野外実習だった。
思い返せば去年も野外実習に参加し、
大山山頂に眼鏡を忘れたり、
サービスエリアに藍羽田を忘れたりした。
そういえば、例年この時期に野外実習が開催されている。
で、実習の中身は機密事項なので、決して漏らすことはできないが、実習のある日、なぜか私はキノコを持って、呆然と立っていた。
で、そのキノコについて、学生たちがすでに議論を相当していたらしく、その議論というのは、それがキノコであることはわかるのだが、何という名前のキノコなのかがわからず、つまり、キノコの名前が議題となっていたらしい。
野外実習はこんな感じで、野に出て、そこで出会った自然物の科学的理解を深めることから、すべてが始まる。
で、「このキノコ何?」問題に対峙中の学生の中に割って入ったのが私だった。かっこよく正答を与えることで、「先生すごい感」を演出しようと試みたのだ。
が、これを読んでくれている皆さんの予想通り、私にはそれがなんであるかわかるような技量は持っていない。
私自身、そのことには気が付いていたが、目の前でキノコを見れば、名前がわかる気がした。そんな風に漠然と思いながら、キノコを手にした。
……キノコを手にしたって、わかるわけはなかった。
で、「やべぇなぁ、ぜんぜん、わかんねぇじゃん」と思いながら、キノコをじっくり観察していると何と不思議なことでしょう。キノコの神が降臨したというか、何というか、まぁ、そういう瞬間だった。私の中に、このキノコの名前について、確信に似たものが沸き上がってくるのがよく分かった。そして、何のためらいもなく、
「これは、乾燥シイタケじゃ!!山にこんなものがあるのは腑に落ちないかもしれないけど、これは、確実に乾燥シイタケじゃ!!!」
と叫んだ。叫んだと同時に、
「乾燥シイタケは出汁が取れるくらいだから、いいにおいがするよぉ~」
とうそぶいて、キノコのにおいを嗅ぎにいった。
学生が、私の行動を止めようとするのが見えたけれども、かまわずにおいを嗅いだ。
目の前の学生が「あーっ」と驚いた顔をしたのが見えたけれども、かまわずにおいを嗅いだ。
シイタケは、いいにおいがするんだから、かまうことはない。
その乾燥したキノコの香りをガッツリ吸い込んだ!!
思いっきり吸い込んだ!!
すると、何と不思議なことでしょう。シイタケのにおいとは真逆、「臭い」の最上級の悪臭が鼻を衝いた。そしてたまらず、
「くさっ!!!」
と叫んでしまった。
本当に臭かった。それまでに嗅いだことのない、乾燥した、凶悪な悪臭だった。
もんどりうって臭がる私を見て学生が、小声で、しかし、しっかり聞きとれるぐらいの声で、
「だから、言ったじゃん」
と、言った。
どうやら学生たちは、私があらわれる前に、このキノコの匂いをお試し済みだったらしく、“臭い”という情報を共有していたらしい。
「その会話、私が加わる前にしていたやつで、私、聞いていないし」
と思いながらも、これからは、たとえ乾燥シイタケに似ていても、不用意にキノコのにおいを嗅ぐのはよしておこうと思った。
アディオス