2−4.高圧実験・試料分析の失敗・落とし穴への対策

(1) 背景


 1) 落とし穴
  @ダメなパターン 高圧実験とその実験試料の分析には落とし穴が多い。
→落とし穴のせいで実験・分析に失敗しやすい。
→失敗に言い訳だけする学生・博士研究員さんがいる(多い)。
→失敗の原因を考えず、対策を練らない。
→言い訳でその場をごまかせても、研究進んでいない
時間浪費する。
→時間が経つと求められる研究レベルが上がるので、むしろ後退している。
→卒業・修了に支障がでる(とほほ…)。
  A注意点 通常の学術論文には上手く行ったことだけが書かれている。
たまに苦労話が書かれている学術論文もある。
 2) 落とし穴の例
  @出発試料 ・出発試料の混染
・出発試料の大気との反応
  A実験回収試料 ・実験回収試料の紛失
・実験回収試料の遺棄
  B高圧実験 ・予期しない試料と周辺物質の反応
・加熱・測温の失敗
 (詳しくは下記を参照)

(2) 目的・目標・方針


 1) 目的 学生さんが学術論文の査読に耐えられるのデータを取得・整理できるようにする。
 2) 目標
  @実験の成功のため 落とし穴とその対策を理解する。
失敗がなくなれば成功する(はず)。
  Aより深く考える
 3) 実験準備前の準備
  @基礎知識 中学校・高等学校で学んだこと。とても役に立つ。
  A高圧物性の知識 常圧常温および高圧高温での相平衡図を調べる。安定相を調べる。
常圧常温および高圧高温での溶解度を調べる。
  B高圧実験の知識
学術論文に載っている成功しているセルアセンブリー真似る
   技術開発論文 実験技術に関する学術論文を読む。
  C代理経験 研究室セミナーなどで聞いた失敗談を記録する。
代理経験
最大限活かす
 4) 基本方針
  @助言はメモを取る 忘れる。
→同じ失敗を繰り返す
→実験データは使い物にならない。
時間実験費用無駄にする。
研究進まない
→各課程の卒業・修了に支障が出る(とほほ…)。
  ×自己中心的な行動 自己中心的な行動を取らない。周りの人から助言されなくなる。

(3) 周りの人に助けてもらう


 1) 背景
  @ダメなパターン 周りの人と仲良くしない。周りの人に敬意払わない
→いざというときに助けてもらえない。
  周りの人がそれじゃあ失敗するなと思っても助言しようと思えない。
落とし穴によく落ちる。
時間浪費する。
→修了に支障が出る。とほほ…。
 2) 助けてもらう 周りの人に助けてもらう。
 周りの人を動かす。スケジュールを考慮する。
 助けてもらう内容をちゃんと伝える。抜け・漏れ。
 言うこと
  助けたいんだけど、助けれないんだよね〜。I want to help you. But I cannot help you because….
 3) 行動方針
  @敬意を払う 周りの人とは仲良くする。周りの人に敬意払う
研究は人がしている。
→人は心で動いている。
  A相談 経験豊富大学院生さんに相談する。
→相談しているときに話に挙がったキーワード検索する。
→助言が正しいかどうか判断する。
→助言が正しいと思ったら試す
→試して上手く行かなかったら、博士研究員の方に相談する。
 (助言が正しいと思えなかったら)
→相談しているときに話に挙がったキーワードを検索する。
→助言が正しいかどうか判断する。
→助言が正しいと思ったら試す。
→試して上手く行かなかったら、教員の方に相談する。
 (助言が正しいと思えなかったら)

(4) 試料の取り扱い


 1) 出発試料の混染
  @ダメな例 出発試料に混染コンタミネーション)がある。
気付かずに実験する。
→実験試料を分析する。
説明のつかない分析結果が出る。
→実験試料の混染が分かる。
→どの段階で試料が混染したかを付きとめようとする。
→出発試料の混戦が分かる。
→実験データは使い物にならない
→時間と実験費用を無駄にする。
→研究が進まない
→各課程の卒業・修了に支障が出る(とほほ…)。
  A対策 出発試料に混染があると実験試料が台無しになるので、混染しないように最大級の注意を払う。
  B原因 捕獲岩からカンラン石粉末を作るときには混染しやすい。
 玄武岩、斜方輝石、単斜輝石、スピネルなど。
 2) 出発試料の
   大気との反応
  @金属鉄の酸化
  ACaOのCaCO3化 CaO と大気中のCO2 との反応。
合成試料に炭酸塩鉱物が混じる。
→実験データが使いものにならなくなる。

