2−2.実験のお手本と教わり方・実験室での行動規範の指導

(1) 背景


 1) 困ること 困った学生さんを教えていると以下のことが起きる。
  @誤った理解  ・誤解(教えたことを間違って理解する。都合の良い解釈をする。Misunderstanding)
 ・事実誤認
 ・何となく分かった気になり、本質(Essence)を理解しようとしない
  A誤った行動  ・自分勝手な行動をする(Selfish)。
 ・後片付け掃除をしない。
 ・実験室・準備室で飲食する(弁当箱が見つかる)。
 ・手を抜いた実験・分析をして使えないデータを得る。
 ・実験室から物品(工具イス)を持ち出して返さない。
 ・居室から物品(ポスターチューブ)を持ち出して返さない。
 ・実験セルアセンブリーパーツを整理しない。
 ・実験試料・出発物質を整理しない。名前を書かない。
 ・データを整理しない。
 ・実験の通し番号を間違える。
  B装置・機器の
   不適切な使用
 ・装置・機器を誤用する(Abuse)。不適切な(Improper)使い方をする。
 ・真空高温デシケータの中をゴミだらけにする。
 ・液体窒素(Liquid Nitrogen)の取り出し口を締め切らない。
 ・流し(Sink)にゴミを捨てる。
 2) 結末 雑な仕事をする人は研究結果を信用してもらえない。
 ・所属機関の実験室で同僚の学生・ポスドク・教員の方に。
 ・出張先の研究機関で周りの学生・ポスドク・教員の方に。
  →学会などで雑な仕事をするとになる。
  →所属研究機関・研究室の評価下がる。とほほ…。
 3) 要注意の部屋  ・高圧実験室
 ・実験準備室
 ・試料準備室
 ・試料研磨室
 人数が多く、状況から困った人を推定できても困った人を特定しづらい。
 4) 原因
  ×教わる能力 学生さんの教わる能力が低い。
  ×自己分析能力 学生さんが自分の教わる能力が低いことを分かっていない。自己分析能力が低いから。
  ×これまでの経験 これまでの環境では許されていた。これまでの教育の水準が低かった。

(2) 基本方針


 1) 重要性
始めが肝心。
 2) 教育方針
  @オンザジョブ
    トレーニング
On the Job Training, OJT
やって見せる。
→やらせてみせる。
→考えていないことを指摘する。
→(考える能力のある人は)考えるようになる。
 【参考図書】
  ・これだけ!OJT(中尾ゆうすけ)
魚を与えるな。釣り方を教えよ(授人以魚 不如授人以漁)Do no give fish. Teach how to fish.
  A何回でも言う 大事なことは何回でも言う
  B定期的な
   コミュニケーション
少しでいいから話・メールをして方向性を確認する。
出来れば1日1回。
質問を聞く(Do you have any question?)。
 【参考図書】
  ・任せる技術1日1回、週1回、164-169ページ、小倉広)
 3) 注意喚起
  @貼り紙 下記の貼り紙を貼る。
  Aメール 下記のメールを送る。

(3) 実験室での行動規範の指導、注意喚起


 1) そもそも
  @責任 責任明確化Clarification of Responsibilities
The person irresponsible for consequences of his/her behaviors should not use sharing laboratory equipment/apparatuses in the multianvil laboratory.
 2) 基本
  @飲食 Eating and drinking are not allowed in any laboratory!
  A安全管理(Safety) ・戸締り
  B節約(Economy) ・セルアセンブリーパーツの名称書く
・セルアセンブリーパーツを捨てない
 3) 物品 ・掃除前のアンビルには名前を書いた紙を置く。
 (×掃除していないアンビルの放置)
・バイアルの内容物の名前をバイアルに書く。
 (×内容物の不明なバイアル)
 4) 装置
  @高温真空デシケーター
   貼り紙 禁止事項(Prohibited Matters)
 ・エタノールを含んだものを入れること(Putting Ethanol-Containing Containers in)1
 ・を含んだものを入れること(Putting Water-Containing Containers in)1
 ・プラスティックを入れること(Putting Plastic in)2
 ・真空引かないこと(Not to Vacuum)3
  1 These actions cause pollution/contamination of our samples Our samples become useless..
  2 Plastic burns. The burning causes useless area.
  3 Some samples react with H2O in air and become useless.
   メール Our vacuum oven is quite dirty. Dirt in the vacuum oven leads to pollution/contamination of our samples. The pollution/contamination of our samples leads to waste of our time and money. The waste of our time leads to serious consequence because contracts of almost all the users are limited. Therefore, the person causing this situation should immediately clean the dirt in the vacuum oven.
 5) 棚 棚を閉める。
 →片付けができない人だと思われる。
 →印象が悪くなる。

