<前回からの続きです>
実はハム子は、数日前から失踪しておった。
ご飯とおやつとお水、温かい寝床に、さらにはくるくる回る遊具が用意されているというのに、ハム子はケージでの生活を拒絶し、時にケージから逃げ出した。
ただ、逃げ出したとしても、実は逃げ場はケージの外にだってない。
はたして、リビングを徘徊しているところを見つかって、ケージに戻されることが常だった。
そんな脱走劇を数回繰り返した後の、ある日のことだった。その日も、ハム子は脱走を謀ったようだ。だって、ケージにハム子の姿がないのだから。
「しようがないねぇ」、とその辺りを探したんだけど、部屋のどこにもハム子はいない。「捜索が甘かったかなぁ」、とさんざん探しても見つからない。いつもと違う状況に戸惑いながらも、ハム子に愛情がない私は、
「そのうち見つかるだろう」
と冷たく言い放ち、床に就いた。
電気を消すと異変に気が付いた。
寝室の一角から、ガサガサと小型の生き物が移動する音がする。
ハム子だ!
電気をつけ、音のする方に目をやったが残念。もうすでに、そこにはハム子はいない。ただ、壁があるだけ。
......と思いきや、その壁の向こう側から、ガサガサと音がする。
どうやら、ハム子は壁裏に続く、家主さえ認知していない秘密の通路を発見し、壁裏生活を堪能しているらしい。さすがネズミ。
で、この事実を家族に伝えたのだが、救出する術をもたない我々人間側は、状況を前にただただおろおろするだけだった。
で、私は、
「お腹がすいたら出てくるよ」
と無責任なことを言って再び寝床についた。
床の中で、
壁の中は真っ暗だし、野生を忘れたハムスターだから、壁から出てこられるかなぁ
とこれまた心配になって、なかなか眠れなかったのであった。
ただし、正直に申し上げると、ハム子の身を案じるというよりは、壁の中でハム子が死んでいく姿を想像し、「衛生的によろしくないなぁ」と自分の身を案じていたのであった。
ハム子はお腹がすいたのか、その日の夜、壁から出てきたところを確保された。
「お腹がすいたら出てくるよ」と言った私は、晴れて予言者となった。
<つづく>
次回配信予定2月23日
チウ