近況

イボイモリの遺伝的多様性・集団構造に関する論文が Conservation Geneticsに掲載されました。

琉球列島に生息する絶滅危惧種であり、鹿児島県・沖縄県指定天然記念物であるイボイモリ(Echinotriton andersoni)に関する論文がConservation Genetics誌に掲載されました。
イボイモリは渡嘉敷島、沖縄島、徳之島、奄美大島及びその近傍の島々に生息するイモリの一種で、両生類の原始的形質である葉脈上に隆起した肋骨が特徴的な種ですが、近年の環境改変の影響などによって生息域・個体数の減少が危ぶまれており、環境省レッドリストの絶滅危惧II類 (VU)、IUCN RedlistのEndangered (EN)に分類されています。また、鹿児島県・沖縄県指定天然記念物でもあります。

本種の遺伝的多様性に関する情報は保全を行う上で重要な情報ですが、これまでミトコンドリアDNAに基づく情報(Honda et al., 2012)に限られており、集団間・個体間レベルの詳細な情報は不足していました。また、遺伝的多様性をもたらす要因やパターンを調べる上で、移動能力が限定的であり、外界から隔離された島嶼内の両生類は理想的な研究対象ですが、本邦ではイシカワガエル種群に関する景観遺伝学的研究(Igawa et al. 2013)以降、集団・個体レベルでは調査されていませんでした。

そこで、本論文では個体識別も可能な高分解能遺伝マーカーであるマイクロサテライトマーカーを用いて、イボイモリの全生息域を網羅した集団遺伝学的解析を行いました。その結果、イボイモリの集団間の遺伝的関係が詳細に明らかになり、さらに島嶼の大きさと遺伝的多様性の相関、移動能力を反映した遺伝的障壁の存在、島嶼内の複数の祖先創始個体群の存在などが考えられました。
特に、これまでに一様な遺伝的構造であるとされてきた島内の集団にも様々な多様性があることが分かってきたことは大きな進歩で、限られた生息域に存在する西南諸島固有種と変化する環境と社会との共生の在り方を考える上で重要な視点になり得ると考えられます。

本研究は、本邦において両生類研究を長年にわたって活発に行っているほぼすべての研究拠点(琉球大、筑波大、兵庫県立大、京都大、首都大、広島大)の共同研究として行われました。

文献:
*Igawa T, Sugawara H, Honda M, Tominaga A, Oumi S, Katsuren S, Ota H, Matsui M, Sumida M, Detecting inter- and intra-island genetic diversity: population structure of the endangered crocodile newt, Echinotriton andersoni, in the Ryukyus. Conservation Genetics (advanced online publication). [ DOI | httpPDF ] (*責任著者)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です