(4) 準備


 1) 準備しておくもの
  @テキスト 印刷しておく。
  Aマニュアル
  B学術論文 ・Keppler and Frost (2005)。
・Ito (2007)。
  Cセルアセンブリー
  D二段目アンビル
 2) リスト 実験室でのベストプラクティスリスト(List of Best Practices at our Lab)
 @コミュニケーション(Communication)
  ・自己紹介する。
  ・実験室にいる人の名前を覚える。
  ・困っている人には教えてあげる。
 A学習(Learining)
  ・教科書を読む。
  ・ウェブ検索する。
  ・専門用語を覚える。
  ・実験ノートに重要なことを書く。
  ・時々質問することで正しく理解できているかを確認する。
 B学習方法(Learining Skills)
  ・予習する。
  ・復習する。
  ・効率的な教わり方を身につける。
  ・効果的な教わり方を身につける。
 C研究の進め方(Research Procedure)
  ・指導教員と実験方針・実験結果について議論する。
  ・実験室にいる人にどのような実験をしているか聞く。
  ・代理経験を集める。
  ・学術論文を書く。
 D消耗品(Consumables)
  ・消耗品をムダに使わない・節約する。
  ・セルアセンブリーパーツは丁寧に注意深く扱い壊さない。
  ・セルアセンブリーパーツは丁寧に注意深く扱いなくさない。
  ・二段目アンビルを割ったときには記録表に記録する。
  ・消耗品を補充する。
 E行動規範
  ・実験室のルールを守る。
  ・実験ノートに実験の詳細を書く。
  ・実験ノートは読める時で書く。
  ・掃除する。
  ・片付けする。
  ・菅や箔を探すときには外径・内径や厚さを明らかにする。
  ・接着剤でものを机の上にくっつけない。
  ・固化前のエポキシを流しに流さない。
  ・ごみを流しに流さない。
 3) 不用品の廃棄 使用しない段ボール

(5) 実験室でのコミュニケーション環境の構築


 1) 目標
教えあう関係・議論する関係を構築する。
 ・代理経験を得る。
 ・アナロジー思考により実験の失敗を未然に防ぐ。
 【参考図書】
  ・任せる技術(ストーリーで横シャワーを起こす、208-213ページ、小倉広)
  ・OJT完全マニュアル(松尾睦)
   (育て上手のOJT指導者はOJTを「線」ではなく「」で展開する、46-47ページ)
   (部下の「居場所」を確保してあげることが成長意欲をかき立てる、48-50ページ)
 2) 他のメンバーへの紹介
  @ダメな例 指導教員・受入教員が紹介しない。本人も自己紹介しない。
 →周りの人から知らない人が実験室にいるなぁと思われる。
 →何か困っていても関係ないなぁと思われる。
  (急いでいるから助けている場合ではないなぁと思われる)
 →困っていても助けてもらえない
 →研究が進まない。
 →卒業・修了に支障がでる(とほほ…)。
  A指導教員から 実験室にいる人に紹介する。
 ○○大学から○○で来ている○○さんです。
 「困っていたら助けてあげて下さい」と言う。
  B本人から 自分からも自己紹介するように言う。
 3) 名前 指導教員・受入教員(お世話になっている人、Superviser)の名前は覚える。正しく発音する。
学生さんが間違ったことをしているときに指導教員・受け入れ教員に連絡を取ることが出来る。

(6) 掃除・片付け(整理整頓)


