<前回からの続きです>
妻は、やや興奮しながら、
「ハムスターが我が家にやってきて1年(正確には10か月です)、私は一度たりともこのネズミが鳴くことなど聞いたことがなかった。それが、今日に限ってザ・ネズミ的な「チウ」という声を出した!これは一大事である。」
と主張するのである。
10か月鳴かなかったネズミが鳴いたことが大事であるという主張であるが、もしこれが理由ならば、それは全く大事でも何でもない。それを説明してやるために、瀧澤君の話をしてやった。
瀧澤君は私の中学生時分の同級生で、大変無口で、彼が話をするときは、授業中に先生に指名されて国語の音読やらをさせられるときに限られていて、休み時間でも、給食の時間でも、彼が自発的に話をすることなど全くなかった。
その瀧澤君が、である。夏休みが終了時、久しぶりの登校すると、クラスメートと流ちょうにお話をしているのではないか! 急におしゃべりになった瀧澤君を見ながら、「夏休みに何があったんじゃい?」と不思議に思っていた。
こんな感じで、つい最近まで無口だった奴が、夏休みのような何らかのきっかけで急におしゃべりになることはよくある話で、ハムスターもその一つであると、妻に教えてやった。
すると、妻はみるみると機嫌が悪くなり、
「あなたは、今日まで、ハムスターに対する愛情が全くなかった。そんな人間が、ハム子のことを分かったように話してはいけない。私はハム子がうちに来てから1年(正確には10か月)、愛情を注ぎこんでいるんだから、ハム子が滝沢と違うことをよく知っている! 滝沢とかいう中学生とハム子を一緒にするなぁ!」
と激怒した。朝の4時に。私は、
「あいつ、ハム子っていうのか!」
と驚いた。妻は続けて、
「ハム子はもう死ぬのよ! 私が何とかしないと死んでしまうのよ!」
と叫びながら、納屋のほうに走って行ったかと思うと、工具箱からのこぎりを取り出して戻ってきた。
なぜ、「チウ」と鳴くと死ぬのか? なぜ、何とかするためにのこぎりが必要なのか? すべてが分からなかった。新たな疑問が頭を埋め尽くしていた。
私は睡眠改善薬のせいでボーっとする頭の中で、片手にのこぎりを握りしめる妻を見ながら、これが現実なのかもう一度考えていた。
<つづく>
次回配信予定2月21日
チウ