1−2.改善すべき研究能力の説明

(1) 背景


 1) 背景
  @問題点 修士号・博士号は自分の現状のレベルで取れると思っている学生さんがいる。
  A思考プロセス 楽をしようとする。
研究能力の低い学生さんを見つけ出す。
→研究能力の低い学生さんと自分を相対評価する。
→研究者としての自分の研究能力を絶対評価しない
→自分の研究能力を過大評価する。
→現状のレベルでよいと満足する。
→研究能力の向上に努力しない
  Bややこしい点 プライドが高く自分の研究能力が低いことを認めない人が多い。
 2) ダメな例
  @いい加減 いい加減なデータを出してくる。
 →研究指導しても改善に取り組まない
  Aやらない→ごまかす 研究を進める上で必要な解析をやらない
 →ごまかす
 3) 結果 本来自分の(研究)能力を改善しているべき期間を無駄に過ごす。
 4) 考察 能力を改善する必要があると思えるかどうかが、出来る人と出来ない人の境界線だと思われる。

(2) 必要な達成度の説明


 1) 目的 研究活動を通した研究能力の改善(Skill Improvement)。
研究能力を伸ばさないといけないという意識づけ。(研究者になりたい場合)
 2) 目標
  @修士課程(BGI) ちゃんとした研究。
セメスターレポート・発表の形になる。
学術論文になるデータを出すことが出来る。
  A博士課程 学術論文になるデータを出した上で学術論文が書けるようになる
(博士課程の修了要件であるところが多い)。
 3) 方針
  @基本方針 学生さんの研究能力を把握する。
→学生さんの研究能力を評価する。
→課程修了に必要な達成度(Degree of completion, perfection)を伝える
→改善しようとしない場合は、どうしたものか?
  A将来の希望
   基本 科学者(Scientist)になりたいか聞いてみる。
   修士課程大学院生 科学者になりたいと言う場合は以下の能力を説明する。
   博士課程大学院生 「博士号は研究者の免許みたいなものだから以下の研究能力が低い人には授与できない」と言う。
  B能力改善リスト 以下の項目(まだまだ改善の余地あり)。
・状況判断能力
・計画立案・準備能力
・インプット能力
・論理的思考能力
・アウトプット能力
・基礎学力

(3) 状況判断能力


 1) ゴール 自分の置かれている状況を適切に判断することができる。
→最適な手を打つことができる。
 【参考図書】
  ・科学者として生き残る方法(序論、13-23ページ、F. ロージ・T. ジョンストン)
 2) 他者との関係
  @競争 他者との比較。
淘汰される可能性(You cannot survive in academia)。
 【参考図書】
  ・やるべきことが見えてくる研究者の仕事術(島岡要)
   (はじめに”不透明な時代にやるべきことが見えてくる仕事術”、3-5ページ)
  ・大学教員 採用・人事のカラクリ(櫻田大造)
  A評価する人 自分を評価するのは他人であるという認識。
   優 評価基準を理解し、それに沿って研究成果を出している(学術論文を出版している)。
   良 評価基準を理解し、それに沿って努力する(学術論文を書く)。
   可 評価基準を知ろうとする。
   不可 指導者(先生)の言うことだけやれば評価されると思っている。
長時間働くと評価されると思っている。
評価基準を理解していない。
無駄な仕事をする。
  B自己評価 研究能力の自己評価。
 3) ビジネス思考 高効率に研究する能力
   時間 時間は限られていることを自覚する。
 【不可】 無駄に時間をかける。
   研究費 研究費を稼がないと研究が成り立たないという認識。
研究費は限られていることを自覚する。
研究には研究費が必要であるという認識。
 【不可】 無駄に使う。
 4) 信頼
 【不可】 信頼できない行動をする。
   約束 時間を守る。
 (時間を守らない人を教える必要がある?)
習ったことを身につける。
 (教えたことを身につけない人に教える必要がある?)
誤字脱字を失くす(信頼されなくなる)。
 5) 視野  【優】 状況判断の重要性を認識している。
 【可】 視野を広げようと努力する。
     過去の失敗の原因を分析し改善する意欲がある。
     自分で判断しようとする。
 【不可】視野が狭い。思いつく選択肢が少ない。
     過去の失敗に捉われる。
     他人の意見に流される。

(4) 計画立案・準備能力


 1) ゴール
備えあれば憂いなし。
→研究は複雑難しく想定外のことが多発するので自分のできる最善準備をする。
 2) 準備
  @基本方針 準備する。Prepare for your near future.
  A格言 備えあれば憂いなし(居安思危、思則有備、有備無憂)
If you are prepared, you don’t have to worry.
  B想定外 想定外」の事態を想定する。
「想定外」の事態への対応を練習する。
 3) 計画プロセス
予想する。Expect your near future.
  @人に聞く Ask experienced people. (Experiences and opinions)
  A当たり 一番重要そうなことに当たりを付ける。Find the most important things. (Our time are limited.)
 4) 未来への投資
   (Perspective)
   優 緊急ではなく重要なことに努力できる。
   良
   可 緊急かつ重要なことだけをしている(目先のことに捉われている)。
   不可 重要ではないことをしている。


(5) インプット能力(Input Ability)