(5) 実験試料回収


 1) 実験回収試料の紛失
  @ダメな例 実験試料をどこかに飛ばしてしまう。
→床や机の上を探す。
→時間を無駄にする。
→研究が進まない。
→各課程の卒業・修了に支障が出る。
→とほほ…。
  A対策 実体鏡付近をきれいに掃除する。
ガードを作る。
面倒くさがって対策をしない場合。
試料を合成した時間・費用と対策にかかる時間・費用を比べてみる。
 2) 実験回収試料の遺棄
  @ダメな例 実験試料がどこにあるか注意をしない。
→実験試料を捨ててしまう
→ごみ箱をあさる。
→時間を無駄にする。
→研究が進まない
→各課程の卒業・修了に支障が出る(とほほ…)。
  A対策 実験試料を捨てない

(6) 予期しない試料の挙動への対策


 1) カプセルとの反応 安定に存在しない相を安定相として合成しようとしない。
 (Fe2SiO4組成のウォズリアイトを合成しようとしない)
 高圧高温での相平衡図を調べる。安定相を調べる。
 2) カプセルとの反応
  @Feの減少 Feの減少(Pt カプセルとの反応)(Costa and Chakraborty, 2008)。
  A融点降下 試料中のSとカプセルとの反応(融点降下)(川添, 2001 卒業論文)。
 3) 変形ピストンとの反応
  @例 Al2O3 ピストンとカンラン石・ウォズリアイト・リングウッダイトとの反応(Kawazoe et al. (2013) の予備実験)。
カンラン石とAl2O3 ピストンの境界にはスピネルが出来る。 
 4) 含水化
  @現象 ウォズリアイトは水を入れていなくても含水化する。
  A対策 貴金属カプセルで水の外部からの流入を防ぐ(Shimojuku et al., 2010)。
 5) 酸素分圧
   バッファーとの反応
酸素分圧バッファーとの反応(Ni の混染)。
 6) 単結晶試料の破壊 単結晶試料の破壊Costa and Chakraborty, 2008)。
 7) 液体試料の
   カプセルからの漏れ
  @例 玄武岩マグマの金属鉄カプセルからの漏れ
 8) 拡散源の腐食 NaCl (Costa and Chakraborty, 2008)。

(7) 測温の失敗への対策


 1) 失敗のパターン
  @熱電対と圧力媒体との
   反応
熱電対と圧力媒体との反応(Pt-B の相図を確認する)。
  A熱電対の酸化 熱電対表示温度(起電力)が下がる。
 2) 測温失敗への備え
  @温度−電力図・表 使用する予定の高圧装置の場所へ行く。
→使用する予定の高圧装置のランブックを探して見つける。
→使用する予定のセルアセンブリーを使用した実験を探して見つける。
→加熱記録・実験圧力(荷重)のデータを探して見つける。
→実験予定の圧力(荷重)に近いものをよる。
→5実験程度の熱電対表示温度ヒーター投入電力の関係をにする。
→熱電対表示温度が正しくないものがあるので、どのデータが正しいのかを吟味する。
→正しいと思われるデータは中を塗りつぶした記号で表す。
  ちゃんと測温ができてなさそうなものは中を塗りつぶしていない記号で表す。
→目標温度に達するために必要な電力値を計算する。
→実験温度を電力推定した場合の温度誤差を推定する。
→その図・表を加熱時に持ってくる
  A熱電対線の補強
  B測温原理の学習

(8) 加熱の失敗への対策


 1) 金属ヒーターの熔融
  @対策 ヒーター材質の高温高圧下の相図を調べる。
→実験温度圧力条件で固相か液相か確認する。
ヒーター材質−酸素系の高温高圧下の相図を調べる。実験温度圧力条件で固相か液相か確認する。
 2) 電圧上限への対応
  @症状 目標温度に到達する前に電圧がその上限(ドイツでは50 V)に達してしまう。
目標温度に到達できない。
目標温度での実験ができない
  A原理 電気抵抗 = 電気抵抗率 x 導体の長さ / 導体の断面積
電圧 = 電気抵抗 x 電流
  B対策
   方針 ヒーターの電気抵抗下げる
→ヒーターの断面積を増やす。
→どの程度ヒーターの断面積を増やせばよいか計算する。
   注意点 電流の上限にかからないようにする。
   期待される現象 ヒーターの電気抵抗を下げる。
→ある電流値でのヒーターの電気抵抗が下がる。
→失敗した実験の最大電力でのヒーターの電気抵抗が下がる。
→失敗した実験の最大電力よりも電力をかけることができる。
→目標温度に到達する可能性が上がる。


