3−1.研究のレベル上げ1:基本とその必要性(ちゃんとした研究へ)

(1) 目的・目標・方針


 1) 目的 学生さんが伸びるように仕向ける。
自ら伸びるサイクル自己成長サイクル)に入れるようにする。
研究が上手く行く(facilitate)コツが分かるようにする。
 2) 目標
  @目標 学生さんが研究者として”自立”すること。
 【参考図書】
  ・これだけ!OJT(中尾ゆうすけ、53-56ページ)
  A基本能力 自ら伸びるサイクル
証拠に対する思慮
時間に対する思慮
情報交換に対する思慮
・環境整備
 3) 方針
  @基本・必要性から 基本とその必要性から段階的に指導する。
ゴールと道筋も言っておく。自らすることを願って。
 【参考図書】
  ・これだけ!OJT(中尾ゆうすけ、38-43, 98-105ページ)
  A言うべきことは言う
   基本の重要性 基本が出来ていない学生さんには、(勇気を出して)その旨を伝える
納得してくれる学生には才能があり、納得してくれない学生には才能がない。
日々真剣に科学にどう取り組んでいくかを考えている人は(最後には)理解してくれる。
(伸びる必要性、必要なレベルと自分のレベルの差を認知している学生)
 ×デタラメな研究
   いい加減な手法・議論
   あなたのやっていることはちゃんとしていますか?(Is your way proper?)
   Don't hesitate to use your brain.
   やったことがない
   (言い訳)
伸びるということは、出来なかったことが出来るようになること。
周りの学生が伸びていて自分があまり伸びてなかったら、相対的には実力(評価)が下がっている
 (競馬では、「馬群に沈む」って言うんだよ)
 (みんなゴールに向かって走ってても、相対的には追い越されてる)
それで良いの?
 4) 相手の心構え
  @自分で考える 真剣に考える。Consider by yourself. You should think seriously!
Do you want to become a good researcher?
Do your best.
天将降大任於斯人也(孟子)。
Be independent.
きちんとやる。
ちゃんとやる。You should do it properly!
What are you waiting for?
  Aとりあえず基本から たまに何でそんな(難しい)ことが出来るの?と聞かれることがある。
取りあえず基本のレベル上げから始めたらいかがでしょうか?
  B例え レベル上げしないのは、ドラゴンクエストIIIで檜の棒でアリアハンを出るようなものだ。
街人に話を聞いたら次何をしたら良いかのヒントをくれるなんて夢のようだ。
リセットは効かない。

