プロトコル

[atbench]ミドルスループット・サンガーシークエンシング

次世代シークエンスが普通に使える今ではサンガーシークエンスを大量にすることは減ってくるのかもしれませんが、おそらく正確なDNA配列を1 readで手軽に知りたいというシーンはまだまだあると思います。私の以前の仕事では大量にサンガーシークエンスをやっていて、サンプルを裁くためにミドルスループットといえる程度には、安価に効率の良い方法を使っていたのでここに公開しておきます。
あらかじめ申し上げておくと、プロトコルのほとんどの部分は私がオリジナルではなく、普通にABIの配布するプロトコルに書いてある方法です(プレート遠心機を使っていない方は見過ごしていると思いますが)。ただ、画期的なのは低速度で安価なプレート遠心機(KUBOTA  プレート専用遠心機 PlateSpin®Ⅱ 定価: 220,000円)でも行えるということです。ここにも書いてありますが、私は普通の遠心機でチマチマやって学位を取った後、ポスドク先(総研大・颯田研)でプレート遠心機の便利さを実感しました。一度体験すると、もうプレート遠心機無しの研究生活には戻れません。プレート遠心のない元ラボに戻った時になんとかプレート遠心機を導入したいと思い、当該の遠心機で試してみたところ、すんなりうまくいったという次第です。
この機種は本格的なプレート遠心機に比べると少し速度が足りないように思えますが、問題なくエタ沈ができます。最大GがABIのシークエンスサンプル精製の標準プロトコル(エタノール沈殿)の下限値(1.4k×G)なのがミソです。私はKUBOTA社がABIのプロトコルを見て製品の仕様を決めたのかと思っていましたが、実際には偶然らしいです(久保田さんが取材に来られて知りました。)。私にとっては自分の研究費で買えるこの製品の価格と仕様が絶妙だったので、その後の実験がかなり捗りました。私の話を聞いていただいた後に、製品のスペックは現在は強化されてMAX 1.53K×Gとなり、今はプロトコルの下限値からもう少し余裕があります。

以下はほとんど、ABIのプロトコルと同じですが、一応、細かい部分を含めて記述しておきます。

  1. シークエンス反応(他サイトにもある節約法)は、96wellプレートで行う。伸長反応の時間は4分もいらない。2分でOK。
  2. 反応済みサンプル10μLに、125mM EDTA 2.5μL、100%エタノール30μLを添加する。
    丁寧に行う必要はなく、wellの壁に付けるか、上から滴下するだけでOK。分注ピペットマン、電動ピペットマンを駆使すると便利。
  3. サンプルの入ったwellの部分にアルミシールを張りつけ、4回転倒混和。このとき、液が動かない場合があるので、逆さにしたときに少しタッピングしてやると良い。
  4. 15分間、室温放置
  5. プレート専用遠心機 PlateSpin®Ⅱにセットし、最大速度で45分間遠心する。
  6. プレートを裏返して、少しだけ遠心する(100×G程度)。当然ながら液が出てくるので、受け皿的なもの(チップケースなど)を用意するか、キムタオルなどをあてがっておく。
  7. 70%エタノール60μLを添加する(このときも分注ピペットマンあると便利)。
  8. 再びプレート専用遠心機 PlateSpin®Ⅱにセットし、最大速度で15分間遠心する。
  9. 再び裏返して、少しだけ遠心する(100×G程度)。このときも廃液受けをセットしておく(そうしないと遠心機の中に70%エタノールが飛散し、放置すると最終的に錆びる)。
  10. そのまま室温で放置し、乾燥させる。ゴミなどが入るのを防ぐためキムワイプなどを載せておく。
  11. Hidiホルムアルデヒド12μLを添加し、アルミシールを張りつけてボルテックス。一度スピンダウンし、セプタを付けてシークエンサーにセット(ヒートショックは必要なし)。

 この方法、いえ、この遠心機のすごいところは、20万円出せば、シークエンス反応後の精製が極端に楽になるということです。サンガーシークエンスでも最大192サンプルなら半日ぐらいで調整できます(ただし、192サンプルにもなると分注ピペットマン必須)。そして、そうなってくると数個の遺伝子座を読むぐらいの系統解析やら種内分化の仕事はあっという間に終わります。まさに私の学位に掛かる仕事などがそうで、学生時代に知りたかったなぁと思います。そうすれば、もっとたくさん仕事が出来たかもしれません。

なお、この方法は2010年ごろに、同僚や、指導した学生に教えていて、KUBOTAの遠心機と一緒に徐々に広まっているようです。以前、一緒に仕事をした他大学の学生さんに教えようと思ったらすでに知っていて驚きました。

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