(9) 高圧実験の準備


 1) 実験条件の選定 ・圧力・温度・時間・組成は適切?
・カイネティクスの影響はある?
 2) セルパーツ
   ダメな例 ・失くす。
・壊す。
   原因 セラミクスパーツが壊れるという認識がない。
円筒状のセラミクスパーツを持ち上げるときに力を加えすぎている。
円筒状のセラミクスパーツにカプセルを詰めるときにムリな力を加えている。
   対策@ ピンセットの使い方を練習する。
持ち上げることができる最小の力を加えることができるようにする。
   対策A パーツをダメにしたときに備えて余分に作る。
 3) セルアセンブリーが
   組めない。
セルアセンブリーが組めない。
練習する時間を取る。練習する。コツを聞く。
 3) アンビル加圧面の
   選択
   対策 新しい角から使う。
   理由 新しい角の方が使用済みの角よりも破壊の危険が少ないので。
 4) 加熱電極の配置
   ダメな例 グラスエポキシ板に付けた加熱用銅箔電極が加熱電極用二段目アンビルに接していない。
→加熱が出来ない(とほほ…)。
   対策 グラスエポキシ板に付けた加熱用銅箔電極が体対角の二段目アンビルに接していることを確認する。
 5) ガスケットの板の
   厚さ出し
@リファインソーで目標の厚さに切り出す。
Aモデリングマシーンで平面研削して端の厚さを測る。
Bモデリングマシーンで接着剤の厚さを考慮して平面研削にかける。

(10) データ整理


データを系統的に整理する。
試料(測定対象)に番号を付ける。
ファイルの名前の付け方。1000は1kとすると短縮できる。
フォルダ構造の体系化
 【参考図書】
 ・科学者として生き残る方法(仕事は整然と、89-91ページ、F. ロージ・T. ジョンストン)
   実験ノート 手本を示す。
再現できるか(Repeatable?)が重要(例、料理のレシピを見て、料理が作れるか)。
まとめシート
研究のレベル上げ2:データ全般」も参照して下さい。

(11) セルアセンブリー設計など


 1) セルアセンブリー設計
   方針
    理解 各部分の役割を知る。各部分に求められる物性を知る。物理法則を知る。
高温高圧下における相図を理解する。相転移の有無を確認する。熔融温度を確認する。
各パーツ間の化学反応の有無を調べる。
    ステップバイステップ チックタックモデル
 新しく導入することをなるべく減らす。
 (例えば、新しい試料、新しいヒーター材質のセルアセンブリーを開発しない。)
 失敗したときに原因の究明が困難になる。
   加熱領域 等温領域(ZrO2 の黒色化、ソリダス)
   断熱体 LaCrO3 は断熱体の役割も果たす。
   製図 製作図(外形線、寸法線、寸法補助線)。
断面図。
   ガスケットの厚さ 圧力媒体の一辺の長さとアンビル先端長からガスケット厚さを求める式の導出。
ヒント@:正三角形と正八面体の断面図を描く。
ヒントA:三角形の重心。
   圧力媒体の一辺長 アンビル先端長とガスケット厚さから圧力媒体一辺長を求める式の導出。
ヒント:正八面体の断面図を描く。
   CAD モデリングマシン用。
   背面圧 アンビルの破壊と最大荷重の関係。
 2) コツ
   目印 出発試料(単結晶)の一面を鏡面研磨する。
アンビルに書く。
   静電気力 小さな試料は静電気力(Electrostatic force)でくっつける。

(12) 試料分析


 1) SEM
   高解像度 高解像度の像を撮れるようにする。
非点補正をする。
焦点(フォーカス)を合わす。
WD (Working Distance)を近づける。
   中心に配置 全体の中心を画像の中心に配置する。
   倍率 倍率を固定する。長さを測るときに便利。
 2) 分析試料作成上の
   注意事項
酸化。
 (カンラン石、リングウッダイト)
逆相転移
 (ウォズリアイトからカンラン石、リングウッダイトからカンラン石)
アモルファス化。
 (ブリッジマナイト)
脱水

原因
加熱。電子線照射。レーザー照射。

(13) 不具合対策(トラブルシューティング)


構成要素に分解して考える。
構成要素の役割を考える。
構成要素が役割を果たさなかったらどんなことが起こるかを考える。
現在起きている不具合(誤作動)と比較・検討してみる。

(14) 要点・こつ


難しいことを簡単にする。
 1) 全般
  @描画 絵に描いて考える。
上手くいっているものには変更を加えない。
変更を加えるときには元に戻れるように準備しておく。
どこまで変更を加えないでもOK かの線引きをしておく。
 2) ラボワーク 経験を得ることが重要である。
(失敗したら励ます。)