近況

2022年ノーベル生理・医学賞の解説を行いました。

2022年のノーベル生理・医学賞は、ネアンデルタール、デニソバ人のゲノム解読を主導し、人類進化の新たな概念を打ち立てたマックス・プランク進化人類学研究所、沖縄大学院大学(OIST)のスバンテ・ペーボ博士が受賞しました。進化学においては初めてのノーベル賞受賞であり、進化学を専門とする研究者にとっても大変嬉しいニュースでした。今回、広島大学理学部附属未来創生科学人材育成センターが主催する、2022年ノーベル賞解説講演会(2022年12月11日(日)広島大学東千田キャンパス)においてペーボ博士の受賞についての解説を仰せつかり、受賞の経緯とその意義について解説を行いました。(広島大学ホームページ

現代人の由来については、多地域進化説とアフリカ起源説の間で古くから議論があり、様々な説が唱えられてきましたが、ペーボ博士は化石人類の骨からDNAを抽出しゲノムを解読する非常に困難な仕事に取り組んで最終的に2010年にネアンデルタール人とデニソバ人のゲノムを解読するという快挙を成し遂げました。驚くべきことに現代人(非アフリカ人)のゲノムにはネアンデルタール人との混血の痕跡があるという内容でした。我々現代人を形作る要素(ゲノム)の中に絶滅した化石人類の痕跡が寄与しているというのは非常にロマンがある話ですし、それらいったいどのような形で、どのような遺伝子(あるいは遺伝子多型)が我々を我々たらしめているのかということについては興味は尽きません。また、複数の種、集団が混血を繰り返しながら現生種が生き残っていく様は、最近注目を集める交雑による複雑な生物進化の一つであり、現代人を含むヒト属もそうした生物の一つであると言えると思います。そのような意味では、今回の受賞は人類進化だけではなく、進化学全般にも大きなインパクトを残しています。
この仕事の背景には、PCR、次世代シークエンサーといった新しい解析技術のブレイクスルーがありますが、何よりも博士の進化学に対する情熱と化石のDNAを抽出する技術を確立するまでの地道な努力がこの受賞に繋がったと思います。今年の授賞式はそのような博士の足跡についてのスライドを準備しながら授賞式の様子を見ることできて、自分のことのように感動を覚えました。

この講演会は下記のメディアにも掲載されました。
朝日新聞社「今年のノーベル賞、くわしく解説します 広島大で教授らが講演会」(2022年12月5日)(同内容のYahoo!掲載記事
中国新聞社「ノーベル賞の受賞テーマ、広島大の研究者が解説 広島市中区で11日」(2022年12月6日)(同内容のよんななニュース掲載記事

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