マルチアンビル高圧発生装置など


1.マルチアンビル装置



(1) 川井型マルチアンビル装置









 川井型マルチアンビル装置(Kawai and Endo, 1970)を用いることで以下のことが出来ます。
  ・(高温)高圧実験
  ・放射光X線その場測定
    (回折、ラジオグラフィ-、分光測定)

 川井型マルチアンビル装置(6-8 式マルチアンビルシステム)では、試料にかける圧力を逐次加圧によって発生します。
  (1) 油圧装置で6個の一段目アンビルを駆動します。
  (2) 一段目アンビルで立方体形状に組んだ8個の二段目アンビルに荷重を
    掛けます。
  (3) その二段目アンビルで八面体形状のセルアセンブリーを加圧します。

 川井型マルチアンビル装置の最高発生圧力は主に二段目アンビルの硬度(材質、材種)によって決まります。
  ・27 GPa・高温(一般的な硬度の超硬合金)
    (例えば、27 GPa・3040 K; Kawazoe and Ohtani, 2006
  ・44 GPa・2000 K (最も硬い超硬合金)
    (Ishii et al., 2016
  ・109 GPa・室温、106 GPa・1200 K(焼結ダイアモンド)
    (Yamazaki et al., 2014

 川井型マルチアンビル装置の二段目アンビルは、アンビル先端長、一辺の長さ、材質で分類されます。私の知っている範囲ですと、アンビル先端長は、
  ・0.5 mm (Ohtani et al., 1989)
  ・1.0 mm (Ohtani et al., 1989)
  ・1.5, 2.0, 3, 4, 5, 8, 11, 17 mm
一辺の長さは、
  ・10、14, 26, 32 mm
  ・54 mm(Frost et al., 2004
材質は、
  ・超硬合金(例えば、Kawazoe and Ohtani, 2006
  ・焼結ダイアモンド(Yamazaki et al., 2014
  ・キュービックボロンナイトライド(Nishihara et al., 2010
です。

 二段目アンビル用の超硬合金は以下の会社から購入しています。
  ・冨士ダイス株式会社(Fujilloy)
  ・タンガロイ(Tungaloy)
  ・hawedia (ドイツの会社)

 川井型マルチアンビル装置では圧力の封止のためにガスケットを用います。二段目アンビルへのラテラルサポートの効果(Kumazawa, 1973)やアンビルストロークの確保といった役割も有ります。一般的なガスケットの材質はパイロフィライトです(King, 1965)。加熱処理をしたパイロフィライトを用いることも有ります。内熱式加熱のために金属製ガスケットは使われていません。

 下記にセルアセンブリーをいくつか紹介しています。



[1番目の写真] 川井型マルチアンビル装置の加圧開始直前の様子。この後、上の一段目アンビルが二段目アンビルに接触して荷重を掛け始めます。
[2番目の写真] セルアセンブリー、二段目アンビル、一段目アンビルなど。バイエルン地球科学研究所設置の5000 トンプレスのものです(Frost et al., 2004)。
[3番目の写真] 実験後のセルアセンブリー・二段目アンビル。
[4番目の写真] ウォーカー・モジュール(バイエルン地球科学研究所、Walker et al., 1990)。
[4番目の写真] 川井型マルチアンビル装置用の二段目アンビルです。右が一辺26 mm ・先端長 2.0 mm の超硬合金アンビル、左が一辺14 mm ・先端長 2.0 mm の焼結ダイアモンドアンビルです。

(2) D-DIA 型変形装置(ガイドブロックシステム)








 D-DIA 型変形装置を用いることで以下のことが出来ます。
  ・(高温)超高圧変形実験
  ・(高温)高圧実験(一般的なDIA 型キュービックアンビル装置として)

 超高圧変形実験により、地球惑星深部物質のレオロジーについて研究することが出来ます。

 D-DIA 型変形装置を用いた超高圧変形実験の温度圧力条件は以下の様になっています。
  ・20 GPa1700 K(放射光応力測定なし)
    (Kawazoe et al., 2010 JES
  ・15 GPa1700 K(放射光応力測定あり)
    (Kawazoe et al., 2011

 D-DIA 型ガイドブロックでは、上下のガイドブロックの中に小型の差動油圧ラムが組み込まれており、メイン油圧ラムから実験セルにプレス荷重がかかった状態で実験セルを一軸圧縮(もしくは引張)することが出来ます。
 2003年に最初の装置開発についての論文が発表された新しい実験システムです(Wang et al., 2003)。写真のものは改良型(第二世代)になります。


