論文解説

論文解説:Microsatellite Marker Development by Multiplex Ion Torrent PGM Sequencing: A Case Study of the Endangered Odorrana narina Complex of Frogs.

*Igawa T, Nozawa M, Nagaoka M, Komaki S, Oumi S, Fujii T, and Sumida M. Microsatellite Marker Development by Multiplex Ion Torrent PGM Sequencing: A Case Study of the Endangered Odorrana narina Complex of Frogs. Journal of Heredity. 106:131-137 January 2015. [ DOI | http | PDF ]

 本研究では、集団遺伝学的解析において有用なマイクロサテライトマーカーの対象種ゲノムからの単離方法において、近年、進展の著しい技術である次世代シークエンサを導入し、安価にかつ、迅速に行う方法を開発した。

 マイクロサテライト領域は、ゲノム中に散在するシンプルな繰り返し配列(例:ATATATATAT)である。DNA複製時のコピーミスが生じ易いために、突然変異率が高い、また、PCR及び電気泳動法を用いて、二倍体生物では両方の親由来の遺伝子型を判別可能(共優性)、極微量のDNAで検出可能、といった特徴により、野生個体群の集団遺伝学的解析から、親子鑑定、犯罪捜査といった個体間の関係を調査可能な非常に有用な遺伝マーカーになり得る。ただし、マイクロサテライト領域を対象生物種のゲノムから単離し、その両端にPCRのためのプライマーを設計するためには、従来の方法では、クローニング、サンガー法によるシークエンスといった時間及び費用の掛かる方法を取らざるを得ず、ゲノム情報のない野生生物においては、導入に困難が伴った。

 そのような中、2010年頃に登場した次世代(超並列)シークエンスを利用すれば、莫大な数のゲノム断片の情報を得ることができ、その一部に含まれるマイクロサテライト領域からマーカーを設計することが可能になってきた。特に、比較的最近登場した次世代シークエンサの中でも Ion PGMは、シークエンスのためのライブラリ作成に必要な時間及びコストが節約できる点で優れたシークエンサである。そこで、本研究においては、まだ実用例の少なかったIon PGMシークエンサを利用し、新規方法による迅速で安価な開発を試みた。

 Ion PGMは約1Gbpものデータを一度に出力することができるため、3種のカエル類のゲノムを混合し、ゲノム断片の情報を網羅的に得た。その後、マイクロサテライト領域を選抜してプライマーを設計するプログラムを利用して、網羅的にマーカーを設計し、多型性を確認した。その結果、3種のカエル類において合計で61遺伝子座のマーカーを一度に設計することができた。また、1種あたりに必要な費用は多型性等の確認も含めても15万円程度で、期間も1ヶ月以内に開発可能であり、従来の別の次世代シークエンサを用いた方法よりも有用であることが確認された。さらに、この方法を用いて、西南諸島産絶滅危惧両生類であるハナサキガエル種群(Odorrana narina, O. amamiensis, O. supranarina, O. utsunomiyaorum)において実際にマーカー開発を行ったところ、複数種において有効で、十分な多型性を示す20座の理想的なマーカーが単離できた。本法は他の野生生物においても適応可能であることから、当該分野における注目度は高い。実際に本研究論文を見た国内外の研究者からの協力の要請があり、すでに共同研究に取り組んでいる。また本法によって、分子マーカーの利用が容易にできるようになり、将来的には様々な分野の研究者が簡単に遺伝子鑑定等を行うことも可能になると考えられる。

 本研究は、主に国立遺伝学研究所、野澤昌文博士との共同研究により行われた。また、研究成果は、当該分野の国際誌であるJournal of Heredity誌(5-year I.F. = 2.417)に投稿し、掲載された。

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