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地球惑星深部物質のレオロジー1. マントル深部物質のレオロジー
2. 高圧実験のための技術開発
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(1) D-DIA 型マルチアンビル装置と6-6 加圧方式 |
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【背景】 私たちは地球惑星深部物質のレオロジー特性について研究を進めるために、超高圧高温変形実験にD-DIA型変形実験装置を使用しています。この装置を用いた場合、2008年当時の実験技術では実験圧力条件が10 GPa(地下300 kmに相当)に限られていました。 【成果】 ・最高発生圧力を25 GPa (室温下)にまで更新しました。 (最も硬い超硬合金をアンビル材質として採用しました) (Kawazoe et al., 2010 HPR) ・実験可能な温度圧力領域を20 GPa・2000 K にまで拡大しました。 (10-20 GPa において高温発生が可能なセルアセンブリーを開発しました) (例えば、Kawazoe et al., 2010 PEPI) ・放射光2次元X線回折が可能な条件を15 GPa・1700 K にまで拡大しました。 (放射光X線を透過するアンビルを導入しました) (現在では18 GPa・1700 K でも成功しています) (Kawazoe et al., 2011) ・せん断変形実験の可能な条件を18 GPa・1900 K まで拡大しました。 (せん断変形機構をセルアセンブリー内に導入しました) (Kawazoe et al., 2013; Ohuchi et al., 2010) 【今後の方針】 さらに高圧力下での変形実験を行うために、引き続き高温高圧実験のための技術開発に取り組んでいます。 【波及効果】 本研究によって開発された実験技術は、以下の研究施設において使用されています。 ・バイロイト大学バイエルン地球科学研究所(Manthilake et al., 2012) ・愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(例えば、Ohuchi et al., 2014) ・SPring-8 BL04B1 ビームライン(例えば、Ohuchi et al., 2015 PEPI) ・高エネルギー加速器研究機構 ・PF-AR NE5C ビームライン(Maruyama et al., 2015) ・PF-AR NE7A ビームライン(例えば、Doi et al., 2014) ・FRM II (Forschungsreaktor Muenchen II)(Walte et al., personal communication) |
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[上の図] 6-6加圧方式アセンブリーです(Kawazoe et al., 2010 HPR)。 [中央の図] 超高圧高温変形実験後のセルアセンブリーの断面写真です。20 GPa、1700 K においてリングウッダイトを変形させたときのものです(Kawazoe et al. 2010 JES)。 [下の図] 18 GPa、1700 K において変形させているリングウッダイトから得られた2次元X線回折パターンです。放射光単色X線をイメージングプレートによって計測したものです。白色の輪が回折X線になります。 |
(2) 光学的物性測定のための超小型キュービックアンビル装置 |
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【目的】 ・高圧下における光学物性測定 (マルチアンビル装置を用いた) 【背景】 光学測定により様々な物性が測定できます。高圧物性研究での代表例として、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた実験が挙げられます。一方、マルチアンビル装置も高圧物性研究に利用されてきました。しかしながら、光学物性測定には成功していません。 【アプローチ】 ・光学測定が可能な超小型マルチアンビル装置の開発 (Kawazoe, 2012) 【特色】 @光学的物性測定が可能 ・ルビー蛍光法によるその場圧力測定 ・ラマン散乱測定による格子振動観察・相同定 ・光学顕微鏡を使用した試料観察 A小型・軽量 ・マルチアンビル装置として世界最小 (~53 mm の高さ・径) ・マルチアンビル装置として世界最軽量 (~530 g) (2015年時点) ・持ち運びが出来ます ・光学ステージに設置が可能 ・安価 【今後の方針】 ・発生圧力が3.6 GPa に限られていますので、今後更新していく予定です。 ・高温発生を試みる予定です。 |
[上の図] 顕微ラマン分光装置の測定室内に設置された超小型キュービックアンビル装置(Kawazoe, 2012)。 [中央の図] セルアセンブリー・アンビルの光の経路を示したもの。 [下の図] 高圧下における試料の光学顕微鏡像。 |
マントル深部鉱物(高圧鉱物:ウォズリアイト(ワズレアイト)、含水ウォズリアイト、リングウッダイト、含水リングウッダイト、ブリッジマナイト、メージャライトなど)を川井型マルチアンビル装置を用いて超高圧合成しています。 超高圧合成したマントル深部鉱物を実験試料として用いることにより、以下の物性について研究を進めています。 ・硬度(ビッカース硬度測定) ・クリープ特性(変形実験) ・原子拡散(拡散実験) ・鉱物中の水素位置(偏光赤外吸収測定) ・弾性波速度(ブリュアン散乱測定) |
□ ウォズリアイトにおけるFe3+とH+によるSi置換 (Kawazoe et al., in press) |
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【地球科学的意義】 ウォズリアイトはSi欠陥を多く含みます。これは粘性率や粒成長といったSi拡散の律速する物性に大きな影響を与えると考えられます。 【結果】 ウォズリアイトの四面体席イオンに配位する酸素にH+が結合し、四面体席にFe3+が入ります。これはFe3+とH+によるSi置換によるものと解釈されます。 【主な研究手法】 ・単結晶偏光赤外分光法 ・メスバウアー分光法 ・単結晶X線構造解析 ・川井型マルチアンビル装置 |
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□ ウォズリアイトの転位構造(Miyajima and Kawazoe, 2015) | |