(2) 証拠に対する思慮


 1) 証拠の必要性
  @そもそも 研究は新しい発見を既存の知見に加える作業である。
新しい発見は間違いの可能性がある。Mistake, Misleading, Misunderstanding
新しい発見が間違いでないと言える根拠が必要である。
根拠が根拠たる根拠が重要。
  A実際問題
   (Real Problem)
学生さんは研究をしている(研究の仕方を学んでいる)。
研究成果は学術論文として発表するべきものである。
学術論文は査読者により査読を受けなくてはいけない。
投稿論文の査読には査読基準があり、査読者に提示される。
査読基準を満たさない投稿論文は査読者が掲載拒否Reject)する。
証拠不確定性誤差が適切に見積もられているかは査読基準に入っている。
一般的な指導教員は査読基準に準じて学位論文・レポートを評価する。
不確定性・誤差を見積もっていない学位論文・レポートは論外である。
不確定性・誤差を見積もらない学生に学位単位与えられない
 2) 証拠収集 裏付け証拠(Corroborative Evidence)・事実(Fact)を集めることに集中する。
強力な証拠(Strong evidence)とは何かを考えながら研究を進める。
説得力のある証拠は、論文投稿の目安。
Evidence, evidence, evidence.
I said evidence three times because evidence is important in science.
This sounds like a joke. But I think this is really important.
Other researchers know peope make mistakes. Or people can tell lies.
Do you think other researchers believe you?
Other researchers may think this is due to your mistake.
Can you let other researchers agree with you?
Don't you think you need more detailed evidence?
   @再現性 再現性(Reproducibility、Repeatability)を確認する。
論より証拠(Seeing is believing.)。
 3) 信頼を失わない 信頼を失わない方が良い。
Basic information (the run number in this case) is wrong. Please check it.
Is this due to your careless mistake?
簡単な間違いが多いと信用・信頼を失う。
You lose my trust (credit) a little bit due to this careless mistake.
You will lose my trust if you will repeat careless mistakes.
指導教員・共同研究者・学術論文の読者は何を信じればいいの?と思ってしまう。
I think our trust is extremely important in science.
This is because we cannot discuss anything with no trust.
What can I trust in your summary sheet (or semester report)?
I recommend you to think about your crerit seriously.
自分を信頼してくれない人との共同作業(研究)は上手くいかない。
 4) 証拠の質 質の高い証拠を目指す
  @データを取るとき 考えながら取る(With thinking、Thoughtful?)
まともなデータが取れているか。
間違いをしていないか
まともなデータが取れていない場合は、すぐに相談が出来る。
すぐに相談をするとすぐにチェックしてもらえる。
新しい発見の徴候はないか
セレンディピティ。
例えば、ラマン散乱の発見。
 【参考図書】
  ラマン分光法(濱口宏夫・平川暁子編)
参照文献(Reference Paper)を見ながらデータを取る
  AS/N 比 S/N 比(Signal to noise ratio)の改善
空間分解能との兼ね合い。
空間分解能を上げれば、S/N 比はわるくなる。
空間分解能は測定量の分布を知るために必要。
  B異常値の扱い 包有物(析出物、含水鉱物など)、クラック
アモルファス化(レーザーの出力を下げる)

(3) 時間に対する思慮:効率化


 1) 必要性
  @そもそも 何かを成し遂げようとするには人生短い
良い研究をしようとするには研究人生短い。学生から考えて約40年。
学生の期間・博士研究員の任期はもっと短い
Time is limitted. Time flies.
  A実際問題
   (Real Problem)
ちゃんとした研究ってどんなの?
 学術論文の査読基準について話す。
 ちゃんとした研究はやることが多い。手間がかかる。
 (やるべきことを省いたものがいい加減な研究である)
 時間は限られている。Time is limited.
 短い時間で手間のかかることをこなさないといけない。
 今のスキルでは時間がかかって仕方がない。
 自分のスキルを改善する必要がある。
 スキルの改善の仕方を知らないから今がある。
 (スキルの改善の仕方を知っている人は既に改善している) 
 スキルの改善能力改善する必要がある。
 取り敢えず考えてもらう。
 ヒントを示す。
 2) パターンと原因
  @パターン 時間が足りないと言い出す(仕事が多すぎると言い出す)。
  A原因 【一般的には】
時間が足りないのは、能力が低いからである。This is because your skills are not enough.
能力を改善する必要がある。You should improve your skills.
そのためには能力を改善する能力を改善する必要がある。
You should improve your skills for improving your skills.
今改善する能力を改善しなかったら一生「時間が足りない」って言って過ごすんだよと言う。
【授業、宿題、試験】
授業、宿題、試験を効率的・効果的に乗り切るには情報を体系化して知識に変える必要がある。
時間が足りないのは情報を体系化(Organize)する能力が低いから。
情報を体系化する能力を改善する必要がある。
情報を体系化する能力を改善する能力を改善する必要がある。
 3) 予期される結果
  @仕事に追われる日々 仕事の効率化に取り組まないと仕事に追われる日々が待っている。
  A研究の質の低下 研究の質が下がると査読のとき困る。
投稿論文が掲載拒否(リジェクト)される。
高度なことが出来ない。
基本が出来てない人に応用のことは(教えたくても)教えられない。
教えようとしても伝わらない・理解できない。
 4) 方針
  @効率化に取り組む 効率を上げるように言う。
自分の能力を改善する能力を改善する。
 【参考図書】
  ・理系のための研究生活ガイド第2版(研究のための知的時間管理法、192-203ページ、坪田一男)
   ショートカットキー PowerPoint での下付き文字
コントロール+セミコロン
  A重要なことから 重要なことから取り組む。
重要なことから教える。
   Important? 今取り組んでいることは重要かな?と自問してみる。
Is this important?
「そりゃ重要さ」と思えないことはしない方が良い。
   Why? なぜ?と聞いてみる。
掘り下げて考える。分からなくなったら、一緒に考える。
  B忘れる対策 自分は物事を忘れることを自覚するように言う。
ノートに書くように言う。
ノートに書いただけで行動に移さなければ意味がないことを言う。
書いた内容をまとめるべきである。
付箋紙に書くように言う。
  Cデータ紛失対策 PC に保存したデータは消えることがある。
外付けハードディスク・USB メモリーは壊れることや失くすことがある。
データの復帰には時間が掛かる。
 【参考図書】
  ・ダンドリ仕事術(吉山勇樹)