 1) ゴール
  @ゴール 重要かつ必要な情報・知識を効率良く迅速に吸収し体系化して記憶・記録することができる。
  A想定される対象 情報、知識、学術論文
 2) 重要性の判断
 (Judgment of Importance)
現在重要だと考えられているものを理解している。
自分が重要だと考えていることを説明できる。
重要なことを探し出すことが出来る。
 【不可】何も考えずに指導教員の言うことに従う。
正しさの判断(Judgment of Correctness)
 3) 効率的な学習
  @プロセス 自学・自習
→上手な人に習う(上手な人を見つける、注意深く真似る)。
テキストに載っているキーワードから予習をする。
習ったことを忘れない。
Please don't forget what you learn.
 実験ノート等にメモを取る。写真を撮る。マニュアルを作る。
  A技術 効率的・効果的に読む技術(Efficient and Effective Reading)
効率的・効果的に習う技術(Efficient and Effective Learning)
  B格言 一を聞きて以つて十を知る。
故きを温めて新しきを知る。
 4) 知識の体系化 Systematization of knowledge
 【可】 最先端・現時点における限界の認知。
 5) 実験・分析・議論 ・ できる。
・ 原理を理解している。
・ 実験・分析結果を評価できるようになる。
・ 理解した原理に基づいて実験・分析条件を最適化できるようになる。
・ 実験・分析結果を検証できるようになる。

・誤差(標準偏差、有効数字)の理解。
・データのまとめ(分かりやすい図表)

(6) 論理的思考能力(Logical Thinking Ability)


 1) ゴール 重要な課題を次々と解決できる。
 2) GPDCA ・優先順位付け
 もれ
企画・計画・実行・改善(Improvement)
 進捗管理(Management)
 Break-down
 3) 課題発見能力 論文や発表の内容の妥当性を批判的に捉えること。
 研究手法が十分に記述されているか
 結果の解釈は妥当であるか(妥当であるとは限りません)
 議論の論理展開に無理はないか
 4) 問題解決 問題解決(Trouble shooting)
現時点における限界を超えるための方法論
問題解決の手掛かり。
アナロジー、類似性(Similarity)の活用。
代理経験
 失敗実験
 5) 実験ノート・まとめシート

(7) アウトプット能力(Output Ability)


 1) ゴール
  @ゴール 理路整然と相手を説得できる(persuade)。
  A想定される相手 学術雑誌の編集者、投稿論文の査読者(将来の読者)、助成金の審査員、指導教員の方々
 2) 学術論文化 学術論文化(Writing)
 【参考図書】
  ・科学者として生き残る方法(科学とライティング:総論、246-253ページ、F. ロージ・T. ジョンストン)
 3) 見える化 ・視覚化(Visualization)
  箇条書き(Itemization)
 4) メール 分かりやすいメールの書き方。
 【不可】 分かりやすさを心掛けない。内容の分からないメールを送る。
 5) プレゼン能力
   (Presentation Skills)
重要なものを重要なものとして伝える能力。
重要でないものは伝えない。
まとめシート(Summary sheet、概要書)の作り方。
 【参考図書】
  ・42歳からのルール(企画書は1枚の紙にまとめる、100-101ページ、田中和彦)
 ・レポート

(8) 全般(General)


 1) ポジティブ思考
   (Positive Thinking)
   (Affirmations)
 成長=自分の限界を上げる作業。
ポジティブ思考の行動パターン
 ストレッチ目標をやってみようと思う。
 ストレッチ目標への挑戦が成長の機会だと捉える。
 どうすれば目標を達成できるか真剣に考える。
 ことの本質に気づく。
 伸びる。
ネガティブ思考の行動パターン
 ストレッチ目標を難しいと思う。
 ストレッチ目標の達成からどうやってうまく逃げるかを考える。
 どうすれば目標を達成できるか真剣に考えない。
 ことの本質に気づかない。
 伸びない。
 2) ストレス ストレスとの付き合い方(Stress Management)
 3) マルチタスク 将来的に様々な仕事を同時進行しないといけないので。
学生さんの研究指導。
ポスドク・教員の方との共同研究。
 4) 研究倫理
協調

(9) 基礎学力


 1) 数学 足し算、引き算、掛け算、割り算
 2) 物理
 3) 化学

(10) 心構え


 自ら考える (そもそも)考えようとする
Think first. Say your opinion. Then ask me questions. You will repeat failure forever.
【理由】
失敗をずっと繰り返すから。
学びて思わざれば則ち罔し、思いて学ばざれば則ち殆し。
(学而不思則罔、思而不学則殆)
 自ら行動する 進取の姿勢。特に博士課程学生。
 注意深く行動する 注意深く行動する。
Be carefull with mistakes. Be cautious with handling.
妥当性の判断根拠(とその妥当性)を知ろうとする。尋ねる。
Reason to judge. Think seriously. Be attentive to details.
定量的に考える。
謙虚に協力を仰ぐ。
 自信を持つ(適度に) 自分の成長の余地を信じて努力をする。
Believe your potential! Be confident.

(11) 研究指導の確認事項


 1) Ph.D Ph.D. は、Doctor of Philosophyの略語。
ギリシャ語で知恵(ソフィアsophia)を愛する(フィレインphilein)
 2) 学習の場であること
 ステップ 研究の仕方を習う・トレーニングすることが優先。
You learn something.
研究成果を出すのはその次のステップ。
 時間効率 研究の仕方を習って結果を出すには早くレベルアップする必要がある。
習ったことを忘れるのは時間のムダ。
Please don't forget what you learn.
 達成度 修士の宿題は50 %の達成度で見て、アドバイスする。
期待し過ぎないこと。
ステップバイステップで出来るところまで引き上げる。
 方針 ステップバイステップで効率的に出来るところまで引き上げる。
 3) ウィン−ウィンの関係
 目的 成果が出ればお互いに利益があることを共有する。
→相手が頑張ろうと思う。
(こちらの時間を使わせて申し訳ないと思っている人もいる。)
 学生 レベルアップが出来る(研究の仕方を習う)。
国際誌に学術論文を書ける。
 教員 教育実績になる。
自分のしたい研究が出来る。
研究実績になる。
 4) High Risk 虎穴に入らずんば虎子を得ず(不入虎穴、不得虎子)