1−1.プロジェクト説明、スケジュール管理・進捗管理

(1) 目的・目標・方針


 1) 目的 学生さんに以下のことを理解してもらう。
 ・研究活動における責任
 ・研究能力の到達点改善すべき研究能力
 ・プロジェクトの全体像
 ・ちゃんとした研究をするにはやることが多いこと
 ・研究を進めるには障壁があること
 ・計画的に研究を進めることの重要性
 2) 方針  
  @言うべきことの
   体系化
言うべきことのリストアップ
→言うべきことの優先順位づけ
  A定期的な
   コミュニケーション
一日一時間程度ずつ話す。
 【参考図書】
  ・任せる技術(小倉広、1日1回、週1回、164-169ページ)
  Bステップバイステップ  

(2) 研究をビジネスと捉えることの重要性


 1) 背景
  @背景 研究・実験ができない学生さんがいる。 
  A分析 研究ができない学生さんの多くには、以下の参考図書の「惜しい人」の行動が数多く当てはまる。
 【参考図書】
  ・頭がいい人の仕事は何が違うのか?(中尾ゆうすけ)
  B原因 限られた時間・研究費で最大限の成果を出すという意識がない。
→研究活動(仕事)の効率化に取り組まない。
→研究活動にムダが多い。
  C仮説 仕事が「できる人・できない人」の特徴は、大学院における研究活動でも共通しているようである。
 2) ビジネスとの対比
  @大枠 研究もビジネスである。Research is basically business.
  Aゴール設定
   ビジネス 限られた経営資源最大限成果を生み出す。
 経営資源:一般的には、ヒト・モノ・カネ・情報・時間などを指す。
   研究 研究も限られた研究資源最大限研究成果を出すこと。
 研究資源:ヒト・モノ・カネ・情報・時間など
  B研究サイクル
   サイクル 研究成果を出す。
学術論文出版する(執筆・投稿・査読・改訂・校正プロセスを含む)。
研究業績として認められる。
研究費を申請して獲得する(研究業績がないと研究費は獲得できない)。
→獲得した研究費(カネ)でヒトを雇ったり、モノを買ったりする。
実験ができる(モノがなければ実験ができない。ヒトがいなければ、実験や装置の管理ができない)。
→研究成果を出す。
→サイクルが続く(回る)。
 
    途切れると 研究が成り立たない。
 3) 言うこと 限られた時間の中で最大限の成果を出す。
→研究活動を効率化する。

(3) 研究活動における責任と行動方針の説明


 1) 背景 実験を失敗する。
→色々なものを無駄にしてしまう。
  ・共同研究者の方の時間
  ・自分の時間
  ・共同研究者の方の研究費
  ・自分の研究費(もとは税金)
 2) 基本方針
  @学生さん 周到な準備をすることなく実験に臨んではいけない。
ましてや失敗繰り返してはいけない。
  A自分 研究活動における責任を学生さんに説明せずに曖昧にしたまま研究プロジェクトを始めてはいけない。
 3) 基本的な行動方針
  @文献の調査 文献をよく調べる。
  A予備実験 予備実験(Test Experiment)をする。
  B実験の曜日 十分に自分ひとりで不測の事態に対応できるようになるまでは、土曜日日曜日休日に実験をしない。
  C実験の時間 十分に自分ひとりで不測の事態に対応できるようになるまでは、早朝に実験をしない。
 4) 失敗実験後の方針
  @回収試料 失敗の原因を見つけるために注意深く観察する。
失敗の原因の手掛かりを見過ごしてはいけない(No Overlook)。
  A失敗した次の実験 加熱に失敗した実験の次の実験では経験豊富な方に加熱中に一緒にいてもらう。
前兆(Precursor)の有無を見てもらう。

(4) 到達点と改善すべき研究能力の説明


 1) 研究能力 学術論文投稿規程に準じてセメスターレポートを書ける。
改善すべき研究能力の説明
 2) 執筆能力 学術論文、博士論文、修士論文、卒業論文、セメスターレポート、学会発表の要旨などなど。
執筆能力が低い場合、学術論文が掲載拒否になる。
博士論文、修士論文、卒業論文、セメスターレポートの点が下がる。
【参考図書】
 ・科学者として生き残る方法(科学とライティング:総論、246-253ページ、F. ロージ・T. ジョンストン、18-19ページ)

