法である。 FW法は、空間の座標軸を伸縮させて、各クラスの体積を一定にするとい う条件のもとで各クラス内の分散を最小にする手法である。

ここで用いた図形は、大きさに関して $0.7$, $1.0$, $1.2$ 倍の変動を、回転に関 して約 $(\pi/4)k$ [rad] $(k=0, 1, ..., 7)$ の変動をもたせた。これらの変動は、複 写機の倍率を変えたり、手で図形を回転させたり、平行移動させたりして与えたもので ある。各図形当たりのサンプル数は $24$$3$ 大小 $\times$ $8$ 回転)であり、 合計$96$$4$ 図形 $\times$ $24$ サンプル)である。

複素自己回帰モデルに基づく特徴を用いた実験では、図形の輪郭を時計回りに追跡し、 データ点列を抽出した。大小伸縮に不変とするために、輪郭の全周長を$N=60$ 等分 する区間に分割し、各区間内のデータ点を平均値で代表させた。また、平行移動に対 して不変とするために、重心が原点となるように輪郭点列の複素座標を定めた。こう して得られた輪郭点の座標値(複素数)に対して、高速算法を用いて $1$ 次から $10$ 次までの複素自己回帰係数と複素 PARCOR係数を計算した。識別法としては、比 較のために RCS 法を用いた。正識別率を少数サンプルから推定するための手法とし て、leave-one-out method を用いた。つまり、各クラス当たり $1$ 個ずつテストサ ンプルとし、テストサンプル以外の残り $23$ サンプルを学習サンプルとして識別実 験を行ない、テストサンプルを順次替えて平均正識別率を計算した。


表 7.1: 認識結果(%)
モデルの次数 ($m$) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
複素自己回帰係数 100 100 98.9 100 100 100 100 100 100 100
複素PARCOR係数 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100
従来法 92.9 98.2 100 100 100 98.2 94.6 100 - -

認識実験の結果を表7.1に示す。複素PARCOR係数を用いた識別では、 $1$ 次から $10$ 次までの全てのモデルで $100$ % の識別率が得られている。また、 複素自己回帰係数では、$3$ 次のモデルのとき $1$ 個誤認識されて識別率が $98.9$ % となったが、それ以外の次数では、$100$ % の識別率が得られている。一方、従 来の実自己回帰モデルの係数を特徴として RCS 法によって識別した場合の識別率は、 $3$ 次から $5$ 次までのモデルでは、$100$ % であるが、それ以外では $100$ % 以下である。また、モデルの次数を大きくしても必ずしも識別率が増加していない。 これらの結果から、従来の実自己回帰モデルに基づく方法では認識しづらかった複雑 な図形に対しても、複素自己回帰モデルを用いることによってより高い識別率が得ら れる見込みが得られた。


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Takio Kurita 平成14年7月3日