Welcom to My Homepage

index || 私とは誰か || 私の研究 || 講義案内 || フランス語ドリル || 映画採点簿

Panurge掲示板 || ヴァーチャル・U・フランス語 || 更新歴 || リンク



2000年の映画採点簿


2000年で一番良かったのは ALMODOVAR『オール・アバウト・マイ・マザー』

この映画はスペイン映画ですからタイトルをわざわざ英語に翻訳しないで、「母の総て」ぐらいにすべきではないでしょうか。




9月1日広島市映像文化ライブラリー Pascale FERRAN『死者とのちょっとした取引』 Petites Arrangements avec les morts

タイトル通り、「死」にとらわれた三人の主人公が一つの時間と砂浜に作った「砂の城」をめぐって繰り広げられる三部からなる作品である。一つの時間を共有しながら、フラッシュバックで各々の主人公の過去に遡りつつも、物語は単に平行に三つ並べただけでなく、最後にはこの「死」を克服していくまでを描いている。脚本にA.デプレシャンが協力しているせいか、物語の形式と構成が緻密で、繊細なカメラの動きと映像の美しさによって「死」とともにその裏返しの「生」への不安定な情緒を見事に映像化している。この繊細さはさすがフランス映画といった感があるが、第三部の超現実的なシーンは映像による説明のし過ぎでいただけない。7点



8月1日横川シネマ Luc DARDENNE et Jean-Pierre DARDENNE『ロゼッタ』 Rosetta

「肉弾」となって「仕事」、「母」、「私」を取り戻そうとする少女の物語。「ひたむき」などという言葉は通用しないもっと必死で、せっぱ詰まった世界がここにはある。音楽で飾ることなく、説明もすることなくカメラは彼女を追う。二人の監督は容赦なくロゼッタに現実をぶつける。思わず自分も失業したらと考えてしまうほどだ。しかし、観る者は単に彼女の物語を追う者ではない。そうではなくて、彼女の現実を一緒に生きることで彼女の救いとなる。途中、ロゼッタが自分に「君」(tu)で呼びかけるシーンがあるが、「君」はロゼッタであると同時に私(達)であり、他方、ラストシーンで裏切られた「彼」がバイクに乗って執拗に追い回すが、カメラはロゼッタを追うことで「彼」の姿を映さず、泣き崩れたロゼッタがこちらを振り向く時には、カメラは「彼」と私(達)の目となる。その時、うなり続ける「彼」のバイクは一つの叫びとなって、死を決意させるほどもはや失うものがないゼロのロゼッタを私(達)の方に繋ぎ止める。周到な脚本に支えられたこの映画を語り出したら切りがない...9点



7月5日Tollywood Jacques RIVETTE『王手飛車取り』Le Coup du berger 

私が生まれる前の1956年の16ミリ30分作品。現在ならさしずめE.ロメール作品を短くした切れの良いコント(conte)。随所に映像の美しさを感じさせてくれる。ことにV.ヴィトリとJ.-C.ブリアリの別れのシーンでカメラが引いていくところは絶品。このような質の良い短編映画を専門で上映する下北沢の映画館トリウッドには拍手を送りたい。6点



6月12日サロンシネマ・1 Pedro ALMODOVAR『オール・アバウト・マイ・マザー』All about my mother

超極彩色のスタイリッシュで、限りなくカッコイイ「男不在」映画である。「性」を越えた/越えない「友情」は『ガープの世界』以来憧れているが、この母であり女(おんな)には思いっきり応援したい。文句なしの満点。見終わってすぐにもう一度観たいと思った映画は久しぶりである。早くも今年のベストワンか?10点



6月4日ユーロスペース Fruit CHANG『花火降る夏』去年煙花特別多

1997年の香港返還によって、中国と香港と英国のボーダーに投げ出された元英国軍「香港人」の物語である。香港映画の娯楽的エネルギーを継承して、フルーツ・チャン監督はユーモアを散りばめつつ、彼らを鋭く描く。時には叙情的に。しかし時代に翻弄されるとは何と悲しいことだろうか。全ての「香港人」がこの1997年夏の夜に見上げる花火は、逆に、神のごとく優しく彼らをまるで「花火のもとでの平等」とでも言っているのかのように輝く。8点



5月19日ユーロスペース Jean-Luc GODARD『映画史第I部』Histoire(s) du cinema

今でも圧倒的な映像の洪水とともにあの電動タイプライターの音が耳に残る。いつもゴダールの映画にはコメントに窮するが、遠くの映画の「真実」を見続けている姿は圧倒的で、悪しき国体のマスゲームの演出にうつつを抜かす大林宣彦とは違う。(大林、早く目覚めよ!)今回は、とりわけ「第2章」(Une histoire seule)が美しかった。飛躍と荒々しさの中に、繊細さを見事に集中させる。もはやここには物語はなく、かけがいのない音とスローなモンタージュが走るだけだ。8点



5月11日シネ・アミューズ SABU『MONDAY』

快調、快調。今日本映画界で最も乗っている役者と監督の組み合わせ。以前からの動と静、強と弱のコントラストが強調され過ぎとは感じつつも、やはり切れ味は鋭い。ラストシーンもだが、サブの日常的な細部の観察力には驚かされる。ただ、今回の作品は各エピソードの関連や、「死神(?)」の描き方に難点がないわけではない。笑いという点では、堤と「殺し屋」大杉の掛け合い(『POSTMAN BLUES』)が一歩上か。8点



4月24日サロンシネマ・2 Patrice LECONTE『橋の上の娘』La fille sur le pont

『イヴォンヌの香り』につながるLECONTEの「官能」駄作シリーズ。こんなのはやめてもらいたい。唯一の救いはDaniel AUTEUILの才気走った演技か。こんな映画を薦めた学生諸君ゴメンナサイ。1点



4月10日サロンシネマ・2 Francis VEBER『奇人たちの晩餐会』Le diner de cons

Jacques VILLERETが登場する冒頭のTGVに象徴されるように、物語は会話を含めて猛スピードで軽快に進む。言葉遊びも面白く、独りよがりなフランス人がデフォルメされて(?)堪能できる。とりわけ、査察官どうしの会話は最高。DEPARDIEU、AUTEUIL、そして今回のLHERMITTEが共演するVeberの次回作 Le Placardが楽しみである。8点



4月4日テアトル新宿 黒沢清『カリスマ』

朽ちていくものの美しさとこれほどの緊張感を日本映画で生み出すことができる黒沢清に脱帽。他の表面的な「悪意の連鎖」日本映画にはない深みがあることは間違いない。最後の役所広司のセリフには絶望感よりはすがすがしさを感じた。9点



3月6日サロンシネマ・2 相米慎二『あ、春』

雰囲気は良い。ラストもコントConteとして申し分ない。でも、何かが足りないような気がする。これなら『お引越し』のラストの方を買おう。6点



2月18日シネツイン Leos CARAX『ポーラX』Pola X

BERTOLUCCIの『シエルタリング・スカイ』のようにつらい自己発見の旅。自己からあらゆるものを削ぎ落とし、他者を巻き添えにする。映像は相変わらず美しいが、Deneuveの起用や、演出上の小細工に気になる点が残った。相変わらずCARAXのバイクには「死」が漂い、「母」の死のシーンはCocteauの映画『恐るべき子供達』のアガートの死を連想させる。7点



1月6日広島名画座 Giuseppe TORNATORE『海の上のピアニスト』The Legend of 1900

船の中という小さな世界に「世界」の全てを見たいという気持ちはよく分かるが、やはりイタリア語で「世界」が見たかった。単純で深みのないアメリカ映画化されたトルナトーレは御免である。3点

2006年の映画採点簿

2005年の映画採点簿

2004年の映画採点簿

2003年の映画採点簿

2002年の映画採点簿

2001年の映画採点簿


hirate@hiroshima-u.ac.jp