【地球科学的意義】 ウォズリアイトの[001](010)タイプの結晶選択配向パターンは、1/2<-101>(010)と1/2<101>(010)という部分転位の運動によって形成されます。 【結果】 高温高圧下で変形させたウォズリアイト(Kawazoe et al., 2013)の転位組織を透過型電子顕微鏡を用いたウィークビーム暗視野法で詳しく観察することにより、変形するウォズリアイトでは1/2<-101>(010)と1/2<101>(010)の部分転位が最も活動していることを明らかにしました。 【主な研究手法】 ・透過型電子顕微鏡(ウィークビーム暗視野法) ・D-DIA型マルチアンビル装置 |
図。変形させたウォズリアイトのウィークビーム暗視野像。明るい線状に見えているものが転位です。 |
□ ウォズリアイト巨大単結晶合成(Kawazoe et al., 2015) | |
【地球科学的意義】 マントル遷移層上部の主要鉱物であるウォズリアイト(ワズレアイト)に関する以下の研究が可能になりました。 ・様々な物性(弾性波速度、塑性強度など)の結晶方位異方性 ・結晶粒内・粒界における物性の違い ・ある程度の大きさの結晶が必要な物性測定(硬度測定など) 【結果】 ウォズリアイトの巨大単結晶(~1 mm)の超高圧合成に成功しました。 【主な研究手法】 ・川井型マルチアンビル装置 |
図。 ウォズリアイトの巨大単結晶。 |
□ マントル深部レオロジー研究の最近の進歩(川添、2014) | |
表題の日本語解説論文を「高圧力の科学と技術」誌24巻2号に発表しました。 また研究成果が掲載雑誌の表紙として選ばれました。 【内容】 ・高性能重力場測定によるマントル深部の流動現象の観測と粘性率の推定 ("リアルタイム"測定) ・地震波解析によるマントル遷移層・下部マントルの異方性的構造 ・歪速度を制御した超高圧変形実験における圧力範囲の拡大 (上部マントル深部・マントル遷移層・下部マントル) [右の図] 「高圧力の科学と技術」誌24巻2号の表紙です。 |
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□ マントル遷移層における地震波速度異方性の鉱物学的モデル (Kawazoe et al., 2013) |
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【地球科学的意義】 ・マントル遷移層では水平方向の流れが卓越しています。 (マントル遷移層上部で観察されている地震波異方性の解釈) 【結果】 マントル遷移層上部の主要鉱物であるウォズリアイト(ワズレアイト)の超高圧せん断変形実験を行うことにより、その結晶選択配向パターンを決定しました。 【主な研究手法】 ・D-DIA型マルチアンビル装置 ・電子線後方散乱回折(EBSD) |
図。 ウォズリアイトの結晶選択配向パターン (基本結晶軸の極点図、比較的低含水量のとき) |
□ マントル遷移層下部の温度圧力条件における リングウッダイトの変形実験(Kawazoe et al., 2010 JES) |
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【地球科学的意義】 マントル遷移層下部の異方的構造はリングウッダイトの結晶選択配向パターンでは説明できません。 【結果】 温度・歪速度を精密に制御したリングウッダイトの超高圧高温変形実験に成功しました。 リングウッダイトの結晶選択配向パターンはあまり発達しませんでした。 【主な研究手法】 ・D-DIA型マルチアンビル装置 ・電子線後方散乱回折(EBSD) 上の図。変形させたリングウッダイトの光学顕微鏡写真。 下の図。リングウッダイトの結晶選択配向パターン。 |
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□ キュービックアンビル装置の圧力上限の更新 (Kawazoe et al., 2010 HPR) |
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【結果】 ・キュービックアンビル装置の圧力上限を25 GPaまで更新しました。 【主な研究手法】 ・キュービックアンビル装置 ・電気抵抗測定(圧力定点法) 【改良点】 ・高硬度アンビル材種の採用 ・高精度アンビルアライメントの実現 (6-6加圧方式の採用・改良) 図。GaP の加圧・脱圧にともなう電気抵抗変化。 |
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□ ウォズリアイトの粘性率と410 km 粘性率不連続の有無 (Kawazoe et al., 2010 JGR) |
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【地球科学的意義】 ・マントル遷移層上部の粘性率は上部マントル深部のものとあまり変わりません。 (低含水量条件において) 【結果】 ウォズリアイト(ワズレアイト)の粘性率(クリープ強度)を超高圧高温変形実験により測定しました。 【主な研究手法】 ・回転ドリッカマー型変形装置(RDA) ・応力-歪その場観察(放射光X線) 図。ウォズリアイトのクリープ強度の温度変化。 |
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□ カンラン石の粘性率の深さ依存性と上部マントルの粘性率 (Kawazoe et al., 2009) |
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【地球科学的意義】 ・上部マントルの粘性率は深くなるにしたがって上昇します。 (低含水量条件において) 【結果】 ・カンラン石の粘性率(クリープ強度)を9.6 GPa、1870 Kまで超高圧高温変形実験により測定しました。 (低含水量において) 【主な研究手法】 ・回転ドリッカマー型変形装置(RDA) ・応力-歪その場観察(放射光X線) 図。カンラン石のクリープ強度の温度・圧力変化。 |
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□ 熔融金属鉄とブリッジマナイト(Mg-ペロブスカイト)の反応と 地球中心核の軽元素 (Kawazoe and Ohtani, 2006) |
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熔融金属鉄とブリッジマナイト(Mg-ペロブスカイト)の反応を27 GPaにおいて3040 Kまで観察しました。 【地球科学的意義】 ・珪素(Si)と酸素(O)は地球中心核中の軽元素の有力な候補です。 【結果】 ・ブリッジマナイト(Mg-ペロブスカイト)は熔融金属鉄と反応します。 ・熔融金属鉄はその反応の結果、珪素と酸素を含みます。 【主な研究手法】 ・川井型マルチアンビル装置 ・波長分散型EPMA 図。急冷した熔融金属鉄の元素マップと反射電子像。珪素Si はブリッジマナイトからのものです。 |
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