[上の写真]
 下側のD-DIA 型ガイドブロックの全体像。四つのスライディング(サイド)ブロックが載っています。写真上部には変形用差動油圧ラムを駆動するプランジャーポンプが二つあります(愛媛大学設置)。

[中央の写真]
 一段目アンビルと下側の変形用差動油圧ラム。上下の一段目アンビルが変形用ラムによって(高温)高圧下において前進・後退します(SPring-8 設置)。


[下の写真]
 下の一段目アンビルと下側の変形用差動油圧ラム。上下の一段目アンビルが変形用ラムによって(高温)高圧下において前進・後退します(SPring-8 設置)。

(3) 6-6 加圧方式(二段式キュービックアンビル装置)









 6-6 加圧方式Nishiyama et al., 2008)を採用することで、(D-DIA 型変形装置を含めた)キュービックアンビル装置の温度・圧力条件の上限を以下のように更新することが出来ます。
  ・25 GPa (室温下)
    (Kawazoe et al., 2010 HPR
  ・20 GPa2000 K
    (Kawazoe et al., 2010 PEPI
  ・15 GPa1700 K での応力-歪測定
    (Kawazoe et al., 2011

 また6-6 加圧方式を小型キュービックアンビル装置に組み合わせることにより、低コスト・省スペースでの10 GPa・1400 K までの物質合成を可能にしました(Kawazoe and Yamada, 2012)。


 6-6 加圧方式を用いることで以下のことが出来ます。
  ・アンビルアライメントの高精度化
    (アンビル初期位置の高精度化)
  ・アンビル交換の簡素化・迅速化
    (アンビル先端の大きさやアンビル材質の実験ごとの変更)
    (キュービックアンビル方式と川井型方式の切り替え)
  ・小型セルアセンブリー


 6-6 加圧方式アセンブリーはキュービックアンビル装置の一段目アンビル先端で形作られた立方体空間に配置して使用します(1番目の写真)。立方体セルアセンブリー、六個の二段目アンビル、アンビルガイドから構成されています(2番目の写真)。
 6-6 加圧方式は、2008年に装置開発についての論文が発表された新しい加圧方式です(Nishiyama et al., 2008)。


 (二段目)アンビルはセルアセンブリーを加圧する高硬度の部品です。写真のものは6-6 加圧方式の二段目アンビルです。実験用途に応じて材質を選定しています。
  ・一般的な(高温)高圧実験
    超硬合金(WC)
  ・応力測定実験(放射光X線を透過させる必要がある)
    キュービックボロンナイトライド(cubic BN)
    (Kawazoe et al.,, 2011

 放射光X線透過用二段目アンビルの材質として、
  ・SiC バインダー焼結ダイアモンド(Versimax )
  ・SiC
なども試験しました。今後さらに技術開発を進めることで、実験温度圧力条件の拡大、試料体積の増加や実験の低コスト化などに取り組む必要があると考えています。

(4) 六軸型マルチアンビル装置






 六軸型マルチアンビル装置を用いることで、以下の実験が出来ます。
  ・(高温)高圧実験
  ・(高温)超高圧変形実験

 6個の油圧ラムによってプレス荷重を発生させるタイプの装置です。キュービックアンビル装置・川井型マルチアンビル装置として使用することが出来ます。

 この装置では、試料にかける圧力を逐次加圧によって発生します。
  (1) 6個の油圧ラムで6個の一段目アンビルを駆動します。
  (2) 一段目アンビルで二段目アンビルに荷重を掛けます。
  (3) 二段目アンビルでセルアセンブリーを加圧します。

 6個の油圧ラムは、ピストンストローク・油圧の値を基に独立に制御することが出来ます。それにより超高圧変形実験も行うことが出来ます。


[写真]
六軸型マルチアンビル装置(バイロイト大学バイエルン地球科学研究所設置、Manthilake et al., 2012)。

(5) 放射光X線その場測定







 放射光X線を用いることで(高温)高圧下において以下の測定が出来ます。
  ・その場X線回折
    (結晶構造の同定、格子体積測定、応力測定など)
  ・その場X線ラジオグラフィ-
    (試料の長さ・歪・歪速度の測定など)
  ・分光測定

 特に2次元X線回折により以下の測定が出来ます。
  ・応力(一軸圧縮応力、せん断応力)
    (現在のところ3 GPa 以上において最も有力な測定方法です)
    (例えば、Kawazoe et al., 2011 [12]
  ・粒径
  ・結晶選択配向パターン(CPO, LPO)