(4) 情報交換に対する思慮


 1) 質問の質
   @必要性 なるべく高度な助言をもらう。
質の低い質問をしたら助言の質も低くなる。
助言をしてもらう人の時間には限りがあるので。
   A利点 より高度な助言を得ることが出来る。
より速くより深く研究を進めることが出来る。
   Bダメな例 よく調べないで質問する。
自分で調べればすぐ分かることしか助言してもらえない。
 (助言のレベルを下げている)
 →結果として自分の研究レベルはあまり上がらない。
   C相手の方針 よく調べてから質問をする。
効率的に調べる能力を磨く。
何を調べるべきかを考え、認知する。
   D自分の方針 What do you think?
Quality of your question is low. と言ってみる。
 2) 分かりやすい議論
   @必要性 論点が分かりやすい議論だと
議論の相手が納得してくれる。
助言(指導・議論)の質が上がる
実りの多い議論(Fruitful discussion)になる。
研究がうまく進む。
    ダメな例 論点の分かりにくい議論では
議論の相手が納得してくれない。
助言の質が落ちる。
   A方針 議論の相手に重要性が伝わるようにする。
5W を考える。
相手の立場に立って「なぜ重要なのか?」(Why important?)を考える。
 (無意味なことを研究するのは良くない)
 自問自答する練習になる。
 深く考えるようになる。
 よく考えた研究(Thoughtful Research)が出来るようになる。
   B議論の可視化
    まとめシート まとめシート(Summary sheet)を作って議論の際に持ってくる。
Please make a summary sheet including:
 ・Key observations
   (e.g. photomicrographs, crystallographic axes, scale, thickness)
 ・Schedule of the next steps
   (e.g. hardness measurement, IR measurement, composition analysis)
    話の流れ(Coherent) フローチャートにする。
    簡潔(Concise)にする 箇条書きにする。
    明瞭(Clear)にする を使う。普通紙に印刷するので背景は白。この場合、重要語句をで強調する。
書体を変える。
研究プロセスの可視化
 【参考図書】
  ・任せる技術全自動厳しい装置、202-207ページ、小倉広)
 3) 姿勢 口癖が、I know. That's what I thought.
教える気がなくなる。じゃあ、全部自分でやってよ!とほほ…。
 4) 本を読む 【参考図書】
 ・理系のための研究生活ガイド第2版(研究者のための「超」読書術、113-124ページ、坪田一男)

(5) 当事者意識・責任感


研究は既存の知識に新しい知見を加える作業である。
新しい知見は、考えずに答えを聞いてくる人には見つけられない。

(6) 環境整備


 1) 重要性 失敗したときに失敗の原因を探ることになる。
そのときに失敗の原因から消すことで役に立つ。
初めてする実験・試験的実験のときには特に注意を払う。
 2) 例
   掃除・片付け Clean! Organize. Visualization is important!
どこかに行ってしまった試料・パーツを見つけやすくなる。
机の上を整理する。作業で出たゴミを片付ける。床を掃く。
使いっぱなしは他の人が迷惑する。全体の作業効率を下げる。
 乳鉢
   照明 明るくする。
パーツ加工の精度が上がる。
   測定の前 関連論文を読む。
気をつけるべきところは何かを考える。