 1) 背景
掃除・片付け(整理・整頓)がいい加減な人は研究進まないことが多い。
学生・ポスドクさんを研究指導・観察しているといくつかの(いくつもの!)因果関係が認められる。
 @迷惑をかける→見捨てられる  (周りの人との関係)
 A気づきがない→実験ができない (自分自身の研究能力)
 B試料・パーツの紛失・遺棄    (自分自身の研究能力)
  @迷惑をかける
   →見捨てられる
周りの人の迷惑になる。
 →周りの人に見捨てられる
 →実験・分析の失敗が増える。
   ダメなパターン 掃除・片付けをしない
 →周りの人がその人の分まで掃除することになる。
 →周りの人の時間を使うことになる(迷惑をかける)。
 →実験室の周りの人への思いやり・リスペクトないと思われる。
 →周りの人からのサポートなくなる
   ・困ったときに周りの人に助けてもらえない
   ・実験・分析のコツを教えてもらえない
 →実験・分析の失敗増える
 →研究進まない
 →卒業・修了に支障が出る。とほほ…。
  A気づきがない
   →実験ができない
ポイントに気づかないことで実験・分析の失敗が増える。
実験・分析が上手くできた方が良いのにね。
   ダメなパターン 掃除・片付け(整理・整頓)をしない。
 →掃除しながら掃除するべきポイント考えない
 →重要であるか(押さえておくべきポイント)を考えない(注意深い行動ができない)。
 →重要なこと(押さえておくべきポイント)に気づかない
 →重要なことを押さえた行動できない
   ・単純ミスが増える。
   ・実験や分析技術・知識・技能が改善しない
 →実験・分析の失敗増える
 →卒業・修了に支障が出る。とほほ…。
  【参考文献】
   ・なぜ「掃除・片づけ」が人生に関わるのか-2-(牧野智和、PRESIDENT Online スペシャル)
  B試料・パーツの
   紛失・遺棄
パーツ・実験試料を無くす。折角作ったのに。折角実験したのに。数日分の労力がパー。
パーツ・実験試料を床に落とす。
パーツ・実験試料を間違って捨ててしまう。
 2) 方針
  @教育方針 掃除・片付けを徹底するように教える。Clean.
Think which student professors prefer, who keeps research circumstance dirty or clean.
背景も教える。
  A学生さんの方針
   掃除 実験室に行く。
 →何が必要で不必要かを考える
 →ものを必要なものと不必要なものに分ける
 →不要なものを捨てる
 →物事を判断するときに考慮に入れる選択肢減る
 →早く判断できるようになる。
   試料 安全な場所に置くようにする。
  B分析・観察 掃除をしない人を観察する。
周りの人の意見を聞いてみる。

(7) 行動規範(掃除・片付け以外)


 1) ×無駄づかい 大学における研究活動もビジネスである。
マルチアンビル装置を用いた高圧実験はお金がかかる。
マルチアンビル装置を用いた高温高圧実験は一回に2万円から7万円かかる。
無駄にしないように丁寧に注意深く実験準備と実験を行う(Be carefull!)。
学術論文を書くことで研究費を得ることが出来る。
得た研究費で実験用の消耗品を買うことが出来る。
学術論文を書けるようなデータを得ることが出来るように努力する。
良いデータが出た場合には学術論文を書く。
 2) 消耗品の補充 消耗品を一緒に補充する。
Now you have right to use consumables.
 3) 節約 Save material and money. Our budget is limitted.
 4) 実験ノート 再現できるかが重要(例、料理のレシピを見て、料理が作れるか)。手本を示す。
Repeatable?
 5) 証拠 証拠・事実(Evidence、Fact)を集めることに集中する。
論より証拠。百聞は一見に如かず(Seeing is believing)。
 6) 印象管理 研究者として望まれる振る舞いについて考えてみたらどうかと言ってみる。
印象管理(Impression Management)という概念を伝えてみる。