 放射光高温高圧変形実験ではこれらの情報を(変形時間)の関数として得ることで以下のことが分かります。
  ・応力-歪曲線
    (遷移クリープ・定常クリープの区別、クリープ強度測定、流動則の決定)
  ・動的再結晶の進行具合(粒成長の程度)
  ・結晶選択配向パターンの時間変化
これらの実験データは、地球惑星深部物質のレオロジーについての研究に非常に有用です。


[上の写真] 第三世代放射光施設SPring-8 のビームラインBL04B1 設置のものです。この装置にはD-DIA型ガイドブロックが取り付けてあり、高温高圧下において試料を変形させることも出来ます。
[中央の写真] 2次元X線回折用のガイドブロックシステムです。回折X線が検出器まで届くように円錐状のX線パスを下流側の一段目アンビルとスライディングブロックに配置しています。
[下の図] 18 GPa、1700 K において変形させているリングウッダイトから得られた2次元X線回折パターンです。放射光単色X線をイメージングプレートによって計測したものです。白色の輪が回折X線になります。

(6) その場光学測定用の超小型マルチアンビル装置




 超小型マルチアンビル装置を用いることで以下のことが出来ます。
  ・高圧力下での光学測定
    (Kawazoe, 2012 [14]

 以下の光学測定・放射光X線測定が可能です。
  ・光学顕微鏡による試料の形状観察
  ・ルビー蛍光法(その場圧力測定)
  ・顕微ラマン分光測定
  ・放射光X線回折

 以下の特徴が有ります。
  ・高圧下その場光学測定
    (アンビル・ガイドブロックに光学パス)
  ・世界最小・最軽量のマルチアンビル装置
  ・ボルトによるプレス荷重発生


 左の写真では、ラマン分光装置の試料室の中に入っています。

(7) 会社
住友重機械工業株式会社

マックスフォーゲンライター(ドイツ、バイエルン州)
 バイロイト大学バイエルン地球科学研究所では以下の装置が設置されています。
  ・川井型マルチアンビル装置(DIA 型、ウォーカーモジュール)
  ・六軸型マルチアンビル装置
  ・D-DIA 型変形装置(一号機)
 ESRF ID06ビームラインでは以下の装置を使用させて頂きました。
  ・D-DIA 型変形装置
 DESY (ドイツ電子シンクロトロン)PETRA IIIのビームラインでは以下の装置を導入する予定です。
  ・六軸型マルチアンビル装置
  

2.セルアセンブリー


(1) 川井型マルチアンビル装置(高温高圧合成)









 川井型マルチアンビル装置では、正八面体形状圧力媒体を用います。八面体の稜を削ったものを用いる場合も有ります。


 高温高圧実験のセルアセンブリーでは、圧力媒体に実験試料、カプセルヒーター(断熱体、加熱電極、熱電対、熱電対保護菅など)を組み込みます。


 一般的な圧力媒体の材質は、MgO 半焼結体です(Onodera et al., 1980)。高温実験では、断熱性を良くするためにCrCo を添加したものが用いられています。


 カプセルには以下のものが用いられることが多いです。
  ・グラファイト(酸素分圧は低めになります)
  ・Re (酸素分圧は高め、硬い、脆い)
  ・Ni (試料にNi が入ることがあります、柔らかい)
  ・Mo (酸素分圧は低め、硬い)
  ・Au (含水試料、融点が比較的低い、柔らかい)
  ・Pt (水素・H2O を保持する能力が高い、柔らかい)
     (Fe を試料から取り込むことがあります)
  ・Au-Pd (水素・H2O を保持する能力が高い)
     (Fe をあまり取り込みません(Kawamoto and Hirose, 1994))
  ・Ag-Pd (水素・H2O を保持する能力が高い
     (放射光実験にも使用できます(Inoue et al., 2006))
 金属箔カプセルは金属箔を治具を用いて成形します。金属チューブカプセルは、ウェルダーを用いて溶接することもあります。


 ヒーターには主に以下のものが用いられています。
  ・グラファイト(ダイアモンド化することがあります)
  ・LaCrO3
  ・金属箔(Re, Pt など)
  ・炭化物(ダイアモンドを混ぜる場合もあります)
セルアセンブリー内の温度分布有限要素法を用いて解析されています(Hernlund et al., 2006Leinenweber et al., 2012)。


 いくつかの例を次に紹介します。


【7/3 セルアセンブリー】
 ・圧力媒体一辺:7 mm、アンビル先端長:3 mm
 ・26 GPa、~2000℃まで
 ・Al を含むブリッジマナイトの合成に使用


【10/4 セルアセンブリー】
 ・圧力媒体一辺:10 mm、アンビル先端長:4 mm
 ・24 GPa、~2000℃まで
 ・リングウッダイト・メージャライトの合成に使用


【10/5 セルアセンブリー】
 ・圧力媒体一辺:10 mm、アンビル先端長:5 mm
 ・LaCrO3 ストレートヒーター、ZrO2 断熱体
 ・20 GPa まで
 ・含水リングウッダイトの合成に使用


【14/8 セルアセンブリー】
 ・圧力媒体一辺:14 mm、アンビル先端長:8 mm
 ・LaCrO3 ステップヒーター、ZrO2 断熱体
  (断面図を先に載せています)
 ・16 GPa、~1600℃まで
 ・ウォズリアイト・含水ウォズリアイトの合成に使用
 常温下での圧力較正実験用のセルアセンブリーは、圧力媒体、試料(圧力較正物質)、電極(2本もしくは4本)で構成されます。

(2) キュービックアンビル装置(D-DIA 型変形装置)






 ウォズリアイトを18 GPa、1800 Kにおいてせん断変形させたときのセルアセンブリーの断面写真です(Kawazoe et al., 2013 [17])。

(3) パーツ加工


 マルチアンビル装置を用いた高圧実験では、(残念ながら)実験ごとにセルアセンブリー部品壊れます。そのため、実験ごとに新しいものを作る必要があります。
 日本の加工技術は、外国に比べて優れています。これにより、海外では不可能な実験が国内(の一部の機関)では可能です。
 私は、井上徹教授と協力して、2017年度から広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻実験準備室を立ち上げてきました。以下の加工装置を用いることで、数十ミクロンの精度でセルアセンブリー部品を作ることができます。




【精密3次元加工機】
 この装置は、セラミクス精密加工するために使います。
 加工したものは、セルアセンブリー部品として使います。
 材料は、MgO、ZrO2、LaCrO3、パイロフィライト、グラファイトなどです。
 加工には、超硬合金・焼結ダイアモンド製のエンドミル・ドリルを用います。

[写真]
 精密3次元加工機(Roland、MDX-540S
 (広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻 A717号室 設置)



【3D CAD】
 これは、セルアセンブリー部品の3次元モデル設計するために使います。
 設計したモデルは、精密3次元加工機で作ります。
 ソフトウェアは、Rinoceros を使っています。

[図]
 川井型装置用の八面体圧力媒体の3D CAD モデル



【精密穴開け機】
 この装置は、セルアセンブリー部品精密を開けるために使います。
 開けた穴には、ヒーター加熱電極を入れたり、熱電対を通したりします。
 穴開けには、ボール盤超硬合金ドリルを用います。
 ドリル径最小は、0.2 mm です。
 スコープ移動ステージにより、位置決めができます。

[写真]
 精密穴開け機(新興工機)
 (広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻 A717号室 設置)



【レーザー加工機】
 この装置は、主に金属箔精密切るために使います。
 切った金属箔は、(加熱)電極カプセルヒーター歪マーカーとして用います。
 鉱物を切ることもできます。
 発振光波長は、1064 nm です。

[写真]
 レーザー加工機(アマダミヤチ、ML-7111A
 (広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻 D105号室 設置)



【スポット熔接機】
 この装置は、金属カプセル熔接に用います。
 カプセル用の金属は、PtAuAu-Pd などです。
 熔接したカプセルを用いることで、高温高圧下において水性流体封入できます。
 また試料の含水量低く抑えることができます。

[写真]
 スポット熔接機(LAMPERT、PUK5
 (広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻 A716号室 設置)



【精密切断機】
 この装置は、試料セルアセンブリー部品精密切るために使います。
 セラミクス金属を切ることができます。
 最も薄い刃の厚さは、100ミクロンです。

[写真]
 精密切断機(ビューラー、アイソメットLS
 (広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻 A717号室 設置)



【小型電気炉】
 この装置は、セラミクス製セルアセンブリー部品乾燥に用います。
 1000℃まで昇温できます。
 約30分で1000℃に達します。
 小型です。

[写真]
 小型電気炉(城田電気炉材、SUPER 100T
 (広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻 A716号室 設置)
        


【実体顕微鏡】
 この装置は、主に以下の用途に用います。
  ・セルアセンブリー部品工作組み立て
  ・実験回収試料観察撮影

[写真]
 実体顕微鏡(ニコン、SMZ745T
 実体顕微鏡用LED リング照明(マイクロネット、ダブルE
 USB CMOS カメラ(アートレイ、ARTCAM-130SN4
 (広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻 A716号室 設置)



【実体顕微鏡用USBカメラ】
 この装置は、実験回収試料・セルアセンブリー部品の撮影に用います。

[写真]
 USB CMOS カメラ(アートレイ、ARTCAM-130SN4
 (広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻 A716号室 設置)

(4) 金属ダミーブロック



 金属ダミーブロックは、キュービックアンビル装置や川井型装置の一段目アンビル先端で形作られる中心立方体空間の評価(調整)のために用います。

 中心立方体空間を真の立方体に近づけることは、キュービックアンビル装置や川井型装置において最高発生圧力を更新するためにとても重要です。

3.回転ドリッカマー装置



 回転ドリッカマー装置Yamazaki and Karato, 2001)を用いることで高温高圧下において試料をせん断変形させることができます。放射光X線を併用することにより、試料の応力・歪測定なども出来ます。

 この装置は比較的小型・軽量のため移動が可能で、実際にエール大学と放射光施設を移動させて実験を行っています。これまでにカンラン石やウォズリアイトなどのクリープ強度(粘性率)が測られています。
 2001年に最初の装置開発についての論文が発表された新しい実験装置です。

 ドリッカマー装置は対向アンビル装置に分類されます。マルチアンビル装置ではありません。

4.分析機器


           
【偏光顕微鏡】

 実験試料の光学的観察に使用します。

 単結晶合成試料では、粒界・包有物・クラックの有無を観察しています。
 光学的異方体(例えば斜方晶系のウォズリアイトやブリッジマナイト)の場合は、消光を利用して単結晶かどうかを判別できます。光学的異方体単結晶の薄片が結晶軸に垂直である場合には、消光を利用して他の結晶軸の方位を決めることも出来ます。

 ドイツ鉱物学会(Deutsche Mineralogische Gesellschaft)は、偏光顕微鏡観察に有用な「Guide to Thin Section Microscopy (Raith, Raase & Reinhardt)」を公開しています。
  【透過型電子顕微鏡】:JEOL JEM-2010
 実験試料の微細組織観察・化学組成分析に使用します。特に超高圧高温下で変形させた試料の転位組織観察を行っています。私の研究対象としているウォズリアイト・リングウッダイトでは転位の酸化修飾法が適用できません。そのため透過型電子顕微鏡観察が転位組織を直接的に観察するための唯一の方法です。化学分析は試料中のウォズリアイト・輝石の分布を決めるために定性的に使用しています。
  【透過型電子顕微鏡用CCDカメラ】:Orius SC200D
 左の写真は超高圧高温下で変形させたウォズリアイトの透過型電子顕微鏡写真(明視野像)です。TEM観察用のCCD カメラを使用して撮影しています。
 線状に見えているものが転位です。左下のスケールが200 nm になります。
  【イオンスライサ】:JEOL EM-09100IS
 透過型電子顕微鏡で観察するための薄膜試料を作製するための装置です。作製した薄膜試料は数十 nm 程度の厚さ(薄さ)になります。
 観察することができる領域は、精密イオンポリッシング装置(PIPS)と比べると広くなります。変形ジオメトリとの方位関係も考慮に入れた試料が作製できます。Ar イオンで研磨するため収束イオンビーム研磨装置(FIB)で見られるGa イオンの混染がありません。
   左の写真は超高圧下でせん断変形させたウォズリアイト試料をイオンスライサを用いて研磨し、透過型電子顕微鏡用薄膜試料を作製しているときの写真です。
  【電界放出型走査型電子顕微鏡】
 二次電子像を用いて、試料の粒径・結晶粒の形状・粒界形状の観察に使用します。
 カンラン石を実験試料とした場合には、転位の酸化修飾法と反射電子像を組み合わせることにより結晶中の転位の構造や密度を測定することが出来ます。
 さらに電子線の後方散乱回折現象を利用した結晶方位解析が出来ます。変形実験試料の結晶方位解析を行うことにより、結晶選択配向の情報(パターンとその変形ジオメトリーの関係)を得ることが出来ます。
  【ラマン分光装置】
 ラマン散乱光のラマンシフト量から実験回収試料の鉱物同定をしています。
 また高圧下においてその場で圧力を測定することができるルビー蛍光法の分光装置としても使用しています。


マルチアンビル超高圧実験メモ [Link]