パナイ島北部・ギマラス島におけるツーリズム開発と漁村社会
鹿児島大学水産学部 准教授 鳥居享司
torii@fish.kagoshima-u.ac.jp
1.エスタンシャ    2.ギガンテス島    3.ギマラス島    4.コンセプシオン    5.アホイ


4.コンセプシオン
1)コンセプシオンの概要(Mario A.Lazarito)
 コンセプシオンはパナイ島の東北部に位置する地区であり,16の島を抱えている。人口は約3.4万人であり,その約半数が島に住んでいる。
 主力産業は農業と漁業であり,米やココナッツ,バナナなどの農作物,漁船漁業,海面養殖業などが行われている。また,近年は地域経済の発展などを目的に観光産業へ力を入れている。

2)観光開発プロジェクト
 (1)概要
 コンセプシオンでは,「環境に配慮した活動」,「農作物や漁獲物により高い価値をつける活動」による経済発展を目指しており,その手段としてエコツーリズムを位置づけている。エコツーリズムの実施によって,環境の保全,農漁業者の収入増加,新たな雇用機会の創出が図られることが期待されている。マニシパルのTourism Officeでは観光開発プロジェクト"The Canada-Philippines Local Government Support Tourism Development and Promotion Project"(LGSP)を立ち上げてエコツーリズムの整備を進めている。
 なお,こうしたエコツーリズムの取り組みはパラワン,ボラカイで見られる程度であった。パナイ島ではコンセプシオンにおける取り組みが先駆けである。

 (2)実施・受入体制の整備
 コンセプシオンは観光産業とはほとんど無縁の地域であった。マニシパルのTourism Officeが中心になってエコツーリズムの実施に向けた取り組みが開始された。
 まず,コンセプシオンのどのような資源がエコツーリズムへ利用可能かという点について議論を繰り返した。温泉や洞窟,ブガン川,マングローブなどの自然的資源,19世紀に建てられた灯台や伝統的な漁法や漁具などの社会・文化的資源などがエコツーリズムに利用可能な資源として「発掘」された。
 次いで,エコツーリズムの実施体制について検討が加えられた。地元住民にとってツーリズムへの関与は初めての経験であるため,マニシパルでは住民に対する教育を重視した。マニシパルはオリエンテーションを繰り返し実施し,ツーリズムの実施体制と観光客の受入体制の整備を進めた。
 プログラムの内容や実施・受入体制が一応整うと,カナダ人の協力の下にエコツーリズムのテストランが実施された。エコツーリズムの内容や実施体制,運営のあり方などに問題点がないか確認された。その後,幾度か改善を加え,11のバランガイの参加のもと,2005年より観光客の受け入れを開始した。エコツーリズムの実施以降,活動や食事などに伴う事故はない。

 (3)実施内容
 @ 日帰りツアー
 日帰りツアーはBulubandiangan島と Azucar島でのボート,日光浴,トレッキングなどが中心となっている。パナイ島の中心都市であるIloilo CityからConcepcionまでは片道約2時間を要することから,観光活動の時間は実質9時間程度である。
 料金は1名あたり1,000ペソから6,850ペソである。3名以下の場合は1名あたり約1万6000円であり,フィリピンの物価水準を考慮すると非常に高価である。

日帰りツアーの内容

日帰りツアーの料金体系(1名あたり)


 A 1泊2日ツアー
 1泊2日ツアーでは日帰りツアーの内容に比べるとバラエティに富んだプログラムとなっている。Bulubandiangan島とAzucar島に加えてRancho Gloria Environment ResortやLakeなどを訪れ,魚釣り,Karo Rideなども楽しむことができる。夕食には漁師スタイルの料理が提供される。
 料金は1名あたり1,800ペソから8,900ペソである。3名以下の場合は1名あたり2万円を超える料金設定となっており,フィリピンの物価水準を考慮すると非常に高価である。

 B その他
 この他にも温泉,洞窟探検,セーリング,リバークルーズ,マングローブの植林,19世紀に建造された灯台の観光,スイスマッサージ,バードウオッチング,フライングフォックス(オオコウモリ)のウオッチングなどが行われている。

1泊2日ツアーの内容

1泊2日ツアーの料金体系


(4)漁業者の役割
 漁業者もエコツーリズム事業へ参加している。ただ,漁業者本人は漁業操業をしているため,漁業者の婦人が参加するケースが多い。漁業者のエコツーリズムに果たす役割は,ツアーガイド,ハンド・クラフトの販売,海岸の清掃,漁獲物の提供である。
 なお,マニシパルでは,漁業者を対象に,観光産業への関わりや漁獲物の加工方法などを教育する"Fisheries school"を開講して漁業者の参加や役割を拡大する構想を練っている

3)訪問客
 毎週末,Iloilo Cityの語学学校に通う韓国人が10名から20名のグループで訪れている。
 また,毎年,シンガポールから22名から30名ほどのグループで3週間ほどホームステイに訪れる。施設建設の手伝いなどをしている。
 1〜2週間前には,ミンダナオ島のダバオ市からエコツーリズムの取り組み状況の視察旅行のグループが訪れた。
4)エコツーリズムのインパクト
 不明,追加調査が必要。

5)今後の課題
 コンセプシオンへのアクセス改善を目的としたインフラの整備が重要である。

付録


コンセプシオンのマニシパル・ホール


コンセプシオンの街並み


コンセプシオン・マーケット


干物


魚市場


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