(8) 指導方針


 1) 指導方針の説明
  @基本方針 「知らなくても実験・分析が出来るけど、知っておいた方が良いことも教える(教育なので)」と言う。
I teach not only how to do multianvil experiments but also philosophy behind the experiments.
  A教わり方 「効果的・効率的に教わるには何をすべきかを教わって下さい」と言う。
Please learn how to learn something effectively and efficiently.
 2) 教え方の説明
  @第一段階 教える人が作業する。教わる人は作業しない。分からないところを質問する。
 ・ノートをとる(そのうち忘れるから)。
 ・忘れると時間がムダになる。
  A第二段階 教わる人が作業する。教える人は手助けする。
  B第三段階 教わる人が作業する。教える人は出来ていない所を教える。
 3) 教わり方の説明
  (効果的・効率的な)
Learing how to learn, learning skills
  0. 第ゼロ段階 作業の全体像を前もって把握する(予習)。
 マニュアルをパラパラ眺める(Have a short look at a manual of the machine)。
 作業をしている人の横で見せてもらう。
 →押さえるべき点はどこかを考える。
 →教わるときに質の高い質問が出来る。
  @第一段階 ・ノートをとる
 ・自分がそのうち教わったことを忘れるということを認知するべき。
 ・復習に必要。
 ・教わったことを忘れた状態で作業をすると実験に失敗しやすい。
 ・忘れて再び聞くのは時間のムダ。
  同じ時間で聞くなら理解が深まることを聞く方が効果的・効率的である。
  指導教員・教えてくれた学生・ポスドクの時間をムダに使っている。
・判断基準を教わることを重視する。
 ・自分で判断基準を知るためには失敗する必要がある。
 ・減らせる失敗は減らした方が良い。
  その分、新しい知見を得るために失敗・試行錯誤が必要なことをする。
・教わり方を知る。
 4) 全般 生き残るための知恵も伝える。

(9) 意思疎通


 1) 背景 相手の知らない単語・概念を伝えることは難しい。
伝わっているかどうかを判断するのも難しい。
なので工夫・対策が必要。
 2) 会話 質問を聞く。Do you have any question?
顔を合わせる機会を作る(熟知性の原則)。出来れば一日一回以上。
  @経験・知識 これまでに何をしたかを聞く。
 Q: What did you research when you were an undergraduate student?
 Q: Did you use something like this?
学術用語を知っているか聞いてみる。
  A実験中 大事なことはその場で言う
床に落ちた試料・パーツを探している人がいたら、掃除の大切さを説明する。
自分の研究実績を紹介する(研究が出来る人だとは思われていない)。
周りの人の研究実績を紹介する(研究が出来る人だとは思われていない)。
 3) 教材
  @テキスト・マニュアル テキストに沿って、音読しつつ、進めていく。
知らない単語の名称が伝わりやすい。例えば、これはこう呼ぶんだよ(We call this as this.)。
ひいては概念が伝わりやすい。
相手の反応を見つつその場でアップデートする。
その場でアップデートして作り方を教えておく。
  A学術論文 話に出た内容のまとめを作って見せて教えておく。(賢い学生はまとめの作り方を学ぶ。)
話に出た論文PDFメールで送る。
  Bウェブサイト アップデートする。
  C実験セルアセンブリー 確保しておく。
 4) 相手の実験ノート
伝わっているかの判断材料にする。
簡単な質問は書かせておいて自分で調べる宿題を出す。
 5) 宿題 テキストに書いてあることを調べて理解すること。

(10) 失敗対策・実験のこつ


 1) 心構え マルチアンビル実験は失敗に繋がる落とし穴が多い。
失敗の原因を知っておくことが成功実験に繋がる。
 2) 具体策
  @パーツ リング・チューブ状のセラミック製パーツは壊れやすい
  A掃除 試料・パーツはどこかに行く
どこかに行ってしまった試料・パーツを見つけやすくする。
机の上を整理する。作業で出たゴミを片付ける。床を掃く。
  Bガード 試料・パーツがどこかに行くのを防ぐ。
  C目印 アンビルに目印をマジックで書く。
出発試料(単結晶)の一面を鏡面研磨する。
 3) こつ 難しいことを簡単にする
  @静電気力
  A磁力

(11) 論理的思考方法


 1) 要点 難しいことを簡単にする
  @描画 絵に描いて考える。
  Aステップ分け
  B概算による
   全体像の把握
フェルミ推定。
例えば、1セメスターや一年間で出来る実験回数。
 週一で実験をしたら一年約50週あるので、年50回の実験が出来る。
 一年一編の学術論文を書こうと思ったら、予備実験も含めて約50回の実験のデータを使える。
 一年二編の学術論文を書こうと思ったら、予備実験も含めて約25回の実験のデータを使える。