(5) プロジェクトの説明


 1) 自己紹介
  @目的 信頼関係の構築。
 【参考図書】
  ・任せる技術(小倉広、無理難題が言える関係をつくる、100-106ページ)
  A方針
   自己紹介 改めて自分から自己紹介する。
   他の人への紹介 (廊下・実験室などで)他の構成員の人たちに紹介する。
 2) 教育方針の紹介 I teach not only how to do multianvil experiments but also philosophy behind the experiments.
 3) プロジェクトの紹介
  @プロジェクトの紹介 準備したプレゼンファイルを使用してプレゼンする。
  A議論 プロジェクト内容について議論する。
 4) 教材 準備しておいた教材を渡す。
 ・選んでおいた教科書(Ito など)
 ・お手本になる学術論文
 ・テキスト
 ・マニュアル

(6) 宿題


 1) お手本論文の要約
  @目的 @プロジェクトの全体像の把握
A論文投稿に必要なデータとその解釈のの把握
  A注意事項 学術論文は批判的に読むようにする。
【理由】
 ・誤りがあることがある(書いてあることが正しいとは限らない。エラッタが出ることもある)。
【その理由】
 ・事実誤認
 ・計算間違い
 ・解釈に誤りがある。
  B出来具合 完璧でなくて良い。
 【参考図書】
  ・ダンドリ仕事術(吉山勇樹)
   (完璧ではなく、「良い加減」な仕事を!、30-31ページ)
   (一発OKを目指さない、54-55ページ)
  C締切 締切を自分で作る。
 【参考図書】
  ・ダンドリ仕事術(全ての仕事にデッドラインを!、22-23ページ、吉山勇樹)
 2) 予習・復習 予習復習(自学・自習)を促す。
 →教材に書いてあることを調べて理解することとの宿題を出す。
 3) 記録
  @メール・付箋 記録として残る(言った言わないにならない)。
  A実験ノート 記録として残る(言った言わないにならない)。

(7) 研究の進め方の説明


 1) 目的 ちゃんとした研究をするにはやることが多いことを分かってもらう。
中途半端なこと・手抜き(Corner-cutting)は誰でも出来る。
【ダメな例】
 いい加減中途半端なこと・手抜きをする。
 →評価が下がる。
 2) 行動方針 ゴールを設定する。
 →全体像を把握する。
 →ブレイクダウンする。
 →ステップバイステップで取り組む。
 【参考図書】
  ・ダンドリ仕事術(吉山勇樹)
   (仕事はGPDCAサイクル!、80-81ページ)
   (ゴールまでの道のりを細切れに考える!、74-75ページ)
 3) 研究プロセスの説明
  @構想・企画 Conception
学術論文を読む。短い総説を書く。
Design
  A実験・分析 Data Acquisition
Data Analysis
Interpretation
  B論文執筆 Drafting a manuscript
Revising the manuscript
Finalizing writing of the paper
 4) やることの
   リストアップ
The following steps are necessary to be finished in this semester:
  @構想  ・学術論文を読む。
 ・研究の重要性を理解する。
   実験計画 出発物質の組成
目標圧力、目標温度、目標温度保持時間、酸素分圧、目標粒径、含水量
加圧時間、脱圧時間
実験手法についての情報収集(学術論文、他の人の経験)。
発表スライドを作成する。
   高温高圧実験の
   設計
アンビル先端長。
圧力媒体の大きさ。
   分析手法
  A実験・分析  ・Visualization of IR data
 ・Water content calculation
 ・Hardness measurement
 ・FE-SEM measurement
 ・Hardness calculation
 ・Comparision of the hardness data with early studies
 ・共同研究
 ・Presentation skills
  B論文執筆  ・Writing a manuscript

(8) 知恵の共有と障壁の回避


 1) 目的
  @目的 知恵・経験知に基づいて研究を進める上での障壁を回避し効果的に研究を進めること。
学生さんの努力・苦労をムダにせず、研究成果を出せる仕組みを作る。
 【参考図書】
  ・How to Get a PhD(E.M. Phillips and D.S. Pugh)
   (How not to get a PhD、38-52ページ)
  ・ダンドリ仕事術(吉山勇樹)
   (振り返りとナレッジベース化を徹底!、96-97ページ)
   (ダンドリ力をアップさせるための気付き力!、148-149ページ)
  ・孫子の兵法経営戦略(長尾一洋)
   (社内の業務ナレッジを蓄積し、組織レベルを高めよ、132-133ページ)
  A諺・常套句 【障壁に対する準備の重要性を教えてくれるもの】
 ・転ばぬ先の杖。
 ・石橋を叩いて渡る。
【障壁の存在を教えてくれるもの】
 ・人生そんなに甘くない。
 ・そうは問屋が卸さない。
 2) 方針
  @蓄積 知恵・経験知を蓄積する。
他の人の失敗から学ぶ(代理経験・疑似体験を活用する)。
  Aデータベース 知恵・経験知のデータベースを作る。
  B共有 知恵・経験知を予め教えることで、余計なトラブルムダな手間をなくす。
  C予想 研究を進める上での障壁予想する。
 (困難、落とし穴、失敗、思い込み、脅威、Trap、Communication barrierなど)
  D行動 障壁を回避するための対策を立てる。
 (障壁に挑まない・避けるという選択肢を十分に考慮する。)
 3) 障壁の候補
  @出発試料の準備 ・試料が大気と化学反応する(酸化、含水化、炭酸塩化)。
  A高圧実験準備中  ・実験セルアセンブリー部品が作れない。
  ・金属箔カプセルの成形に失敗する。
  ・金属箔カプセルの溶接に失敗する。
 ・在庫が切れている
  ・ドリル
  ・金属箔
 ・実験セルアセンブリー部品の紛失・破壊
 ・X-Y ステージが動かない。
 【原因の候補】
  ・ダイアルと軸のねじが噛んでいない。
  B実験中
   全体 ・制御ソフトウェアと計測機器の通信が正常に行われない。
・測定ソフトウェアと計測機器の通信が正常に行われない。
   加圧失敗 プレスが正常に動作しない(暴走する)。
制御ソフトウェアが正常に動かない。
ブローアウト
・二段目アンビルの破壊
   電気抵抗測定の
   失敗
・電気抵抗測定回路の不通
 【原因の候補】
  ・試料と抵抗測定用電極が絶縁される。
  ・電極アンビルと電極の配置を間違える。
  ・抵抗測定用電極が切れる
・抵抗測定用電極が短絡する
 【原因の候補】
  ・抵抗測定用電極どうしが接触する。
   加熱不良 ・電圧の制御不良
・電圧の上限越え
   測温不良 ・加熱回路の不通
 (電極アンビルと電極の配置を間違える。)
・熱電対線の切断
・熱電対回路の短絡
冷却水の停止(配管の詰まり)
  C実験後
   アセンブリー回収時 キュービックアンビル装置を使った実験後の圧力媒体の形状が立方体でない
 【原因の候補】
  ・アンビルアライメントが崩れている。
・川井型マルチアンビル装置を使った実験後のガスケットの厚さ均一でない
 【原因の候補】
  ・アンビルアライメントが崩れている。
・6-6加圧方式の実験で加圧初期にアンビルガイド外れる
 【原因の候補】
  ・アンビルガイドがちゃんと組めていない。
   試料の回収 ・試料の紛失(床を探すはめに。とほほ…)
・単結晶試料の破壊
   試料分析後 ・試料の混染の発覚(数カ月が水の泡に。とほほ…)
・試料の非晶質化

不明相の出現

(9) スケジュール管理


 1) 重要性
  @研究の期間 研究はある一定期間内に終える必要がある場合がほとんどである。
 ・修士課題研究
 ・博士課題研究
 ・短期滞在研究
 ・長期滞在研究
  【ダメな例】 運任せ
 →周囲の状況に振り回される(自己中心的な人に利用される)。
  【ダメなパターン】 締切直面してから考える。
 →情報収集し考える時間が足りない。
 →準備不足になる。
 →最善の選択が出来ない。
【参考図書】
 ・科学者として生き残る方法(序論、13-23ページ、F. ロージ・T. ジョンストン)
 2) 方針
  @状況把握 選択の場面が多いことを認識する。
選択に役立つ情報を収集する。
好機を予測する。
 【参考図書】
  ・科学者として生き残る方法(F. ロージ・T. ジョンストン、18-19ページ)
  A計画的な行動 事前に計画を立てる。
翌日にやるべき作業を付箋裏紙に書いておく。
 【参考図書】
  ・ダンドリ仕事術(明日やるべきことを一覧にしておく、70-71ページ、吉山勇樹)
  B自分で スケジュールは自分で管理すること(僕はあなたの秘書ではありません)。
  C研究指導の
   スケジュール
相談して決める。
  D日程 【博士課程後期】 3年=1095日→1%11日→1ヵ月=2.7%
【1セメスター】 半年=183日→1%1.8日→1ヵ月=16%
 3) 生活セットアップ
  @生活セットアップ 引越後は忙しい。数カ月は忙しさが続く。寮なら簡単。
住居探し・契約、(家具付き物件でない場合は)家具の購入も。
健康保険、銀行口座開設、電気・水道・携帯電話の契約など。
言語の習得(英語、ドイツ語など)。
  A手続き 引越後は忙しい。
手続きの問題が起きると心のゆとりがなくなる。
住民登録、滞在許可(ビザ)など。
アメリカ合衆国では、J-1 ビザ、ソーシャルセキュリティーカード。
国際センター(International Office)
 4) 長期的スケジュール
  @期間(BGI) BGIの修士課程:1セメスター(半年間)
BGIの博士課程:3年
  A期間(日本) 学部:              4年目が多い(3年目の途中からの場合もある)
博士課程前期(修士課程):2年
博士課程後期(博士課程):3年
  B期間(一般) 博士研究員:         2年程度の契約が多い。
短期滞在者:         数カ月
  C授業(学生の場合) ・ いつから始まるか
・ いくつ受けるか(セメスターごとに少なくなる)
・ どのくらい宿題があるか(やり残しがあるか)
・ いつ終わるか
 ↓
授業が始まっていないときに研究のセットアップを進めるだけ進めておく。
 5) 短期的スケジュール
指導教員・技術職員・お世話になっている学生さん・博士研究員さんのスケジュールを考慮する。
  @休日 ドイツ(日本)の休日(カレンダーをチェック)。
初心者は休日・前日に実験予定を入れない(×助けを呼べない)。
イースター。
  A休暇 指導教員・技術職員の休暇。
  B研究指導を休む日 ・ 土曜日・日曜日・休日
・ 出張(学会・放射光実験)
・ 休暇
  Cお客さん・飲み会 お客さんとの議論・ラボの紹介。
飲み会(と二日酔い)。
  D研究指導を
   しない時間帯
午前9時前(研究指導の準備、自分の研究を進めるため)
午後5時半以降(片付けをして、家に帰るため)
  E休憩・食事 1時間半に1回は休憩を取る(疲れ切らない)。Take a rest.
昼食(12時過ぎには片付け始める)。
夕食(午後5時半過ぎには片付け始める)。

(10) 進路


 1) 目的 選択の場面に備える。
 2) 進路  ・どこの修士課程に進学するか
 ・どの指導教員を選ぶか
 ・どこの博士課程に進学するか
 ・どの指導教員を選ぶか
 ・どこで博士研究員をするか
 ・どんな受け入れ教員を選ぶか
 ・どこの公募に応募するか

(11) 進捗管理


 1) 段階分け ブレークダウン。
 【参考図書】
  ・任せる技術(小倉広)
 2) 考慮に入れること
  @時間がかかること
   実験装置、分析機器
   のマシンタイム
予約からマシンタイムまでの時間
   製作依頼 製作依頼から完成までの時間(分析試料、パーツ)
   物品の発注 欲しいときに間に合わせる(自分の使いそうなものは早めに注文する)。
  A教職員の休暇
  B偶発的なこと
   装置・機器の故障 装置・機器の故障を考慮に入れる。Out of order
 装置・機器が故障していないうちにデータをためておく。
   停電 夏場は雷で実験装置が止まることがある(瞬時電圧降下、瞬停)。
 3) 進捗の目安
  @1カ月目  前半:試料合成(マルチアンビル装置)、試料測定に関する参考論文の読解
 後半:単結晶の方位出し(3個)(単結晶X線回折)、試料測定に関する参考論文のまとめの作成
  A2カ月目  前半:単結晶の方位出し(3個)
 後半:化学組成分析(EPMA、標準偏差の計算)
  B3カ月目  前半:含水量測定(赤外分光法)、セメスターレポートの目次の作成
 後半:硬度測定(硬度試験機)、セメスターレポートの手法の執筆
  C4カ月目  前半:圧痕サイズ測定(FE-SEM)、セメスターレポートの結果の図表作成
 後半:硬度測定の追加、はじめに・議論に関する参考論文の読解
  D5カ月目  前半:圧痕サイズ測定の追加、結果の図表
 後半:
  E6カ月目  前半:セメスターレポートのはじめにと議論の執筆。
 後半: